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第1章

第30話 偽装

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 ソイスト侯爵家別邸に、今珍しい顔触れが集まっていた。

「何か新たなことがわかったのか?」
「いえ、目新しいことはあまり」
「まずはナイジェルス殿下、この者を紹介してもよろしいですか」

 マーカスがマベル医師を横に立たせた。

「ソイスト侯爵家のお抱え医師になったマベルです」
「トリーを診てくれているのだろう、礼を言う」
「畏れ多くもお言葉を賜り、ありがたき幸せに存じます」
「大袈裟なことは不要にしてくれ。では早速話しを聞こう」

 まずはサルジャンが、ユートリーが指摘した不安について説明した。

「なるほど、確かにいつまでも生きていたらおかしいな。その毒は症状が現れてからどのくらい生きていられるものなのだ?」

 ナイジェルスの視線がマベルを促す。

「はい、だいたい七日ほどかと」
「え?じゃあもうそろそろってことか?」
「まあ、そうなります」

 マベルに次に質問を投げたのはマーカスだった。

「その毒は、毒で儚くなるのか?それとも動けなくなって衰弱した結果儚くなるのか?」
「それは知られていない。助かった者がほとんどいないし、あれは例え動物相手だとしても試す気にはなれんし。
個人的にはどちらも作用しているのではないかと考えているんだが」
「なるほど、残酷な毒か。聞くほどにそれで死にたくないと思うな。そんな物を私のトリーに飲ませようとしたなど、許せるものではない。例え神が情けをかけろと言ってもだ」

 静かに表すからこそ、より怒りの深さが皆の心に沁みていく。

「まったくです。私たちソイストの者は誰ひとりとして犯人に情けをかける気はございません」

 マーカスも言い切った。

 ─え?母上には教えたんだろうか─

 今日も顔を腫らして目を赤く染めた母を見かけたサルジャンは、小さく首を傾げた。
 しかし、どれほどリラがミイヤを可愛がってきたといっても、毒でユートリーを害すことを許すわけがないのだ。
 真実が明らかになれば、マーカスの言うようにソイストの総意となることは間違いのないことであった。

「では仕方ない、暫く窮屈な思いをさせてしまうが、ユートリーには死んだふりをしてもらう」
「では、感染の可能性がゼロではないと言って、遺体に触れることを禁止しましょう」
「しかし、そう何日も入ったままではいられないだろう」

 あっ!とマベルが声をあげた。

「あれはどうでしょうか、ほらジャン様が言っていた人形」
「私が人形の話などし・・・たな、した!あれか」
「ええ、顔だけでもいいではありませんか」

 ふたりで急に盛り上がり始めたのを、胡散臭そうにナイジェルスが眺めていた。
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