31 / 80
第1章
第31話 見世物小屋にて
しおりを挟む
「殿下、良いことを思いつきましたよ」
「早く言え」
「今、王都にある見世物小屋がございまして」
「見世物小屋?」
「ええ。本物そっくりの蝋人形です」
ユートリーの死に顔だけでも作らせて、それを棺にいれてはどうかとサルジャンはニヤつきながら言った。
そうしてユートリーを別邸に隠せば、危ない目に合わせることもなくなるのだ。
「まずは蝋人形とやらがどれほど似ているものなのかを見てみたいな」
「殿下が行くことはできませんが、人形師と人形をここに持ち込むことならできます」
「いや、それは危険だろう。ここを知る者は少ないほど安全だ。殿下には申し訳ないですが、その判定は我らにて行うことに致しましょう」
「では実際に作らせることになったらどうトリーに似せる?」
考え込んだ者の中から、いち早くマベルが浮上する。
「私の助手と言ってユートリー様の部屋に連れていきましょう」
ナイジェルスの小さな好奇心はマーカスに握り潰されたが、その会談のあとすぐにサルジャンを筆頭にマーカスとマベル、ビブラスとで見世物小屋に向かった。
「ここか?またなんとも妖しげでまともな神経とは思えんな」
ぞわぞわと冷たいものが触れた気がしたマーカスが、それを祓おうと腕を背に回して撫で落とす。
「父上、どうなさいました?」
「いや、なんでもない。早く見てみようではないか」
庭師の外套を借りて着ても明らかに体格が良すぎるマーカスは目立っていたが、四人分をコインで払い、薄暗がりの小屋に踏みこんで行った。
「うおっ!」
今、国で人気の歌劇俳優の人形が飾られている。
「なんと!これが人形なのか?本当に?」
「あ、そこの人触らないでください」
確かめたくなったマーカスが思わず手を伸ばすと、見張っていた者に注意をされた。
「ああ、すまない」
手を引っ込めはしたが、皮膚のほんの少しのたるみとその影、毛穴までどうしたらこんなに精緻に作れるのかと興味は尽きない。
─これは我が領の観光産業などに使えないものだろうか─
考えが湧いてくるほどに見事な出来栄えであった。
「父上いかがでした?」
「うむ。想像以上の素晴らしさだ!」
「でしょう!」
「しかしこれほどのものを作れと言ってすぐに作れるのか?」
マーカスの疑問はもっともなものだったが、サルジャンは怯まない。
「顔だけでいいのですから。それに死に顔ですから、多少のっぺりしていても疑われることもないでしょう」
確かにそうかと、総員一致で蝋人形師のところへ向かった。
「貴殿があの人形を作ったのかね?大変素晴らしい物であった」
了解を取ることもなくズカズカと、裏口から踏み込んだ一行に、ワタワタと慌てる小屋の使用人たちを掻き分けたマーカスが、居丈高に口を開いた。
「これはこれはお気に召してくださいましたそうで、光栄に存じます」
「ああ気に入った。そこで貴殿に我らの話を聞いてもらいたいんだが」
騎士のようにガタイのよい男たちに囲まれた蝋人形師は、近くの宿屋の一室に連れ込まれると、それは丁寧に今後の興行を訊ねられてガクガク震えながら予定を話した。
「そうか、ちなみにこれは必ず貴殿もいなければ興行は行えないものなのか?」
「え?いえ、所用で遅れたときなどは使用人たちも小屋の設置をすることができますが」
蝋人形師はハッとした。
男たちが、悪いことを企んでいるようににやぁと笑ったから。そして言った、絶対に断れない圧を感じさせながら。
「悪いようにはしないので、ぜひとも頼みを聞いてもらいたい。謝礼は金貨50枚でどうだ?」
蝋人形師は腰が抜けそうになった。
一日小屋を開けても金貨1枚にもならないのだ。一月以上の収入を出すなんて、悪い話に決まっている。しかし、男たちの眼力にイヤだとはどうしても言えず、頭を縦に振ることしかできなかった。
