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第1章
第28話 それぞれ
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「お母様、泣いていらしたわ」
「ええ。ユートリー様はよく我慢なさいましたね」
タラが褒めながら、布団から氷枕を引っ張り出してやる。
廊下に誰かが来る気配がしたら、布団の中で氷枕に触れ、冷たい手のように見せていたのだ。
「よほど起き上がって、私は大丈夫と言ってしまいたかったわ」
そう項垂れるユートリーだが、ここで仏心を出せばすべてが台無しだ。ミイヤへの復讐という小さなことだけではない、ナイジェルスの命がかかっている。
敵を一掃するために心を鬼にと、歯を食いしばって動きを止めていた。
「ミイヤ様は部屋に入りたがって、護衛騎士と揉めたようです」
「虫の息の私を見て、せせら笑いでもしたかったのじゃないかしら」
「そんなこと、私がぜーったいに許しませんけど」
タラが鼻息荒く、フン!と息を吐いて見せる。
「ええ、頼りにしてるわ。死ぬ寸前の振りもあと少しだし、よろしくね」
「お母様、トリー姉様はいかがでした?」
リラを支えて、部屋まで連れ帰ったミイヤはソファに座らせると侍女に茶を入れさせた。
「・・・ぴくりともしないの。私がどれほど呼んでも。手に触れたら、氷のように冷たくて」
思い出したリラはまた、うめき声をあげながら泣き崩れた。
─そう、じゃあもうじき死ぬかしらね─
口元があがるのを堪えて、悲しげにリラを慰める。
「お母様、姉様はきっと良くなりますわ。私も祈りますから信じて待ちましょう」
「え、ええ」
空空しい会話だったが、リラの涙腺を崩壊させるには十分で。ミイヤが冷たく見下ろしていることには気づかず、礼を言って懇願した。
「ありがとう、ミイヤ一緒に祈ってね」
ソイスト侯爵家別邸では、マーカスとサルジャン、ナイジェルスとゴールダインの側近エイガーが顔を突き合わせていた。
「ではトローザーは隣国の公女と結婚するのか?」
「ええ。もう婚約契約締結の日程調整に入っているそうですよ」
「ふうむ。公表は当面しない?」
「はい、キャロラ妃が他国とのことだからより慎重にと申されて」
マーカスが疑問を口にした。
「てっきり私はミイヤとトローザー殿下の仲が深まって、このようなことをしたのだと思っていたのですが・・・」
「ミイヤ嬢・・・ミイヤはトローザーと公女のことは知らないのではないか?それとも知っていながらトローザーに協力している?
しかしミイヤが、可愛がってくれた姉を害してまでトローザーに協力するとしたら、相当の繋がりや約束があるということだ。
と考えたら、やはり公女のことを伏せて、ミイヤに婚約でもぶら下げたと考えるのが一番近いと思うんだが、ジャンはどう思う?」
ミイヤ嬢と言いかけ、蔑むように呼び捨てに変えたナイジェルスがサルジャンに振る、その顔は楽しいことを見つけたように、ニヤニヤしている。
「兄上が調べてくれたところによると、ミイヤとトローザーはこのところ忍んで会っていたらしい。一度や二度じゃない、イスハ王国に行く前など、毎日のように会っている。
まずはこれを読んでみてくれ」
ゴールダインが手配した女官からの報告だ。
「庭の四阿でふたりだけで話し込んでいた、顔を寄せ手を握り合っていた?」
読み終えたマーカスは、怪訝な顔をしている。
「トローザー殿下の希望された婚約が決まったと聞いたばかりではなかったでしょうか?」
「それはそれ、これはこれということだろう、えげつないことをするな」
不快そうにナイジェルスが答える。
王家から王子との婚約をユートリーに持ちかけられたとき、年齢から第二王子ナイジェルスか第三王子トローザーのどちらかにという話だった。
茶会を装った見合いで顔を合わせた時、ナイジェルスがユートリーを見初め、ユートリーもそれに躊躇わずに応えて、サクッと婚約成立になったのだ。ナイジェルスの動きが早すぎて、トローザーの出番はなかった。
それ以来ナイジェルスはユートリー一筋。
ちなみにゴールダインも婚約者と仲睦まじく過ごしている。
「守らねばならないか弱き女性に、あいつは一体何をさせているんだ!」
甘言でミイヤを操り、ユートリーを害そうとさせたことは間違いないだろう。
ナイジェルスは怒りを込めて呟いた。
