【完結】時戻り令嬢は復讐する

やまぐちこはる

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第1章

第2話 プロローグ2

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 マーカス・ソイスト侯爵とリラ夫人には三人の子がいる。
嫡男サルジャンと長女ユートリー、そして亡くなったマーカスの弟夫婦の娘で七歳の時に養子にした次女ミイヤ。
 養子と言ってもこどもたちは従兄妹同士で、特に妹を欲しがっていたユートリーは殊のほかミイヤを可愛がり、三人は本当の兄妹のように仲良く成長した。




「お姉様がかわいそう」

 目覚めることのないユートリーの額に浮かぶ汗を、ミイヤがそっと拭いてやっている。
 そばでは、涙が止まらないリラがハンカチを握りしめていた。

「もう三日も目覚めないとは、一体どうなっているんだ!ヤブ医者めが」

 サルジャンが憤り、鋭い言葉を放つ。

「お兄様、そんな大きな声を出さないでください」

 ミイヤに窘められてもその怒りは収まらず、落ち着きなく足を踏み鳴らした。



 その後も、家族がどれほど心配してもユートリーは目覚めなかった。
水や流動食を流し込んではいるが、どんどんとやせ衰えていく一方で。



 しかし、ユートリーにはすべて聞こえていたのだ。
何が起きたのかわからないまま、動くことも話すことも出来なくなってしまったが。

 ─誰か!たすけて─

 訴えようとしても声も出ない。
 兄の手がユートリーの手を握りしめているのがわかるのに、握り返すことも出来ない。せめてほんの少しでも指先を動かせればと力を込めようとしたがピクリともしなかった。

 ─どうして?お願いお兄様気がついて!─

 ナイジェルスを想い、どれほど悲しみに胸を抉られても涙も出ない。

 ─怖い─

 サルジャンが額にキスをして部屋を出る気配がし、呼び止めたかったが何もできなかった。

 また誰かが部屋にやって来る。
足音から女性二人のようだ。

「今ならあの侍女もいません、急いで確認しましょう。しかし意外としぶといですね」

 ─しぶとい?─

「毒に耐性があるんですかね?もっと強いやつの方が良かったんじゃないですか。あの侍女も自分がせっせと飲ませている水に毒が入ってるとは思いもしないでしょうけど」

 ─毒?私、毒を飲まされていたの?─

 ユートリーは驚愕したが、目の前にいる誰かを目を開けて見ることができない。

 ナイジェルスの襲撃にショックを受けて気絶したユートリーに、誰かが毒を飲ませのだ。
遅効性のそれは飲んでから数時間経ってから体の大部分の機能を失わせる物で、薄っすらとユートリーの意識と聴覚は残したものの、既にほんの少し瞼や唇を動かすことすら許さない。じきに呼吸も出来なくなる、生きる屍とさせられたユートリーは、命の炎を無理矢理消されようとしていた。


 ─私を?私だけじゃない、ナイジェルス様を害そうとした者が屋敷の中にいた?─

 声に聞き覚えがない。
顔を見たいと頑張ったが、ユートリーの瞼は既にうんともすんともいわなくなっている。

 ─私はこのまま殺されるの?ナイジェルス様!お父様お母様お兄様ミイヤっ、誰かたすけてっ!─

 動かない体という棺桶に閉じ込められたユートリーは必死にもがいていたが、呼吸が浅くなり始める。

「様子も見たことですし、侍女が戻る前に出ましょうか。あら?なんだか呼吸がおかしいわ。いよいよかしら!急いで部屋を出ましょ・・・」

 そこまで聞いたユートリーの意識はどんどんと遠くなっていく。





「ユートリー様が!」

 氷を砕きに、ほんの数分部屋を離れていたタラが戻ると、すぐにユートリーの異変に気がついた。陸に上げられた魚のように浅くはくはくと空気を吸おうとしており、明らかにおかしかった。
緊急の報せにリラが駆けつけ、ユートリーを揺する。

「トリーっしっかりして!目を開けるのよトリーっ」

 しかし母の叫びに応えることなく、ユートリーの人生は幕を閉じた。
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