「早く言え」
「今、王都にある見世物小屋がございまして」
「見世物小屋?」
「ええ。本物そっくりの蝋人形です」
ユートリーの死に顔だけでも作らせて、それを棺にいれてはどうかとサルジャンはニヤつきながら言った。
そうしてユートリーを別邸に隠せば、危ない目に合わせることもなくなるのだ。
「まずは蝋人形とやらがどれほど似ているものなのかを見てみたいな」
「殿下が行くことはできませんが、人形師と人形をここに持ち込むことならできます」
「いや、それは危険だろう。ここを知る者は少ないほど安全だ。殿下には申し訳ないですが、その判定は我らにて行うことに致しましょう」
「では実際に作らせることになったらどうトリーに似せる?」
考え込んだ者の中から、いち早くマベルが浮上する。
「私の助手と言ってユートリー様の部屋に連れていきましょう」
ナイジェルスの小さな好奇心はマーカスに握り潰されたが、その会談のあとすぐにサルジャンを筆頭にマーカスとマベル、ビブラスとで見世物小屋に向かった。
「ここか?またなんとも妖しげでまともな神経とは思えんな」
ぞわぞわと冷たいものが触れた気がしたマーカスが、それを祓おうと腕を背に回して撫で落とす。
「父上、どうなさいました?」
「いや、なんでもない。早く見てみようではないか」
庭師の外套を借りて着ても明らかに体格が良すぎるマーカスは目立っていたが、四人分をコインで払い、薄暗がりの小屋に踏みこんで行った。
「うおっ!」
今、国で人気の歌劇俳優の人形が飾られている。
「なんと!これが人形なのか?本当に?」
「あ、そこの人触らないでください」
確かめたくなったマーカスが思わず手を伸ばすと、見張っていた者に注意をされた。
「ああ、すまない」
手を引っ込めはしたが、皮膚のほんの少しのたるみとその影、毛穴までどうしたらこんなに精緻に作れるのかと興味は尽きない。
─これは我が領の観光産業などに使えないものだろうか─
考えが湧いてくるほどに見事な出来栄えであった。
「父上いかがでした?」
「うむ。想像以上の素晴らしさだ!」
「でしょう!」
「しかしこれほどのものを作れと言ってすぐに作れるのか?」
マーカスの疑問はもっともなものだったが、サルジャンは怯まない。
「顔だけでいいのですから。それに死に顔ですから、多少のっぺりしていても疑われることもないでしょう」
確かにそうかと、総員一致で蝋人形師のところへ向かった。
「貴殿があの人形を作ったのかね?大変素晴らしい物であった」
了解を取ることもなくズカズカと、裏口から踏み込んだ一行に、ワタワタと慌てる小屋の使用人たちを掻き分けたマーカスが、居丈高に口を開いた。
「これはこれはお気に召してくださいましたそうで、光栄に存じます」
「ああ気に入った。そこで貴殿に我らの話を聞いてもらいたいんだが」
騎士のようにガタイのよい男たちに囲まれた蝋人形師は、近くの宿屋の一室に連れ込まれると、それは丁寧に今後の興行を訊ねられてガクガク震えながら予定を話した。
「そうか、ちなみにこれは必ず貴殿もいなければ興行は行えないものなのか?」
「え?いえ、所用で遅れたときなどは使用人たちも小屋の設置をすることができますが」
蝋人形師はハッとした。
男たちが、悪いことを企んでいるようににやぁと笑ったから。そして言った、絶対に断れない圧を感じさせながら。
「悪いようにはしないので、ぜひとも頼みを聞いてもらいたい。謝礼は金貨50枚でどうだ?」
蝋人形師は腰が抜けそうになった。
一日小屋を開けても金貨1枚にもならないのだ。一月以上の収入を出すなんて、悪い話に決まっている。しかし、男たちの眼力にイヤだとはどうしても言えず、頭を縦に振ることしかできなかった。
31
あなたにおすすめの小説
魔法のせいだから許して?
