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第1章
第18話 生還
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ソイスト侯爵家でユートリーへの犯人が特定された頃。
馬車が襲われ行方知らずとなったナイジェルス王子は、兄ゴールダイン王太子の考えているとおり、生きて身を隠していた。
誰が味方なのかがわからないうちにのこのこと出ていくわけにはいかないと、森深い山の洞穴に護衛たちと潜み、受けた傷を癒やしていたのだ。
ゴールダインが目をつけた馬ももちろん無事だ。馬がいなければここまで逃げることは叶わなかったことだろう。
幸い洞の近くに川があり、水には困らないし、護衛たちが作った罠で魚を捕まえたので、食べるものもなんとか調達することができた。
「殿下、皆そろそろ動けるようになってきましたが、いつまでここにいるつもりですか?」
護衛の中で、年上の友人でもあるビブラス・ヘンリス伯爵が衒いなく訊ねると、ちょっと思案してからナイジェルスが答えた。
「ビブは出た方がいいと思うか?」
「いや、動けると言っても安全を期すなら、あと数日は様子を見た方がいいとは思っていますが。その間に一番信用ができる貴族に繋ぎを取り、救出してもらうのはどうです?」
「一番信用ができる貴族?」
ナイジェルスの頭に浮かんだのは、もちろん婚約者ユートリーとその父マーカス・ソイスト侯爵だ。
兄ゴールダインも信じていいと思っているが、城に使いを出すよりソイスト侯爵家の方が目立ちにくいだろう。
「ソイストのマーカスかサルジャンに。内密の話だが、庭番は暗部の者だとマーカスから聞いている。そこまで繋げられればなんとかなるはずだ。・・・私の影が無事だったら良かったのだが、失った者を悼み嘆くのは脱出してからにしよう」
その答えにビブラスは表情を引き締める。
「ソイスト侯爵への繋ぎはお任せくださいますか?」
「ああ。ビブに任せておけば安心だ」
ユートリーにしかわからないだろう署名を入れて、書状を認め、ビブラスに委ねた。
「それではしばらくの間暇を頂戴しますが、戻るまで動かぬようお願いしますよ。合流できなくなったら困る」
「そうだな、ではもしここにいられなくなったとしたら、もう追手の捜索が終わったところに戻って潜むことにしよう。一度捜したところには戻らないだろう?馬車を落とした崖から南東に半日のところに古い山小屋があったのを覚えているか」
「ああ!わかります。ここにいなければ、あそこですね」
「そう決めておこう」
ビブラス・ヘンリス伯爵は馬で一旦ソイスト家とは逆の方向にある町へ向かった。
そこで平民の服を一揃えし、荷馬車を借りて馬を繋ぐと、漸くソイスト家へと走り出した。
まる二日の道中では三度捜索隊にも出くわしたが、藁を積みゆっくり走る荷馬車とみすぼらしい男には、誰も目もくれない。
安全にソイスト家の近くにつくと、遊んでいたこどもに訊ねた。
「侯爵様に荷物を届けるよう頼まれたもんで、どこから行けばええだろおね?」
大袈裟な訛りに、こどもたちがくすくすと笑う。
「おじさん、侯爵様のところに行きたいの?私庭師のおじさんと仲良しだから聞いてあげる」
「おお、ほうかほうかありがとうよ、おじょうちゃん」
庭師のおじさんを呼んでやると言ったこどもにビブラスは歓声をあげたくなった。勿論我慢したが、偶然にも、目指す暗部の男ニイズを呼んできたのだ。
裏口から入り込んだ顔見知りのこどもに、勝手に入らないよう叱る前に手を引かれては断ることもできず、渋々と屋敷から出てきた庭師は、値踏みするような視線でビブラスに告げた。
「侯爵様にお届け物なら、門番に渡してもらいたい」
受け取りはきっぱりと断られ、ビブラスもそこは一度引いてやる。
