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呪われたエザリア

魔導師団内の心理戦

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ミヌークス・エルヴェは魔導師団に名を置いてはいるが、余程の緊急事態以外召喚に応じることのない、実力はあるが傲慢な魔導師である。

グルドラ・ルストと同じく天才と呼ばれ、恐るべきことに学園在学中に属性魔導を極め、卒業する頃には上位魔導の呪術を習得していた。
傲慢な変わり者だが魔導の研究には大変熱心で、新しい魔法を使う者がいると聞けばすぐに飛んでいって解明し、自分のものにしてしまう。

そんなミヌークスが、目の前のグルドラを自らの力で圧倒したいと思うのは当然チューグにもわかりきっていた。

「唯一心配なのは、ミヌークスが探究心故にグルドラを生かしたがるかもしれないことなんだが」

蜘蛛の糸に絡めとられた獲物のように、ミヌークスが封印を施したロープで爪先までぐるぐる巻にされ、さらに麻痺魔法を施して指先一つ動かせないようにしているグルドラは、ミヌークスの魔力を受けて揺れている。
 その様子を見ながら、嫌そうにミヌークスが答えた。

「あのなあ・・・私とてそこまで恥知らずではないぞ。この魔女の命ある限り、魔女に呪われたすべての者が元の姿に戻れないことくらいわかっている。呪術の厄介なところは、基本かけた魔導師本人にしか解くことができない。唯一神殿の聖魔法で呪術者と呪われた者と繋げる魔力を断つことができれば、解呪できることもあるが、あの令嬢の姿を見る限りそこらの神官では太刀打ちできまい」

チューグもそうだろうと考えていた。
グルドラはほんの少しも漏れのない繊細な魔力操作で呪いを完成させている。
だからこそエザリアはあれほどに完璧な猫になったのだ。

「とりあえず尋問の時だけ魔女の目を覚まさせ、それ以外は暫く麻痺させておく」
「あ!なあムユークに麻痺させたまま連れていけばいいんじゃないか」

チューグの言葉にミヌークスは顔を顰める。

「麻痺魔法は一定の時間で切れてしまう」
「だからミヌークスがついていけば」
「ああ?」

とても嫌そうな顔をするミヌークスに、チューグは人参をぶら下げる。

「向こうで最新の魔導具をいくつか買ってきたらどうだ?勿論その分の予算と滞在費を持たせてやるぞ!我らもムユークの魔導具に遅れを取りたくはないからな」
「滞在日数は?」
「そうだな。十日までは別個に宿泊費を出そう」
「よし、手を打とう。それならそこまで厳重に封印術をかけなくとも運べそうだ」
「カイザール卿の面会はどうだろうな?」
「う、うむ。そこは・・・」

今回ミヌークスは魔封じの檻という魔法陣を編み出したのだが、実際牢の中で魔法陣を展開しようとしたら、考えていた以上に魔力を吸われて思わず膝をついたほど。
しかし、魔法陣に魔力量や質の違うふたりで魔力を流せば、バランスが悪くなってしまうため、ひとりでやりきらねばならない。

(あれを使うと暫く他の魔術が使えなくなってしまうからな)

ここ一番というときだけ発動させ、それ以外は麻痺と封印の魔法を使う。
それでもほんの一瞬の隙も、グルドラには見せることができないため、ここ暫くのミヌークスはかなり消耗が激しかった。

一晩眠れば魔力は回復する。

または・・・魔力回復ポーションを飲む方法もあったが、これがとびきり不味い。飲むとしたらスタンピードや戦争のような国家の安全に関わる緊急事態の時だけ。
ミヌークスは後者は即座に却下した。

「仕方ない。面会日には特別な術式「魔封じの檻」を展開するが、大量の魔力を要するため、私でさえ魔力切れ必至。
その日は何もできなくなるから、念のため警備はチューグとロンメルンがやると約束しろ」

ミヌークスをよく知るチューグは、うむと頷いた。

「ではおまえの準備もあるだろうからカイザール卿をお連れするのは明後日でどうだ?」
「よかろう」

こうしてロレンス・カイザールの望みは叶えられることとなったのだった。
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