ましろ
恋愛
リーゼロッテの婚約者であるジークハルト王子の突然の心変わり。嫌悪を顕にした眼差し、口を開けば暴言、身に覚えの無い出来事までリーゼのせいにされる。リーゼは学園で孤立し、ジークハルトは美しい女性の手を取り愛おしそうに見つめながら愛を囁く。
どうしてこんなことに?それでもきっと今だけ……そう、自分に言い聞かせて耐えた。でも、そろそろ一年。もう終わらせたい、そう思っていたある日、リーゼは殿下に罵倒され頬を張られ怪我をした。
──もう無理。王妃様に頼み、なんとか婚約解消することができた。
しかしその後、彼の心変わりは魅了魔法のせいだと分かり……
魔法のせいなら許せる?
基本ご都合主義。ゆるゆる設定です。
さようなら、私の愛したあなた。
希猫 ゆうみ
恋愛
オースルンド伯爵家の令嬢カタリーナは、幼馴染であるロヴネル伯爵家の令息ステファンを心から愛していた。いつか結婚するものと信じて生きてきた。
ところが、ステファンは爵位継承と同時にカールシュテイン侯爵家の令嬢ロヴィーサとの婚約を発表。
「君の恋心には気づいていた。だが、私は違うんだ。さようなら、カタリーナ」
ステファンとの未来を失い茫然自失のカタリーナに接近してきたのは、社交界で知り合ったドグラス。
ドグラスは王族に連なるノルディーン公爵の末子でありマルムフォーシュ伯爵でもある超上流貴族だったが、不埒な噂の絶えない人物だった。
「あなたと遊ぶほど落ちぶれてはいません」
凛とした態度を崩さないカタリーナに、ドグラスがある秘密を打ち明ける。
なんとドグラスは王家の密偵であり、偽装として遊び人のように振舞っているのだという。
「俺に協力してくれたら、ロヴィーサ嬢の真実を教えてあげよう」
こうして密偵助手となったカタリーナは、幾つかの真実に触れながら本当の愛に辿り着く。
真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください
LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。
伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。
真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。
(他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…)
(1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)
もう散々泣いて悔やんだから、過去に戻ったら絶対に間違えない
もーりんもも
恋愛
セラフィネは一目惚れで結婚した夫に裏切られ、満足な食事も与えられず自宅に軟禁されていた。
……私が馬鹿だった。それは分かっているけど悔しい。夫と出会う前からやり直したい。 そのチャンスを手に入れたセラフィネは復讐を誓う――。
婚約破棄されました。
まるねこ
恋愛
私、ルナ・ブラウン。歳は本日14歳となったところですわ。家族は父ラスク・ブラウン公爵と母オリヴィエ、そして3つ上の兄、アーロの4人家族。
本日、私の14歳の誕生日のお祝いと、婚約者のお披露目会を兼ねたパーティーの場でそれは起こりました。
ド定番的な婚約破棄からの恋愛物です。
習作なので短めの話となります。
恋愛大賞に応募してみました。内容は変わっていませんが、少し文を整えています。
ふんわり設定で気軽に読んでいただければ幸いです。
Copyright©︎2020-まるねこ
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
【完結】もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜
あまぞらりゅう
恋愛
キアラ・リグリーア伯爵令嬢は、同じ人生を繰り返していた。
彼女の最期はいつも処刑台の上。
それは婚約者のダミアーノ・ヴィッツィオ公爵令息の陰謀だった。
死んだら、また過去に戻ってくる。
その度に彼女は婚約者のことを激しく憎んで、もう愛さないと強く胸に誓っていた。
でも、何度回帰しても彼女は彼を愛してしまって、最後は必ず破滅を迎えてしまう。
キアラはもうダミアーノを愛したくなかったし、愛なんてものは信じていなかった。
――そして七回目の人生で、彼女は真実を知る。
★元サヤではありません!(ヒーローは別にいます!)
★不快になるような残酷な描写があります!
★他サイト様にも投稿しています!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる