【完結】君を傷つけるつもりはなかったと、浮気者の婚約者が叫んでいます。

やまぐちこはる

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第9話

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「もうあのろくでなしの買い物に金を出すことはないぞシューラ」

 届いたズーミーからの書状には、ドレスショップで何か買って贈ってやるからその支払いをしろと、恐ろしく意味不明なことが書かれていた。
 ソネイル家から何か動きがあったら、シューラではなく自分に届けるよう言いつけてあった執事から、それを受け取ったマイクスははらりと開いて視線を滑らせると、シューラを呼び、告げたのだ。

「当分は外出も控えたほうがいいな。病だとでも言って、連絡が来たらすべて断らせる。何、準備が整うまでの間だ。この返事も私が出しておく」
「はい、助かります」

 目を通したズーミーからの書状の内容と、ホッと息を吐くと綻ぶように笑った娘を見て、如何に負担をかけていたかに改めて気づき歯を噛みしめる。マイクスは強い決意の籠もった目を誤魔化すようふわりと笑ってみせた。



「おい!シューラからの返事はどうした」

 ソネイル子爵家でズーミーが苛つきながらメッセンジャーに文句を言っている。

「いえそれが、シューラ嬢は体調を崩して臥せっておられ、今は手紙などもお読みいただくのは難しいと、レインスル男爵様より直接承りました」
「なに?本当か?」

 ズーミーにとってそれは拙い事態である。
 肝心のシューラが臥せっているときに、婚約者のズーミーがアーニャを連れ回し、ドレスまで買い与えたと知られたらただでは済まないだろう。
 アーニャのドレス代を払わせるには、一応シューラを納得させる必要がある。それが力ずくであっても。
臥せっていて会うこともないのに、請求書だけレインスル家に送りつければあの男爵のことだ。調べて文句をつけてくるに違いない。

「まあ男爵の小言は面倒なだけで、適当にあしらえばいいだけだがな」

 両親も当然ズーミーの味方である。
最後は子爵家の力を使って捻じ伏せればいい。

 シューラと結婚してレインスル男爵家に入ったらすぐに、正統・・な貴族である自分がレインスル家の当主を引き継いで財産を手中に収め、なんならシューラとは離縁して可愛いアーニャと結婚すればいいな、などと軽く考えていた。




 ズーミーがアーニャとドレスショップに行く日。


 ─今日は見るだけ、どれほどアーニャが強請っても見るだけだ!─

 結局シューラと連絡がつかなかったズーミーは、金の算段のないままアーニャと出かけねばならなくなった。
 困ったことに、ズーミーの手持ちではドレスどころか、アーニャ大のお気に入りのレストランにも行けそうにない。

 ─予定が入ったと言って、ディナー前に帰ることにしよう。まったくシューラの奴は肝心な時に使えない!─

 毒づきながらアーニャを迎えに行った。
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