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第3章
第61話 母の怒り
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ミイヤは毎日トローザー王子に手紙を書いている。だいたい便箋一枚程度。
早く婚約したい!早く結婚したい!
喪中とかいう習慣なんてつまらない!
最初は何か役に立つ情報があるかと読んでいたトローザーだが、そんな愚痴が飽きもせずにずらずら書かれているだけなので、今は開くこともなく丸めて捨てている。
それとは別に、ソイスト侯爵からユートリーのお別れの会の報せが届いていた。
王妃とゴールダイン、キャロラとトローザーは家族となるはずだった人の別れの会だから参列するようにと、王直々に話があった。
「お別れの会?面倒臭いわねえ」
離宮でキャロラがトローザーにハンカチを渡す。
「トローザーの紋を入れておいたわ。ところで、例の者はまだ見つからないの?」
「はい。それが影も連絡がつかなくなって」
「え!いつから?」
「かれこれ三日になります」
しょげて項垂れたトローザーに、キャロラがカップを投げつけた。
壁に当たってガシャン!と割れて散る。
「おまえ、なんて愚かなの!三日も影と連絡がつかないなんて異常なことよ、次の手は打ったのでしょうね?」
「いえ、それが三人とも連絡がつかなくて」
キャロラは青褪めたままトローザーを問い詰める。
「ソイスト侯爵家に異変はない?ミイヤからは何も言ってきていないの?事件現場で不審な事件が起きたという話は?」
トローザーはミイヤからの手紙は読まずに捨ててしまったから、屋敷で異変があったかはわからないし、事件現場周辺で何か起きていたかも調べたことはなかった。
「このっ愚か者っ!ミイヤのことを言えないわまったく」
「も、申し訳ございませんっ」
「急いで調べるのよ」
「あの、母上の影をお貸し下さい」
トローザーはキャロラに頭を下げたが。
「いないわよ、側妃には」
「え?」
「国王と王妃、王子たちにしか影は与えられないのよ。そんなことも知らないなんて貴方は今まで何をやってきたの?」
呆れ果てたように母に叱責され、愕然とする。
「いない?」
「そうよ。貴方は三人をもっと大切に使わなければならなかったのよっ!他に動かせる者はいないの?」
「え、ああ・・・考えてみます」
「そんな時間ないでしょう!ターナル家が消えた手の者を探しているのだから、書状を出して、現場付近の捜索がどうなっているのか、変わったことは起きていないか情報を集めさせるの。今すぐよ!」
キャロラは苛立ちを隠さず、今度はトローザーにソーサーを投げつけた。
「わ、わかりました。すぐやります」
這々の体で逃げ出すと、急いで母の妹がいるターナル伯爵家に書状を認めて自分で城門まで下り、門横の控室にいた伝令兵に託した。
王子が書状を伝令のところまで持って行くなど異例のことだ。トローザーは知られないよう目立たぬよう自ら行ったのだが、その異様さから王子が怪しげな書状を出していたと噂が広まるきっかけとなった。
早く婚約したい!早く結婚したい!
喪中とかいう習慣なんてつまらない!
最初は何か役に立つ情報があるかと読んでいたトローザーだが、そんな愚痴が飽きもせずにずらずら書かれているだけなので、今は開くこともなく丸めて捨てている。
それとは別に、ソイスト侯爵からユートリーのお別れの会の報せが届いていた。
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「はい。それが影も連絡がつかなくなって」
「え!いつから?」
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しょげて項垂れたトローザーに、キャロラがカップを投げつけた。
壁に当たってガシャン!と割れて散る。
「おまえ、なんて愚かなの!三日も影と連絡がつかないなんて異常なことよ、次の手は打ったのでしょうね?」
「いえ、それが三人とも連絡がつかなくて」
キャロラは青褪めたままトローザーを問い詰める。
「ソイスト侯爵家に異変はない?ミイヤからは何も言ってきていないの?事件現場で不審な事件が起きたという話は?」
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「このっ愚か者っ!ミイヤのことを言えないわまったく」
「も、申し訳ございませんっ」
「急いで調べるのよ」
「あの、母上の影をお貸し下さい」
トローザーはキャロラに頭を下げたが。
「いないわよ、側妃には」
「え?」
「国王と王妃、王子たちにしか影は与えられないのよ。そんなことも知らないなんて貴方は今まで何をやってきたの?」
呆れ果てたように母に叱責され、愕然とする。
「いない?」
「そうよ。貴方は三人をもっと大切に使わなければならなかったのよっ!他に動かせる者はいないの?」
「え、ああ・・・考えてみます」
「そんな時間ないでしょう!ターナル家が消えた手の者を探しているのだから、書状を出して、現場付近の捜索がどうなっているのか、変わったことは起きていないか情報を集めさせるの。今すぐよ!」
キャロラは苛立ちを隠さず、今度はトローザーにソーサーを投げつけた。
「わ、わかりました。すぐやります」
這々の体で逃げ出すと、急いで母の妹がいるターナル伯爵家に書状を認めて自分で城門まで下り、門横の控室にいた伝令兵に託した。
王子が書状を伝令のところまで持って行くなど異例のことだ。トローザーは知られないよう目立たぬよう自ら行ったのだが、その異様さから王子が怪しげな書状を出していたと噂が広まるきっかけとなった。
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