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第1章
第23話 反撃
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「お母様は大丈夫でしょうか?」
やさしい声が響いて、マーカスが「あっ!」と言った。
「こら!起きたらダメだろう、誰かに見られたらどうするんだ!」
「わかっておりますけど。まさかお母様が気を失われるなんて・・・」
「うっ、私だってリラがかわいそうだとは思っているが、敵を騙すにはまず味方を騙せなくてはダメなんだ!リラの性格では隠し事はできないぞ。トリーもわかっているだろう?」
倒れて臥せっていたはずのユートリーが、自分の額に乗せていた濡れ布巾を冷やし直すと、意識を手放しソファに寝かされた母の額に乗せてやる。
「ええ、わかってはおりますけれど」
「これで敵の目が欺ければユートリーは安全でいられるんだ」
「ええ、それもわかってはおりますけれど」
毒物を仕込まれていると気づいて三日目。
いくら遅効性と言えど何の異変も現れなければさすがに疑われると、皆で相談して倒れたふりをすることに決めたのだ。
「リラは大丈夫だ。どうせ数日ですべてが終わる。そうしたらきっと笑って許してくれるよ」
だといいけどとユートリーは首をひねったが、父の言うことにも一理あると、意識のない振りを始めたのだ。
マーカスの幼馴染みマベル・タス医師も、もちろん共犯者。
ソイスト一家が親しげにマベルと名を呼ぶ男は、ソイスト領隣りのタス子爵次男で、医療学校の研究職に就いており普段診察はしていない。ユートリーの前の記憶ではマベルは来なかったはずだが、今回マーカスが誰より信用できると直々の頼みに、怒りを持って応じてくれた。
「こんな毒を使うとは恐るべき残忍さ、決して許すことはできない」と。
「毒が効き始めたと知れば、奴らも危険を犯してそれ以上飲ませる必要もないのだから、面会謝絶にしてもいいだろう。トリーの部屋の前に護衛を立たせ、私とリラ、タラとマベルのみに面会を許すとすれば、いつも毒が効いた振りをしていなくともよくなるぞ」
「お兄さまとミイヤには面会は許さないのですか?」
「許す必要はない。原因不明の病で感染するかもしれないから最低限の人間しか入れるなとマベルが言ったことにすればいい」
ユートリーは簡単そうに言う父には反論せず、代わりにマベルを見た。
「この毒は専門性の高い医者でなければわかりません。正直私も事前に聞いていなかったら、症状だけではこの毒に辿り着けないでしょう。だから私が感染症と誤診したことにして犯人を近づけないようにします」
バツが悪そうにマベルが言うが、マーカスは首を傾げる。
「誤診したという話が出てもおまえの名に傷がついたりはしないだろうか?大丈夫なのか?」
マーカスの心配にマベルは。
「すべてが明らかになれば問題ない」
「そうか、ありがとう。持つべきものは友だな」
そう言ってうっかり声を立てて笑い合ったので、ユートリーが焦って咎めた。
「お父様、マベル様もお声を小さくなさって下さい。他の者に聞かれたらどうなさいますの」
「あ!そ、そうだった」
「申し訳ない、つい」
じろりと一瞥してから、ユートリーはパタリと横になった。
「何一つとして動かさず、まるで死んだかのようにいるってものすごく大変ですわ」
そう、あの時の絶望的な経験があるからこそできると、ユートリーは思う。
「もしこれが本当に私の身の上に起きていたとしたら、この状態でこんなに近くにいる誰にも気づいてもらえず、助けを呼ぶこともできずにただ死を待つしかないとしたらと思うと、心の底からぞっと致します。本当になんて怖ろしいことかしらと・・・」
それをミイヤはユートリーに対してやってのけたのだ。
心の中で笑いながら、愛している姉をさも心配しているかのように振る舞いながら。
今生でも。
─絶対に許さない─
やさしい声が響いて、マーカスが「あっ!」と言った。
「こら!起きたらダメだろう、誰かに見られたらどうするんだ!」
「わかっておりますけど。まさかお母様が気を失われるなんて・・・」
「うっ、私だってリラがかわいそうだとは思っているが、敵を騙すにはまず味方を騙せなくてはダメなんだ!リラの性格では隠し事はできないぞ。トリーもわかっているだろう?」
倒れて臥せっていたはずのユートリーが、自分の額に乗せていた濡れ布巾を冷やし直すと、意識を手放しソファに寝かされた母の額に乗せてやる。
「ええ、わかってはおりますけれど」
「これで敵の目が欺ければユートリーは安全でいられるんだ」
「ええ、それもわかってはおりますけれど」
毒物を仕込まれていると気づいて三日目。
いくら遅効性と言えど何の異変も現れなければさすがに疑われると、皆で相談して倒れたふりをすることに決めたのだ。
「リラは大丈夫だ。どうせ数日ですべてが終わる。そうしたらきっと笑って許してくれるよ」
だといいけどとユートリーは首をひねったが、父の言うことにも一理あると、意識のない振りを始めたのだ。
マーカスの幼馴染みマベル・タス医師も、もちろん共犯者。
ソイスト一家が親しげにマベルと名を呼ぶ男は、ソイスト領隣りのタス子爵次男で、医療学校の研究職に就いており普段診察はしていない。ユートリーの前の記憶ではマベルは来なかったはずだが、今回マーカスが誰より信用できると直々の頼みに、怒りを持って応じてくれた。
「こんな毒を使うとは恐るべき残忍さ、決して許すことはできない」と。
「毒が効き始めたと知れば、奴らも危険を犯してそれ以上飲ませる必要もないのだから、面会謝絶にしてもいいだろう。トリーの部屋の前に護衛を立たせ、私とリラ、タラとマベルのみに面会を許すとすれば、いつも毒が効いた振りをしていなくともよくなるぞ」
「お兄さまとミイヤには面会は許さないのですか?」
「許す必要はない。原因不明の病で感染するかもしれないから最低限の人間しか入れるなとマベルが言ったことにすればいい」
ユートリーは簡単そうに言う父には反論せず、代わりにマベルを見た。
「この毒は専門性の高い医者でなければわかりません。正直私も事前に聞いていなかったら、症状だけではこの毒に辿り着けないでしょう。だから私が感染症と誤診したことにして犯人を近づけないようにします」
バツが悪そうにマベルが言うが、マーカスは首を傾げる。
「誤診したという話が出てもおまえの名に傷がついたりはしないだろうか?大丈夫なのか?」
マーカスの心配にマベルは。
「すべてが明らかになれば問題ない」
「そうか、ありがとう。持つべきものは友だな」
そう言ってうっかり声を立てて笑い合ったので、ユートリーが焦って咎めた。
「お父様、マベル様もお声を小さくなさって下さい。他の者に聞かれたらどうなさいますの」
「あ!そ、そうだった」
「申し訳ない、つい」
じろりと一瞥してから、ユートリーはパタリと横になった。
「何一つとして動かさず、まるで死んだかのようにいるってものすごく大変ですわ」
そう、あの時の絶望的な経験があるからこそできると、ユートリーは思う。
「もしこれが本当に私の身の上に起きていたとしたら、この状態でこんなに近くにいる誰にも気づいてもらえず、助けを呼ぶこともできずにただ死を待つしかないとしたらと思うと、心の底からぞっと致します。本当になんて怖ろしいことかしらと・・・」
それをミイヤはユートリーに対してやってのけたのだ。
心の中で笑いながら、愛している姉をさも心配しているかのように振る舞いながら。
今生でも。
─絶対に許さない─
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