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第1章
第32話 マベルの助手
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コンコン
珍しくマベル医師が助手を連れてソイスト侯爵家へやって来た。
「マベル様、そちらは?」
不安そうなリラが声をかけてきたので、マベルはそれを和らげるようやさしく答えを返してやる。
「こちらは私の助手のコーザルと申します。私はなかなかユートリー様のおそばに居続けるのが難しいですが、代わりにコーザルをつけて差し上げたいと、先程マーカス様にもお知らせ致しました」
「まあ!マベル様ありがとうございます。ユートリーのために・・・感謝致します」
「いえ、私も小さな頃からよく知るユートリー様に、もっとして差し上げられることがないかと思いまして。何か異変があればコーザルも対応ができますから」
うっうっとリラが涙を流すのを見て、マベルは胸の痛みを感じた。
護衛騎士へは勿論マーカスから話が通っていたのだが、ユートリーの部屋までリラがついてきて、付き添い人について説明をしてくれる。
「いい?ユートリーのためについていてくださるそうだから、失礼のないように頼むわね」
「承知いたしましたっ!」
リラもともにユートリーの部屋に入ると、また涙がこぼれてしまう。
呻くようにタラにコーザルを紹介するリラは、限界を迎えた。
「ご、ごめんなさい。私、つらくて」
そう言いながら、カサついたユートリーの腕を擦ってやるのが、最近のリラの習慣になっていた。
「もう行きますわ。タラ、マベル様とコーザル様に失礼のないように、しっかり頼むわね」
ぱたんと扉が閉まると、真っ青な顔のユートリーがプハッと息を吐いた。
コーザルがぎょっとしてユートリーを凝視すると、その顔色ではありえない朗らかな笑顔で死に体の令嬢が「ごきげんよう」と言ったのだ。
「ひっ・・・」
「おいおい、ちゃんと話しただろう?これは死にそうなふりなんだから、そんなに怯えるな」
「はっはい」
くすくすとユートリーとタラが笑いを漏らしている。
「私はソイスト侯爵家のユートリーですわ。母が紹介したとおり、こちらは侍女のタラ。よろしくお願いしますね人形師さん」
「はっはぁ、お、お任せください」
蝋人形を作るとき、普通は顔の型を取り彩色を施す。今回はそこまでは精密でなくともよいが、とにかく早く、棺の中でユートリーに見える顔を作れと言い含められている。
「但し、美しさを損なわないこと!」
ナイジェルスからの命令であった。
マベルが帰ったあと、控えの間を与えられたコーザルは密かにユートリーの顔を作り始めた。
本来、本人から直接型を取るのが一番精巧、または粘土と石膏で型を作ったりもするが、今回はまったく時間がないため、大きく四角く固めてきた蝋を、ユートリーの寝顔を見ながら削り出していくことにした。
全身ではないため時間は思いの外かからず、持ち込んだかつらの毛先を短く切って、閉じた瞼の縁や額に植え込んでいく。
ユートリーの艷やかな金髪とは似ても似つかないが、棺の中に入れてしまうのだからそんなことまではわからないだろう。
最後にユートリーの使う化粧品で顔を仕上げた。
「すごい!素晴らしい技術だわコーザルさん」
「光栄に存じます」
恭しく頭を下げるコーザルを見ながら、ユートリーは思った。
─この計画を成功させるのは、この蝋人形かもしれないわ─
珍しくマベル医師が助手を連れてソイスト侯爵家へやって来た。
「マベル様、そちらは?」
不安そうなリラが声をかけてきたので、マベルはそれを和らげるようやさしく答えを返してやる。
「こちらは私の助手のコーザルと申します。私はなかなかユートリー様のおそばに居続けるのが難しいですが、代わりにコーザルをつけて差し上げたいと、先程マーカス様にもお知らせ致しました」
「まあ!マベル様ありがとうございます。ユートリーのために・・・感謝致します」
「いえ、私も小さな頃からよく知るユートリー様に、もっとして差し上げられることがないかと思いまして。何か異変があればコーザルも対応ができますから」
うっうっとリラが涙を流すのを見て、マベルは胸の痛みを感じた。
護衛騎士へは勿論マーカスから話が通っていたのだが、ユートリーの部屋までリラがついてきて、付き添い人について説明をしてくれる。
「いい?ユートリーのためについていてくださるそうだから、失礼のないように頼むわね」
「承知いたしましたっ!」
リラもともにユートリーの部屋に入ると、また涙がこぼれてしまう。
呻くようにタラにコーザルを紹介するリラは、限界を迎えた。
「ご、ごめんなさい。私、つらくて」
そう言いながら、カサついたユートリーの腕を擦ってやるのが、最近のリラの習慣になっていた。
「もう行きますわ。タラ、マベル様とコーザル様に失礼のないように、しっかり頼むわね」
ぱたんと扉が閉まると、真っ青な顔のユートリーがプハッと息を吐いた。
コーザルがぎょっとしてユートリーを凝視すると、その顔色ではありえない朗らかな笑顔で死に体の令嬢が「ごきげんよう」と言ったのだ。
「ひっ・・・」
「おいおい、ちゃんと話しただろう?これは死にそうなふりなんだから、そんなに怯えるな」
「はっはい」
くすくすとユートリーとタラが笑いを漏らしている。
「私はソイスト侯爵家のユートリーですわ。母が紹介したとおり、こちらは侍女のタラ。よろしくお願いしますね人形師さん」
「はっはぁ、お、お任せください」
蝋人形を作るとき、普通は顔の型を取り彩色を施す。今回はそこまでは精密でなくともよいが、とにかく早く、棺の中でユートリーに見える顔を作れと言い含められている。
「但し、美しさを損なわないこと!」
ナイジェルスからの命令であった。
マベルが帰ったあと、控えの間を与えられたコーザルは密かにユートリーの顔を作り始めた。
本来、本人から直接型を取るのが一番精巧、または粘土と石膏で型を作ったりもするが、今回はまったく時間がないため、大きく四角く固めてきた蝋を、ユートリーの寝顔を見ながら削り出していくことにした。
全身ではないため時間は思いの外かからず、持ち込んだかつらの毛先を短く切って、閉じた瞼の縁や額に植え込んでいく。
ユートリーの艷やかな金髪とは似ても似つかないが、棺の中に入れてしまうのだからそんなことまではわからないだろう。
最後にユートリーの使う化粧品で顔を仕上げた。
「すごい!素晴らしい技術だわコーザルさん」
「光栄に存じます」
恭しく頭を下げるコーザルを見ながら、ユートリーは思った。
─この計画を成功させるのは、この蝋人形かもしれないわ─
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