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第3章
第59話 憂うナイジェルス
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ソイスト侯爵別邸に、国王陛下からの書状が届けられた。
「兄上が父上に報告されたそうだ」
「そうですか。陛下もお辛いでしょうね」
あれ以来屋敷に戻らずにのんびりと過ごすリラが、息子の一人を断罪せねばならない国王の心中を慮り、苦しげな顔を見せている。
「リラ様もお辛いのではありませんか?」
ナイジェルスは、ミイヤをそれは可愛がっていたリラを気遣ったのだが。
「私はミイヤに疑いを少しも持っておりませんでした。娘として信じて愛して守り、母として同じように信じて愛してくれていると。でも違いましたわ、アレは娘などではなかった、私たちを利用し、私の宝物を害そうと虎視眈々狙っていた悪い虫でした。裏切り者に思うことは怒りだけでございます」
いつも朗らかで穏やかなリラが、そこまで言うとは誰も予想もせず。
「誰よりも。誰よりも強く怒りを持ち、何よりも大きな罰を与えてやりたい。それがこの八年を裏切った者への私の思いでございますわ」
ひゅーっと、開けられた窓から冷たい風が通り抜けたが、その風はリラの纏う氣のせいでナイジェルスとユートリー、サルジャンたちの身も凍らせた。
「さ、寒っい」
ぶるぶるっと震えたサルジャンは、張り詰めた空気を誤魔化すようわざとガタっと大きな音を立てて立ち上がり、乱暴に窓を閉める。
「冷えてきたから、温かい茶でも淹れ直してもらおう」
サルジャン自身も厳罰を求めるつもりでいるが、母の決意を聞いて、すべてが詳らかになったときに家族はそれをどう乗り越えて行くのだろうと不安にかられていた。
別邸とその庭は深い森に包まれて、世知辛いことからは完全に切り離されている。
「トリー、本当に大丈夫か?トリーもご家族も」
「はい、私はもう大丈夫ですわ。自分が殺されかけて情けをかけるほどお人好しではございません。ただお母様は・・・。
怒っていらっしゃるのはわかっておりましたが、手加減してやるよう切り出すとしたらお母様だと思っておりましたわ」
「うん。例え罪の軽減を願われても今回は厳罰を下す・・・しかないんだが」
ナイジェルスは四阿でユートリーの手を握りしめると。
「王子やその婚約者を害そうとしたなら、毒杯を被るか断首のどちらかだが。ああ仰られてもだ、いくら裏切られたと言ってもここまで育てた娘の命を持って贖うことを良しとするのだろうか?あの心やさしいリラ様が?
ぶっちゃけて言うと、王家ではまあ、良くあることだから父上たちは覚悟を決められていると思うが。
怒りをそれで手放せるというものでもないから、そのあとのお心が心配だよ。私たちがお支えしなければ」
「ありがとうございます。ナイジェルス様もトローザー殿下が毒盃を賜るのはお辛いですね」
ユートリーも家族を失うナイジェルスを労ったのだが。
「ん?いいや。冷たく聞こえるかもしれないが、トローザーは兄弟であって兄弟ではない。私の兄弟は兄上だけだよ。どちらかと言うとしでかした親戚が毒杯をくらうような感じだ」
握っていたユートリーの手の甲を、ナイジェルスがやさしく撫でている。
「王族は殺るか殺られるかだ、例え血を分けていても。あー、兄上のことは信じているが、トリーをそんな王族にはしたくなかったから臣籍降下を決めたというのに、まさかトローザーたちがトリーまで狙うとは思わなかった」
珍しく頼りなさげな目を、ユートリーに向けている。
「もう二度とトリーを危険な目に合わせたくない。この件が片付いたら私はすぐに王族から離脱する。トローザー一派がいなくなれば、流石にそう狙われることも無くなるだろうから」
まるで泣いているようなナイジェルスの頬に、ユートリーは自分の頬を擦りつけた。
ぴったりと頬をくっつけたふたりは、体温を分かち合う。
「ナイジェルス様、この前も申しましたわよね。どんなことがあっても、ともにおりますって。ミイヤへの情はすでにありません。今断罪しなければむしろ、私この先ずっと後悔し続けますわ!だからどんなことがあってもやり遂げてみせます。そんな私はお嫌いでしょうか」
「とんでもない!強く毅然としたトリーも誰より愛おしいよ」
