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第10話
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「ええ?今日はディナーに連れて行ってくれないのぉ?楽しみにしていたのにぃ!」
「ああ、すまない。父上から用を頼まれてはどうしようもないからな」
「むう」
不貞腐ったように頬を膨らませたかと思うと。
「じゃあ!ドレスは買ってくれるわよね!」
「い、いや、それが・・・今日は見るだけにしよう」
「えっ?なんで?」
「だからさっきも言ったが、父上に早く帰るよう命じられてゆっくりはできないんだよ。頼むからわかってくれ」
「そんなぁ!」
馬車の中は剥れたアーニャのせいで、一気に険悪な空気になった。
「ごめん、本当に悪いと思ってる!次は必ず埋め合わせするから。そうだ!今日は次に来たときにオーダーするドレスの下見をしよう!ねっ」
まだ頬を膨らませて唇を突き出し、不満を隠さないアーニャのそれは、貴族の令嬢とは思えない態度だが、ズーミーが指摘することはない。
これがシューラならほんの少しの失敗でも、悉くやり込めただろうに。
馬車がドレスショップの前に停まり、二人が店に吸い込まれた直後、追いかけるように数人が店の扉を開けた。
「さあ、今日は下見だけだから、たくさん見て次に来るときまでに注文する意匠を決めればいい」
「勿論贈ってくれるのよね?ズーミー様がわたしに」
「あ、ああ」
(ズーミー・ソネイルがアーニャ・ドルザにドレスを贈ると約束)
カーテンの向こうでサラサラと音がし、誰かの靴音と、グッという音が聴こえた。
「ねえズーミーさまぁ、これとこれどっちがアーニャに似合うかしらぁ」
アーニャが手に取ったドレスは、2枚とも恐ろしく贅沢な物だった。そう、公爵レベルの値段が見えて、ズーミーは密かに青褪める。
他人・・・シューラに出させるにしても高すぎると、心に警報が鳴り響き、アーニャの興味をもっと手頃な値段のものへ向けようとしたが。
「い、いや、可愛らしいアーニャにはこっちの意匠のほうが」
ギロリ。アーニャの目が光る。
「え?わたしには似合わないとでも?」
むしろ逆効果となった。
「絶対これにしますから!」
ムキになったアーニャは、意匠ではなくより高いほうを選んだのだ。
─や、ヤバいぞ、いくらなんでもそれは・・・、なんでそんなのをアーニャに見せたんだっ─
ニコニコと笑みを浮かべる店員を睨みつけるが、まったく気づかないことに苛つきを感じる。
鏡の前で浮かれた顔でアーニャが合わせているのは、ソネイル子爵なら一年分の領費に匹敵するような綺羅びやかで豪奢なドレス。
─いや、次に来るときまでに考え直させればいい。今下手に何かいうと、またへそが曲がって余計に悪くなるかもしれん─
思い直して口を噤むズーミーの背中は、流れた汗のせいでシャツが張り付いていた。
「ああ、すまない。父上から用を頼まれてはどうしようもないからな」
「むう」
不貞腐ったように頬を膨らませたかと思うと。
「じゃあ!ドレスは買ってくれるわよね!」
「い、いや、それが・・・今日は見るだけにしよう」
「えっ?なんで?」
「だからさっきも言ったが、父上に早く帰るよう命じられてゆっくりはできないんだよ。頼むからわかってくれ」
「そんなぁ!」
馬車の中は剥れたアーニャのせいで、一気に険悪な空気になった。
「ごめん、本当に悪いと思ってる!次は必ず埋め合わせするから。そうだ!今日は次に来たときにオーダーするドレスの下見をしよう!ねっ」
まだ頬を膨らませて唇を突き出し、不満を隠さないアーニャのそれは、貴族の令嬢とは思えない態度だが、ズーミーが指摘することはない。
これがシューラならほんの少しの失敗でも、悉くやり込めただろうに。
馬車がドレスショップの前に停まり、二人が店に吸い込まれた直後、追いかけるように数人が店の扉を開けた。
「さあ、今日は下見だけだから、たくさん見て次に来るときまでに注文する意匠を決めればいい」
「勿論贈ってくれるのよね?ズーミー様がわたしに」
「あ、ああ」
(ズーミー・ソネイルがアーニャ・ドルザにドレスを贈ると約束)
カーテンの向こうでサラサラと音がし、誰かの靴音と、グッという音が聴こえた。
「ねえズーミーさまぁ、これとこれどっちがアーニャに似合うかしらぁ」
アーニャが手に取ったドレスは、2枚とも恐ろしく贅沢な物だった。そう、公爵レベルの値段が見えて、ズーミーは密かに青褪める。
他人・・・シューラに出させるにしても高すぎると、心に警報が鳴り響き、アーニャの興味をもっと手頃な値段のものへ向けようとしたが。
「い、いや、可愛らしいアーニャにはこっちの意匠のほうが」
ギロリ。アーニャの目が光る。
「え?わたしには似合わないとでも?」
むしろ逆効果となった。
「絶対これにしますから!」
ムキになったアーニャは、意匠ではなくより高いほうを選んだのだ。
─や、ヤバいぞ、いくらなんでもそれは・・・、なんでそんなのをアーニャに見せたんだっ─
ニコニコと笑みを浮かべる店員を睨みつけるが、まったく気づかないことに苛つきを感じる。
鏡の前で浮かれた顔でアーニャが合わせているのは、ソネイル子爵なら一年分の領費に匹敵するような綺羅びやかで豪奢なドレス。
─いや、次に来るときまでに考え直させればいい。今下手に何かいうと、またへそが曲がって余計に悪くなるかもしれん─
思い直して口を噤むズーミーの背中は、流れた汗のせいでシャツが張り付いていた。
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