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第14話
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「ハハハハハ!」
「テルド伯爵?」
いつまでも笑っていて先に進まないので、マイクスが声をかける。
「う、うむ。笑いすぎたな済まなかった。もうこんな茶番は終わらせてもいいだろう?
ソネイル子爵、令息!
レインスル男爵家シューラ嬢との婚約の件、ソネイル子爵令息の不貞による有責にて破棄とのレインスル男爵家からの申し立ては、このヨノイ・テルドが確かに公正なる証人として見届けた」
婚約や借金などの民事による二家の争いに、上位の貴族が「公正なる証人」を標榜して立ち会った場合、貴族裁判所に持ち込むと「公正なる証人」の証言が採用される。
その場合、例え証人が後見する相手でも、どちらかに偏った証言や偽証は許されず、もしそれらの行いがあった場合国王から厳罰に処されるのだ。
「ハッ。畏れ入ります」
平民のボルトン以外はその理由がわかっているので、ザッと一斉に頭を下げた。
「ん?」
「ボルトンは気にしなくていいぞ」
ヨノイに言われたボルトンは肩を竦める。
貴族だけの慣習やルールはやはりわからぬものが多かった。
「さてシューラ嬢」
すっかり仕切りに入ったヨノイがシューラに優しく声をかける。
「シューラ嬢は被害者だ。ソネイル子爵令息に何か言いたいことなどはあるかね?」
言いたいことと訊ねられても、すぐに思いつくことがない。小首を傾げて考え込むシューラに、ヨノイは小さく手を振った。
「思いつかねばむりに絞り出さなくともいい。どちらにしても婚約破棄に関し調印を行わねばならん。それまでに考えておくといいぞ。そう、例えば・・・このろくでなし野郎くたばりやがれとかな。令嬢はそんなこと言わないか!ハハハ。さあ皆、随分長いことドレスショップを占領してしまったからな、そろそろお開きとしよう。店主、貸し切りにさせて悪かったな」
ドレスショップのオーナーは慌てて手を振る。
「とんでもございません、こちらこそ貸し切りにして頂き、ありがとうございました」
ズーミーはぽかんと口を開けてこのやりとりを見、仕組まれたことに気がつくもとき既に遅く、ソネイル家の護衛に腕を捕まれて店から引きずられていく。
今日ここにズーミーとアーニャが来ると知ったマイクスたちが、大金で貸し切りにしていたのだ。
そしてうまく居合わせた上位貴族のヨノイ・テルド伯爵が、宣誓の上でズーミー・ソネイルの不貞行為を公正に見定めたと証言すれば、王宮は速やかに婚約破棄を認めることだろう。
「さてシューラ嬢、慰めにもならんが、よければ私がドレスをプレゼントしよう。帰る前に選んでいくといい」
ボルトンが連れてきたヨノイ・テルド伯爵のおかげで、何かと爵位を鼻にかけたソネイル子爵父子を撃破できたのだ、礼を言うのはこちらだと思っているマイクスとシューラだが、ドレスを買ってくれるという。
「気前がいいな、伯爵様は」
呟いたマイクスにボルトンが笑った。
「まあ気前はいいが、あれは魚心あれば水心ってやつですよ」
「魚心あれば水心?」
「そう。はっきり言いましょう!我が家はシューラ嬢の婚約者の後釜を狙っています」
「え?そうなのか?そりゃありがたい!」
「え?本当に?今の今そんなこと言うなんてと不快に思われたりは?」
「しないしない!それで、ノルズ家の3兄弟のうち、どなたを我が家に下さるんですかね?」
こうしてふたりの父親は双子のようにシンクロしたあと、レインスルとソネイル家との婚約破棄が成立すると同時に、あっという間に新しい婚約を成立させていた。
「テルド伯爵?」
いつまでも笑っていて先に進まないので、マイクスが声をかける。
「う、うむ。笑いすぎたな済まなかった。もうこんな茶番は終わらせてもいいだろう?
ソネイル子爵、令息!
レインスル男爵家シューラ嬢との婚約の件、ソネイル子爵令息の不貞による有責にて破棄とのレインスル男爵家からの申し立ては、このヨノイ・テルドが確かに公正なる証人として見届けた」
婚約や借金などの民事による二家の争いに、上位の貴族が「公正なる証人」を標榜して立ち会った場合、貴族裁判所に持ち込むと「公正なる証人」の証言が採用される。
その場合、例え証人が後見する相手でも、どちらかに偏った証言や偽証は許されず、もしそれらの行いがあった場合国王から厳罰に処されるのだ。
「ハッ。畏れ入ります」
平民のボルトン以外はその理由がわかっているので、ザッと一斉に頭を下げた。
「ん?」
「ボルトンは気にしなくていいぞ」
ヨノイに言われたボルトンは肩を竦める。
貴族だけの慣習やルールはやはりわからぬものが多かった。
「さてシューラ嬢」
すっかり仕切りに入ったヨノイがシューラに優しく声をかける。
「シューラ嬢は被害者だ。ソネイル子爵令息に何か言いたいことなどはあるかね?」
言いたいことと訊ねられても、すぐに思いつくことがない。小首を傾げて考え込むシューラに、ヨノイは小さく手を振った。
「思いつかねばむりに絞り出さなくともいい。どちらにしても婚約破棄に関し調印を行わねばならん。それまでに考えておくといいぞ。そう、例えば・・・このろくでなし野郎くたばりやがれとかな。令嬢はそんなこと言わないか!ハハハ。さあ皆、随分長いことドレスショップを占領してしまったからな、そろそろお開きとしよう。店主、貸し切りにさせて悪かったな」
ドレスショップのオーナーは慌てて手を振る。
「とんでもございません、こちらこそ貸し切りにして頂き、ありがとうございました」
ズーミーはぽかんと口を開けてこのやりとりを見、仕組まれたことに気がつくもとき既に遅く、ソネイル家の護衛に腕を捕まれて店から引きずられていく。
今日ここにズーミーとアーニャが来ると知ったマイクスたちが、大金で貸し切りにしていたのだ。
そしてうまく居合わせた上位貴族のヨノイ・テルド伯爵が、宣誓の上でズーミー・ソネイルの不貞行為を公正に見定めたと証言すれば、王宮は速やかに婚約破棄を認めることだろう。
「さてシューラ嬢、慰めにもならんが、よければ私がドレスをプレゼントしよう。帰る前に選んでいくといい」
ボルトンが連れてきたヨノイ・テルド伯爵のおかげで、何かと爵位を鼻にかけたソネイル子爵父子を撃破できたのだ、礼を言うのはこちらだと思っているマイクスとシューラだが、ドレスを買ってくれるという。
「気前がいいな、伯爵様は」
呟いたマイクスにボルトンが笑った。
「まあ気前はいいが、あれは魚心あれば水心ってやつですよ」
「魚心あれば水心?」
「そう。はっきり言いましょう!我が家はシューラ嬢の婚約者の後釜を狙っています」
「え?そうなのか?そりゃありがたい!」
「え?本当に?今の今そんなこと言うなんてと不快に思われたりは?」
「しないしない!それで、ノルズ家の3兄弟のうち、どなたを我が家に下さるんですかね?」
こうしてふたりの父親は双子のようにシンクロしたあと、レインスルとソネイル家との婚約破棄が成立すると同時に、あっという間に新しい婚約を成立させていた。
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