「証拠さえ掴めれば」
居合わせた男たちは、互いの意志を確認するよう頷きあった。
「ええ。ユートリー様はよく我慢なさいましたね」
タラが褒めながら、布団から氷枕を引っ張り出してやる。
廊下に誰かが来る気配がしたら、布団の中で氷枕に触れ、冷たい手のように見せていたのだ。
「よほど起き上がって、私は大丈夫と言ってしまいたかったわ」
そう項垂れるユートリーだが、ここで仏心を出せばすべてが台無しだ。ミイヤへの復讐という小さなことだけではない、ナイジェルスの命がかかっている。
敵を一掃するために心を鬼にと、歯を食いしばって動きを止めていた。
「ミイヤ様は部屋に入りたがって、護衛騎士と揉めたようです」
「虫の息の私を見て、せせら笑いでもしたかったのじゃないかしら」
「そんなこと、私がぜーったいに許しませんけど」
タラが鼻息荒く、フン!と息を吐いて見せる。
「ええ、頼りにしてるわ。死ぬ寸前の振りもあと少しだし、よろしくね」
「お母様、トリー姉様はいかがでした?」
リラを支えて、部屋まで連れ帰ったミイヤはソファに座らせると侍女に茶を入れさせた。
「・・・ぴくりともしないの。私がどれほど呼んでも。手に触れたら、氷のように冷たくて」
思い出したリラはまた、うめき声をあげながら泣き崩れた。
─そう、じゃあもうじき死ぬかしらね─
口元があがるのを堪えて、悲しげにリラを慰める。
「お母様、姉様はきっと良くなりますわ。私も祈りますから信じて待ちましょう」
「え、ええ」
空空しい会話だったが、リラの涙腺を崩壊させるには十分で。ミイヤが冷たく見下ろしていることには気づかず、礼を言って懇願した。
「ありがとう、ミイヤ一緒に祈ってね」
ソイスト侯爵家別邸では、マーカスとサルジャン、ナイジェルスとゴールダインの側近エイガーが顔を突き合わせていた。
「ではトローザーは隣国の公女と結婚するのか?」
「ええ。もう婚約契約締結の日程調整に入っているそうですよ」
「ふうむ。公表は当面しない?」
「はい、キャロラ妃が他国とのことだからより慎重にと申されて」
マーカスが疑問を口にした。
「てっきり私はミイヤとトローザー殿下の仲が深まって、このようなことをしたのだと思っていたのですが・・・」
「ミイヤ嬢・・・ミイヤはトローザーと公女のことは知らないのではないか?それとも知っていながらトローザーに協力している?
しかしミイヤが、可愛がってくれた姉を害してまでトローザーに協力するとしたら、相当の繋がりや約束があるということだ。
と考えたら、やはり公女のことを伏せて、ミイヤに婚約でもぶら下げたと考えるのが一番近いと思うんだが、ジャンはどう思う?」
ミイヤ嬢と言いかけ、蔑むように呼び捨てに変えたナイジェルスがサルジャンに振る、その顔は楽しいことを見つけたように、ニヤニヤしている。
「兄上が調べてくれたところによると、ミイヤとトローザーはこのところ忍んで会っていたらしい。一度や二度じゃない、イスハ王国に行く前など、毎日のように会っている。
まずはこれを読んでみてくれ」
ゴールダインが手配した女官からの報告だ。
「庭の四阿でふたりだけで話し込んでいた、顔を寄せ手を握り合っていた?」
読み終えたマーカスは、怪訝な顔をしている。
「トローザー殿下の希望された婚約が決まったと聞いたばかりではなかったでしょうか?」
「それはそれ、これはこれということだろう、えげつないことをするな」
不快そうにナイジェルスが答える。
王家から王子との婚約をユートリーに持ちかけられたとき、年齢から第二王子ナイジェルスか第三王子トローザーのどちらかにという話だった。
茶会を装った見合いで顔を合わせた時、ナイジェルスがユートリーを見初め、ユートリーもそれに躊躇わずに応えて、サクッと婚約成立になったのだ。ナイジェルスの動きが早すぎて、トローザーの出番はなかった。
それ以来ナイジェルスはユートリー一筋。
ちなみにゴールダインも婚約者と仲睦まじく過ごしている。
「守らねばならないか弱き女性に、あいつは一体何をさせているんだ!」
甘言でミイヤを操り、ユートリーを害そうとさせたことは間違いないだろう。
ナイジェルスは怒りを込めて呟いた。
「証拠さえ掴めれば」
居合わせた男たちは、互いの意志を確認するよう頷きあった。
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