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第3章
第65話 王の根回し
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国王はいつもと同じようにキャロラ妃の宮に足を運んだ。
正確には同じではない。もう以前のように、キャロラ妃の美しさを愛し楽しむ気持ちは失ってしまったから。
─身の程を弁えておれば、長生きできたというのに─
王の寵愛を良いことに、王妃の生んだ王子の命を狙うとは。
トローザーを推し上げるために、兄王子たちを貶める噂を流したり、怪しい貴族たちと頻繁に会っているのは知っていたが、いずれは優れた兄王子たちには敵わないとわかるだろうと、見逃してやっていたというのに!
所詮キャロラは側妃にしかなれない出自だと、不思議なほどあっさり執着を手放すことができた。
それとともに、あれほどかわいいと思っていたトローザーの愚かさにもうんざりしていた。
くだらない陰謀を諌めもしない側近や親戚たちに躍らされたトローザーは、自分がゴールダインより劣ることは決して認めず、玉座を狙う愚か者だ。
判明したナイジェルス襲撃計画は稚拙の一言。
襲った相手に撃退されたばかりか、ナイジェルスは信頼のおける臣下と態勢を整え反撃に出ようとしている。
国王はもう一つ、思うことがあった。
もしナイジェルスが誤った判断をしたら、マーカスやサルジャンははっきりと止めるに違いないが、トローザーにはそう言う側近がいない。
人に恵まれないということは、つまり本人もその程度と言うこと。
「施政者の座を狙うなど烏滸がましい」
可愛さ余って憎さ百倍、王の胸中は怒りと憎しみがとぐろを巻いていた。
「キャロラ」
「まあ!陛下どうなさいましたの」
「其方の顔が見たくなって、執務を抜けてきた」
「うれしいですわ!お茶を淹れましょう」
本当にうれしそうに微笑む姿を見ると、暗殺を企むようには見えないが、しかし知ってしまった今は、その笑顔さえ浅ましい作りものにしか見えなくなった。
「トローザーの婚約はまだ公にはできん。いつもの令嬢たちの茶会は今までどおりに開催しておけ。勘ぐられたりしないようにまったく同じ顔ぶれで同じ規模で」
ミイヤを外さないよう、念を押す。
「同じ顔ぶれででございますか?」
「今までもそうだったのであろう?」
「え、ええまあ左様でございますが」
「婚約したのなら良いが、そうでもないのに急に呼ばれなくなる者がいたら、それも噂となろうからな」
キャロラが複雑な顔をしているのが見えたが、まったく気にならなくなっている。
「トローザーの婚約の調印もまだ時間がかかりそうだから、時間稼ぎを頼むぞ」
「陛下!」
珍しいことに国王は淹れられた茶を飲むこともせず、キャロラを置いてさっさと執務に戻って行った。
「もう、何よ言いたいことだけ言って!」
「キャロラ様に甘えていらっしゃるのではありませんか」
見当違いな女官の言葉に、キャロラはそうかしらと小首を傾げ、女官たちはキャロラが如何に国王に寵愛されているかを謳い上げて、王が意図したわけではなかったが、キャロラの不審の目はうまく誤魔化された。
正確には同じではない。もう以前のように、キャロラ妃の美しさを愛し楽しむ気持ちは失ってしまったから。
─身の程を弁えておれば、長生きできたというのに─
王の寵愛を良いことに、王妃の生んだ王子の命を狙うとは。
トローザーを推し上げるために、兄王子たちを貶める噂を流したり、怪しい貴族たちと頻繁に会っているのは知っていたが、いずれは優れた兄王子たちには敵わないとわかるだろうと、見逃してやっていたというのに!
所詮キャロラは側妃にしかなれない出自だと、不思議なほどあっさり執着を手放すことができた。
それとともに、あれほどかわいいと思っていたトローザーの愚かさにもうんざりしていた。
くだらない陰謀を諌めもしない側近や親戚たちに躍らされたトローザーは、自分がゴールダインより劣ることは決して認めず、玉座を狙う愚か者だ。
判明したナイジェルス襲撃計画は稚拙の一言。
襲った相手に撃退されたばかりか、ナイジェルスは信頼のおける臣下と態勢を整え反撃に出ようとしている。
国王はもう一つ、思うことがあった。
もしナイジェルスが誤った判断をしたら、マーカスやサルジャンははっきりと止めるに違いないが、トローザーにはそう言う側近がいない。
人に恵まれないということは、つまり本人もその程度と言うこと。
「施政者の座を狙うなど烏滸がましい」
可愛さ余って憎さ百倍、王の胸中は怒りと憎しみがとぐろを巻いていた。
「キャロラ」
「まあ!陛下どうなさいましたの」
「其方の顔が見たくなって、執務を抜けてきた」
「うれしいですわ!お茶を淹れましょう」
本当にうれしそうに微笑む姿を見ると、暗殺を企むようには見えないが、しかし知ってしまった今は、その笑顔さえ浅ましい作りものにしか見えなくなった。
「トローザーの婚約はまだ公にはできん。いつもの令嬢たちの茶会は今までどおりに開催しておけ。勘ぐられたりしないようにまったく同じ顔ぶれで同じ規模で」
ミイヤを外さないよう、念を押す。
「同じ顔ぶれででございますか?」
「今までもそうだったのであろう?」
「え、ええまあ左様でございますが」
「婚約したのなら良いが、そうでもないのに急に呼ばれなくなる者がいたら、それも噂となろうからな」
キャロラが複雑な顔をしているのが見えたが、まったく気にならなくなっている。
「トローザーの婚約の調印もまだ時間がかかりそうだから、時間稼ぎを頼むぞ」
「陛下!」
珍しいことに国王は淹れられた茶を飲むこともせず、キャロラを置いてさっさと執務に戻って行った。
「もう、何よ言いたいことだけ言って!」
「キャロラ様に甘えていらっしゃるのではありませんか」
見当違いな女官の言葉に、キャロラはそうかしらと小首を傾げ、女官たちはキャロラが如何に国王に寵愛されているかを謳い上げて、王が意図したわけではなかったが、キャロラの不審の目はうまく誤魔化された。
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