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呪われたエザリア

ロンメルン・ジーリー

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「お父上、安全でいらっしゃるようでよかったね。」

労るようにセインがエザリアのブラッシングを始める。

「必ず解呪させてみせるって書いてあったね」
「にゃっ」

パタパタパタと尻尾が振られ、心なしかうれしそうな顔を見せる。

「そうだよね、早く呪いを解いて人に戻りたいよね・・・」

微妙な間が、セインの複雑な気持ちを表していた。

「にゃ?」

寂しそうに見えたセインの膝に、エザリアは前足を乗せる。

「うん、早く元に戻れるといいと心から思ってるよ」

─それはエザリアとの別れのとき─

赤髪の魔女と呼ばれる呪術師が捕まれば、エザリアは勿論、スミルもジョルもミクスも、シュメーンも。
皆、元の生活に戻って、セインもまたひとりに・・・。

考えないようにしようと思いながら、人生初の賑やかな日々があまりに楽しくて。
その日が来るのが一日でも遅くなればいいと思ってしまうセインであった。


無言になり、黙々とブラシを動かすセインをエザリアが見上げると、何故か悲しそうに眉を寄せている。

─どうしたのかしら─

何かとてつもなく悲しい出来事を思い出したかのような。

慰めてあげたくなって、エザリアはセインの肩に前足を伸ばして抱きしめる。
その耳元で、精一杯気持ちを込めて、にゃあと囁いた。

「うん。ありがとうねエザリア」

確かにセインにその想いは伝わった。
もふもふの前足で首を挟むよう抱きついている白猫を、ぬくもりを、やわらかさを確かめるように、手放さないように、愛おしい思いを込めたセインがそっと抱きしめた。







 エザリアのぬくもりを腕に、いつの間にかうとうとしていたセインは、ノックの音でハッとする。

「セイン、例の魔導師が来たぞ」

ジョルが来客を知らせてくれたのだ。

「今行くよ」

抱きしめていたエザリアを下ろし、頭を撫でて「ちょっと待っていて」と店に向かう。

「ジョル」
「ああ」

ジョルが、シュメーンとカウンターに座るマントの男を顎で指し示した。

イーブィの後任・・
代わりだからなんとなく女性かと思っていたセインだが、派遣されてきたのは男性魔導師だった。
セインに気づくとパッと立ち上がり、腰を折る。

シュメーンもそれに続いて、さらに低く頭を下げているのは何故だろうとセインが不思議に思ったとき、男が口を開いた。

「この度は我が魔導師団の者が大変に失礼を致しました。私はイーブィ・キズリと交代で護衛につかせて頂く、王立魔導師団第2小隊長ロンメルン・ジーリーと申します」

─王立魔導師団第二小隊長?─

イーブィは明らかに年若く経験もまだ浅そうな様子だったが、その代わりが魔術師団の小隊長とはいきなりどうしたことだろう?

セインの首が盛大に傾げられ、ロンメルンは緊張して一文字に噛み締められた口元を緩めた。

「イーブィ・キズリの不始末は我が魔導師団の恥」
「え、いや、そんな大袈裟に思わずとも」
「今回は陛下直属の部門も噛んでおり、そういうわけには参らんのです。我が働きにより汚名を濯げるよう努めますゆえ、何卒よろしくお願いいたします」

そのペコペコぶりはイーブィとはえらい違いで、顔を潰された魔導師団長チューグ・ジュラールからよほどキツく言い含められてきたのだと推察される。

気の毒になったセインは、頭を下げ続けるロンメルンに顔を上げるように勧め、奥の部屋に彼も入れるように結界を張り直すと、エザリアの元にいざなった。
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