【完結】時戻り令嬢は復讐する

やまぐちこはる

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第1章

第31話 見世物小屋にて

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「殿下、良いことを思いつきましたよ」
「早く言え」
「今、王都にある見世物小屋がございまして」
「見世物小屋?」
「ええ。本物そっくりの蝋人形です」

 ユートリーの死に顔だけでも作らせて、それを棺にいれてはどうかとサルジャンはニヤつきながら言った。
そうしてユートリーを別邸に隠せば、危ない目に合わせることもなくなるのだ。

「まずは蝋人形とやらがどれほど似ているものなのかを見てみたいな」
「殿下が行くことはできませんが、人形師と人形をここに持ち込むことならできます」
「いや、それは危険だろう。ここを知る者は少ないほど安全だ。殿下には申し訳ないですが、その判定は我らにて行うことに致しましょう」
「では実際に作らせることになったらどうトリーに似せる?」

 考え込んだ者の中から、いち早くマベルが浮上する。

「私の助手と言ってユートリー様の部屋に連れていきましょう」

 ナイジェルスの小さな好奇心はマーカスに握り潰されたが、その会談のあとすぐにサルジャンを筆頭にマーカスとマベル、ビブラスとで見世物小屋に向かった。






「ここか?またなんとも妖しげでまともな神経とは思えんな」

 ぞわぞわと冷たいものが触れた気がしたマーカスが、それを祓おうと腕を背に回して撫で落とす。

「父上、どうなさいました?」
「いや、なんでもない。早く見てみようではないか」

 庭師の外套を借りて着ても明らかに体格が良すぎるマーカスは目立っていたが、四人分をコインで払い、薄暗がりの小屋に踏みこんで行った。

「うおっ!」

 今、国で人気の歌劇俳優の人形が飾られている。

「なんと!これが人形なのか?本当に?」
「あ、そこの人触らないでください」

 確かめたくなったマーカスが思わず手を伸ばすと、見張っていた者に注意をされた。

「ああ、すまない」

 手を引っ込めはしたが、皮膚のほんの少しのたるみとその影、毛穴までどうしたらこんなに精緻に作れるのかと興味は尽きない。

 ─これは我が領の観光産業などに使えないものだろうか─

 考えが湧いてくるほどに見事な出来栄えであった。

「父上いかがでした?」
「うむ。想像以上の素晴らしさだ!」
「でしょう!」
「しかしこれほどのものを作れと言ってすぐに作れるのか?」

 マーカスの疑問はもっともなものだったが、サルジャンは怯まない。

「顔だけでいいのですから。それに死に顔ですから、多少のっぺりしていても疑われることもないでしょう」

 確かにそうかと、総員一致で蝋人形師のところへ向かった。

「貴殿があの人形を作ったのかね?大変素晴らしい物であった」

 了解を取ることもなくズカズカと、裏口から踏み込んだ一行に、ワタワタと慌てる小屋の使用人たちを掻き分けたマーカスが、居丈高に口を開いた。

「これはこれはお気に召してくださいましたそうで、光栄に存じます」
「ああ気に入った。そこで貴殿に我らの話を聞いてもらいたいんだが」

 騎士のようにガタイのよい男たちに囲まれた蝋人形師は、近くの宿屋の一室に連れ込まれると、それは丁寧に今後の興行を訊ねられてガクガク震えながら予定を話した。

「そうか、ちなみにこれは必ず貴殿もいなければ興行は行えないものなのか?」
「え?いえ、所用で遅れたときなどは使用人たちも小屋の設置をすることができますが」

 蝋人形師はハッとした。
 男たちが、悪いことを企んでいるようににやぁと笑ったから。そして言った、絶対に断れない圧を感じさせながら。

「悪いようにはしないので、ぜひとも頼みを聞いてもらいたい。謝礼は金貨50枚でどうだ?」

 蝋人形師は腰が抜けそうになった。
 一日小屋を開けても金貨1枚にもならないのだ。一月以上の収入を出すなんて、悪い話に決まっている。しかし、男たちの眼力にイヤだとはどうしても言えず、頭を縦に振ることしかできなかった。
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