「庭師さんじゃだめっかねえ、ははは。手伝ってくれたのに、わりかったねえおじょうちゃん」
馬車が襲われ行方知らずとなったナイジェルス王子は、兄ゴールダイン王太子の考えているとおり、生きて身を隠していた。
誰が味方なのかがわからないうちにのこのこと出ていくわけにはいかないと、森深い山の洞穴に護衛たちと潜み、受けた傷を癒やしていたのだ。
ゴールダインが目をつけた馬ももちろん無事だ。馬がいなければここまで逃げることは叶わなかったことだろう。
幸い洞の近くに川があり、水には困らないし、護衛たちが作った罠で魚を捕まえたので、食べるものもなんとか調達することができた。
「殿下、皆そろそろ動けるようになってきましたが、いつまでここにいるつもりですか?」
護衛の中で、年上の友人でもあるビブラス・ヘンリス伯爵が衒いなく訊ねると、ちょっと思案してからナイジェルスが答えた。
「ビブは出た方がいいと思うか?」
「いや、動けると言っても安全を期すなら、あと数日は様子を見た方がいいとは思っていますが。その間に一番信用ができる貴族に繋ぎを取り、救出してもらうのはどうです?」
「一番信用ができる貴族?」
ナイジェルスの頭に浮かんだのは、もちろん婚約者ユートリーとその父マーカス・ソイスト侯爵だ。
兄ゴールダインも信じていいと思っているが、城に使いを出すよりソイスト侯爵家の方が目立ちにくいだろう。
「ソイストのマーカスかサルジャンに。内密の話だが、庭番は暗部の者だとマーカスから聞いている。そこまで繋げられればなんとかなるはずだ。・・・私の影が無事だったら良かったのだが、失った者を悼み嘆くのは脱出してからにしよう」
その答えにビブラスは表情を引き締める。
「ソイスト侯爵への繋ぎはお任せくださいますか?」
「ああ。ビブに任せておけば安心だ」
ユートリーにしかわからないだろう署名を入れて、書状を認め、ビブラスに委ねた。
「それではしばらくの間暇を頂戴しますが、戻るまで動かぬようお願いしますよ。合流できなくなったら困る」
「そうだな、ではもしここにいられなくなったとしたら、もう追手の捜索が終わったところに戻って潜むことにしよう。一度捜したところには戻らないだろう?馬車を落とした崖から南東に半日のところに古い山小屋があったのを覚えているか」
「ああ!わかります。ここにいなければ、あそこですね」
「そう決めておこう」
ビブラス・ヘンリス伯爵は馬で一旦ソイスト家とは逆の方向にある町へ向かった。
そこで平民の服を一揃えし、荷馬車を借りて馬を繋ぐと、漸くソイスト家へと走り出した。
まる二日の道中では三度捜索隊にも出くわしたが、藁を積みゆっくり走る荷馬車とみすぼらしい男には、誰も目もくれない。
安全にソイスト家の近くにつくと、遊んでいたこどもに訊ねた。
「侯爵様に荷物を届けるよう頼まれたもんで、どこから行けばええだろおね?」
大袈裟な訛りに、こどもたちがくすくすと笑う。
「おじさん、侯爵様のところに行きたいの?私庭師のおじさんと仲良しだから聞いてあげる」
「おお、ほうかほうかありがとうよ、おじょうちゃん」
庭師のおじさんを呼んでやると言ったこどもにビブラスは歓声をあげたくなった。勿論我慢したが、偶然にも、目指す暗部の男ニイズを呼んできたのだ。
裏口から入り込んだ顔見知りのこどもに、勝手に入らないよう叱る前に手を引かれては断ることもできず、渋々と屋敷から出てきた庭師は、値踏みするような視線でビブラスに告げた。
「侯爵様にお届け物なら、門番に渡してもらいたい」
受け取りはきっぱりと断られ、ビブラスもそこは一度引いてやる。
「庭師さんじゃだめっかねえ、ははは。手伝ってくれたのに、わりかったねえおじょうちゃん」
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