ナイジェルスは空いた片手で、ユートリーの腰を抱き寄せた。
「兄上が父上に報告されたそうだ」
「そうですか。陛下もお辛いでしょうね」
あれ以来屋敷に戻らずにのんびりと過ごすリラが、息子の一人を断罪せねばならない国王の心中を慮り、苦しげな顔を見せている。
「リラ様もお辛いのではありませんか?」
ナイジェルスは、ミイヤをそれは可愛がっていたリラを気遣ったのだが。
「私はミイヤに疑いを少しも持っておりませんでした。娘として信じて愛して守り、母として同じように信じて愛してくれていると。でも違いましたわ、アレは娘などではなかった、私たちを利用し、私の宝物を害そうと虎視眈々狙っていた悪い虫でした。裏切り者に思うことは怒りだけでございます」
いつも朗らかで穏やかなリラが、そこまで言うとは誰も予想もせず。
「誰よりも。誰よりも強く怒りを持ち、何よりも大きな罰を与えてやりたい。それがこの八年を裏切った者への私の思いでございますわ」
ひゅーっと、開けられた窓から冷たい風が通り抜けたが、その風はリラの纏う氣のせいでナイジェルスとユートリー、サルジャンたちの身も凍らせた。
「さ、寒っい」
ぶるぶるっと震えたサルジャンは、張り詰めた空気を誤魔化すようわざとガタっと大きな音を立てて立ち上がり、乱暴に窓を閉める。
「冷えてきたから、温かい茶でも淹れ直してもらおう」
サルジャン自身も厳罰を求めるつもりでいるが、母の決意を聞いて、すべてが詳らかになったときに家族はそれをどう乗り越えて行くのだろうと不安にかられていた。
別邸とその庭は深い森に包まれて、世知辛いことからは完全に切り離されている。
「トリー、本当に大丈夫か?トリーもご家族も」
「はい、私はもう大丈夫ですわ。自分が殺されかけて情けをかけるほどお人好しではございません。ただお母様は・・・。
怒っていらっしゃるのはわかっておりましたが、手加減してやるよう切り出すとしたらお母様だと思っておりましたわ」
「うん。例え罪の軽減を願われても今回は厳罰を下す・・・しかないんだが」
ナイジェルスは四阿でユートリーの手を握りしめると。
「王子やその婚約者を害そうとしたなら、毒杯を被るか断首のどちらかだが。ああ仰られてもだ、いくら裏切られたと言ってもここまで育てた娘の命を持って贖うことを良しとするのだろうか?あの心やさしいリラ様が?
ぶっちゃけて言うと、王家ではまあ、良くあることだから父上たちは覚悟を決められていると思うが。
怒りをそれで手放せるというものでもないから、そのあとのお心が心配だよ。私たちがお支えしなければ」
「ありがとうございます。ナイジェルス様もトローザー殿下が毒盃を賜るのはお辛いですね」
ユートリーも家族を失うナイジェルスを労ったのだが。
「ん?いいや。冷たく聞こえるかもしれないが、トローザーは兄弟であって兄弟ではない。私の兄弟は兄上だけだよ。どちらかと言うとしでかした親戚が毒杯をくらうような感じだ」
握っていたユートリーの手の甲を、ナイジェルスがやさしく撫でている。
「王族は殺るか殺られるかだ、例え血を分けていても。あー、兄上のことは信じているが、トリーをそんな王族にはしたくなかったから臣籍降下を決めたというのに、まさかトローザーたちがトリーまで狙うとは思わなかった」
珍しく頼りなさげな目を、ユートリーに向けている。
「もう二度とトリーを危険な目に合わせたくない。この件が片付いたら私はすぐに王族から離脱する。トローザー一派がいなくなれば、流石にそう狙われることも無くなるだろうから」
まるで泣いているようなナイジェルスの頬に、ユートリーは自分の頬を擦りつけた。
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「ナイジェルス様、この前も申しましたわよね。どんなことがあっても、ともにおりますって。ミイヤへの情はすでにありません。今断罪しなければむしろ、私この先ずっと後悔し続けますわ!だからどんなことがあってもやり遂げてみせます。そんな私はお嫌いでしょうか」
「とんでもない!強く毅然としたトリーも誰より愛おしいよ」
ナイジェルスは空いた片手で、ユートリーの腰を抱き寄せた。
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