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呪われたエザリア

うれしいような悲しいような

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「エザリア」

 サリバー家を、ジョル・ドレイラに勧められたセインが訪れていた。
先触れも出していないが、咎められることはない。何しろエザリアの大恩人なのだ。

 温室のベンチで白猫は仰向けに昼寝を貪っていた。

「ん?んにゃぁ?」
「エザリア、セインだ」
「・・・にゃっ!」

 猫が跳ね起きる、ぴょんっ!と。

「ごめんね、寝ているところを起こしてしまって」

 どこまでも穏やかに優しく語りかけるセインの腕をめがけ、白猫が飛び上がった。

「ははっ」

 両腕でキャッチしたセインは白猫に頬ずりをしながら笑う。
エザリアの鼻腔はお日様のような心地よい香りを感じ、その胸に頭を擦りつけた。

(セイン!会いたかった)

 ジョル・ドレイラから呪いをかけた魔導師が処刑されると知らされて、漸く元の姿に戻れると喜んだエザリアだが、令嬢に戻ったら二度とセインとこうして過ごすことは叶わない。
 猫でいるうちに、もう一度だけセインに会いたかったのだ。

「ジョルに聞いたよ。魔術師はもうじき・・・君がやっと元の姿に戻れるって」

 抱きしめたまま、ふわふわとした白猫の頭を撫でてやる。

「本当によかった。今までよく頑張ったね」




 エザリアがサリバー家に戻され、森の小屋でまたひとりになると思っていたセインだが、ブラスがスミルを手伝いに派遣してくれたことでその寂しさからは逃れることができた。
 しかしこうして白猫を抱きしめると、スミルでは埋められない何かを失ったことに気づいてしまう。

 猫のあたたかな体温がセインに伝わる。
兄弟のようになりつつあるスミルとの会話は楽しいが、白猫の寝息を聞きながら眠る日々は二度と取り戻せないのだ。
 新しい猫を飼えばいいのかもしれないが、セインが求めているぬくもりはこの白猫のものなのだと気づいてしまった。

(でもエザリアは猫じゃない。人なんだから・・・喜んであげなくては)

 心の中の葛藤を顔に出さないよう堪えながら、白猫を抱く腕に力を入れる。
苦しくない程度に抱きしめられたエザリアは、満足そうにゴロゴロと喉を鳴らし始め、それを聞くセインも穏やかで幸せな気持ちに満たされた。


 顎をコシコシと擦ってやる。
手を差し込んでふくっとした腹を撫でてやる。
手のひらにすっぽり隠れる頭を撫でてやる。

 ゴロゴロは増々大きく響き、無意識にセインは猫の額に唇を当てていた。




(セ、セインっ!それ、キス)

 エザリアの心臓がドキンと跳ね、魂が抜けそうになる。

(ハッ、しっかりしてエザリア!セインは猫の私だからうっかりしちゃっただけよ!そう、私まだ猫だもの・・・)

 気が遠くなりそうだった自分を叱咤するも、猫だから愛でられただけだと思うと、エザリアは悲しく切なく苦しくなっていった。
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