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第4章
第71話 断罪1
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「ミイヤはいまどこにいるのですか?」
「この控えとは反対の間だ。ところでマーカス、あれは用意してきたか」
「はい、もちろんでございます」
上着の内ポケットから引き出した書類は、ミイヤとの養子縁組を解消するというものだ。
それを提出するとミイヤはただの平民となり、マーカスが継がせるつもりで保有している実家子爵の継承権も失う。
マーカスは王に渡す前にミラ夫人とユートリーに書類を見せた。素早く全文に目を走らせたミラとユートリーは迷うことなく頷き、マーカスに押し戻す。
「では陛下、どうぞお願い申し上げます」
通常は城内の窓口に出し、幾人もの文官が目を通した上で国王が裁可を下す。
しかし今国王はすべての手続きを省いて、指輪を開き、内側に彫られた玉璽を押した。
「これでミイヤは平民となった」
もう後戻りは出来なくなったが、誰一人後悔する者はいない。
呼び鈴を鳴らすと侍従が応えた。
「トローザーとミイヤ・ソイスト、いやミイヤを謁見の間に」
そう告げると自ら控えの間に厚いカーテンを引き下ろす。
これにより控えの間にいるナイジェルスとソイスト侯爵一家は、謁見の間にいる者に存在を知られることはない。
しかし厚いと言っても布一枚で仕切られているだけなので、小さな物音だって一つも聞き逃すことなく、これから起きるミイヤとトローザー王子のやりとりを聞くことが出来た。
「父上、一体何なのですか?」
「陛下!」
トローザーはまだしも、ミイヤが発言するのは許されない。
「静かにしろ。キャロラの茶会で酷い騒ぎを起こしたと聞いた。貴族たちがいろいろと言ってきたので事情を確認するために呼んだのだ」
「騒ぎなど!私はしておりません、このミイヤ・ソイストが一人で勝手に泣き喚いたのです」
まったく!と怒りを込めた視線でミイヤを睨みつけているが心中は穏やかではない。口留めする間もなく国王のまえにつれてこられて、余計なことを口走らないものかと不安でならなかった。
そのトローザーを見て、こらえきれなくなったミイヤの目から涙がじわりと溢れてくる。
「ひ、酷いです、急につ、つべたぐなっで」
ぐすりと鼻をすすったミイヤが哀れを誘うように言ったが。
「黙れ!発言は許していない!」
国王の威厳にびくりとしたミイヤは、そのうちにぶるぶると震え始めた。
「トローザー、どういうことかまずおまえから話せ」
「は、はい。それが私にもよくわかりません。急に意味不明なことを喚き始めて」
「ほお、意味不明なこととはどんなことだ?」
トローザーは口籠った。
ミイヤがやったことを問われては困るのだ。
「それが・・・泣き叫んで場を乱していたので、何を言っていたのかは。彼女は最近慕っていた姉上を亡くされたばかりで、どうも混乱しているようです」
ミイヤは精神的におかしいから話を真に受けないようにと、遠回しに王に示唆した。
「確かに泣き続けて不安定なようだな」
国王はトローザーの話に乗ってやる。
「は、はい!そうなのです、不安定で本人も何を言ったのかわかっていないようです」
国王の言葉にトローザーは安堵した。
本当はユートリー殺害の罪を暴く筈だったのに、その前に怒りに任せたミイヤがトローザーとの関係を叫んだことで、ミイヤの言葉の信憑性を疑わせるように仕向ける羽目になってしまった。
これでは計画が台無しだとトローザーは唇を噛んだか、こうなったらミイヤはユートリーの死に関係なく、もちろん自分とも関係ないと突っぱねるしかない。
ほとぼりが冷めたら始末してやろうと。
しかし、ことはトローザーの思惑通りには進まなかった。
「この控えとは反対の間だ。ところでマーカス、あれは用意してきたか」
「はい、もちろんでございます」
上着の内ポケットから引き出した書類は、ミイヤとの養子縁組を解消するというものだ。
それを提出するとミイヤはただの平民となり、マーカスが継がせるつもりで保有している実家子爵の継承権も失う。
マーカスは王に渡す前にミラ夫人とユートリーに書類を見せた。素早く全文に目を走らせたミラとユートリーは迷うことなく頷き、マーカスに押し戻す。
「では陛下、どうぞお願い申し上げます」
通常は城内の窓口に出し、幾人もの文官が目を通した上で国王が裁可を下す。
しかし今国王はすべての手続きを省いて、指輪を開き、内側に彫られた玉璽を押した。
「これでミイヤは平民となった」
もう後戻りは出来なくなったが、誰一人後悔する者はいない。
呼び鈴を鳴らすと侍従が応えた。
「トローザーとミイヤ・ソイスト、いやミイヤを謁見の間に」
そう告げると自ら控えの間に厚いカーテンを引き下ろす。
これにより控えの間にいるナイジェルスとソイスト侯爵一家は、謁見の間にいる者に存在を知られることはない。
しかし厚いと言っても布一枚で仕切られているだけなので、小さな物音だって一つも聞き逃すことなく、これから起きるミイヤとトローザー王子のやりとりを聞くことが出来た。
「父上、一体何なのですか?」
「陛下!」
トローザーはまだしも、ミイヤが発言するのは許されない。
「静かにしろ。キャロラの茶会で酷い騒ぎを起こしたと聞いた。貴族たちがいろいろと言ってきたので事情を確認するために呼んだのだ」
「騒ぎなど!私はしておりません、このミイヤ・ソイストが一人で勝手に泣き喚いたのです」
まったく!と怒りを込めた視線でミイヤを睨みつけているが心中は穏やかではない。口留めする間もなく国王のまえにつれてこられて、余計なことを口走らないものかと不安でならなかった。
そのトローザーを見て、こらえきれなくなったミイヤの目から涙がじわりと溢れてくる。
「ひ、酷いです、急につ、つべたぐなっで」
ぐすりと鼻をすすったミイヤが哀れを誘うように言ったが。
「黙れ!発言は許していない!」
国王の威厳にびくりとしたミイヤは、そのうちにぶるぶると震え始めた。
「トローザー、どういうことかまずおまえから話せ」
「は、はい。それが私にもよくわかりません。急に意味不明なことを喚き始めて」
「ほお、意味不明なこととはどんなことだ?」
トローザーは口籠った。
ミイヤがやったことを問われては困るのだ。
「それが・・・泣き叫んで場を乱していたので、何を言っていたのかは。彼女は最近慕っていた姉上を亡くされたばかりで、どうも混乱しているようです」
ミイヤは精神的におかしいから話を真に受けないようにと、遠回しに王に示唆した。
「確かに泣き続けて不安定なようだな」
国王はトローザーの話に乗ってやる。
「は、はい!そうなのです、不安定で本人も何を言ったのかわかっていないようです」
国王の言葉にトローザーは安堵した。
本当はユートリー殺害の罪を暴く筈だったのに、その前に怒りに任せたミイヤがトローザーとの関係を叫んだことで、ミイヤの言葉の信憑性を疑わせるように仕向ける羽目になってしまった。
これでは計画が台無しだとトローザーは唇を噛んだか、こうなったらミイヤはユートリーの死に関係なく、もちろん自分とも関係ないと突っぱねるしかない。
ほとぼりが冷めたら始末してやろうと。
しかし、ことはトローザーの思惑通りには進まなかった。
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