【完結】あなたのいない世界、うふふ。

やまぐちこはる

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第39話

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 気づくのが遅れたルイーフが感じたとおり、噂好きな女性たちの口からそれはどんどんと漏れ広がっていく。

「てっきり夫婦なんだと思っていたわ」
「ええ、まったく!だって男の方だって毎日ここから仕事に行って、普通に一緒に暮らしていたのだもの、夫婦だと思うに決まってるじゃない」
「そうよね!屋敷で話したら、あの旦那のことを知っている人がいたのよ。なんでも婚約時代からずっと不貞していて、結婚してからも一度も帰らなかったらしいわよ」
「ひどいわねえ」
「男性は近衛騎士をクビになって、辺境にやられたらしいわ」
「当然よ、そんな人は誉れ高い近衛騎士に相応しくないわ」
「女性の方ってソミル伯爵家の使用人らしいわよ」

 凄まじい勢いでそれはルイーフの勤め先にも辿り着いた。

「ルイーフをこちらに呼んで頂戴」

 ソミル伯爵夫人から呼び出されたルイーフは、まさか噂のせいだとは思わず、いつものようにご用でしょうかと顔を出した。

「ルイーフ、貴女が辞めさせられた近衛騎士の不貞の相手だというのは本当のことなの?」
「え」

 このところの自分を取り巻く状況に、流石に慎重になったルイーフは言い淀む。
それをソミル伯爵夫人は肯定と捉えた。

「そう・・・。我が家の使用人にそのような素行不良な者を置いておくことはできないわ。今日をもって辞めて頂戴」
「えっ?そ、そんな奥様、私辞めたくありません!それくらいのことで辞める必要」
「ルイーフっ!」

 夫人の横にいたメイド長が強く注意したが、その言葉は夫人を苛立たせた。

「お黙りなさい!それくらいのことですって?」
「でもルドが私がいいって、私たち愛しあっていたのですもの」

 バシっ!

 夫人が扇をテーブルに叩きつけた。

「ご令息には政略結婚しなければならないお相手がいたのよ。
聞いたわよ、学院時代からだと。騎士爵夫人だって愚かでだらしない貴女たちなんかに関わりたくなかったでしょう、私なら絶対に許せないけど、それでもしかたなく嫁いだのは貴族だからだわ。
貴女も貴族の端くれなら、愛し合っていようがなんだろうが、騎士爵のために身を引くべきだった。別れられないならせめて、愛人として日陰で小さく肩を窄めて暮らすべきだったわ。

私は分をわきまえない者が嫌いなの。大嫌いなのよ!辞める必要があるかどうかを決めるのは私よ、あなたじゃないわ。荷物を纏めて即刻ここを立ち去りなさい、紹介状も無しよ」

 顎をしゃくるように夫人がメイド長に合図すると、ルイーフの腕を掴んで部屋から引きずり出した。

「メ、メイド長やめて」
「夫人がお決めになったことは翻らないわ。ルイーフ、貴女馬鹿なことをしたものね」

 控室に連れて行くと、ルイーフが持ち歩いている荷物を手渡して外に出す。

「い、いや!メイド長」

 首を振ってそれ以上の話を拒絶する。

「門番、彼女は解雇されたからもう通さないように」

 ルイーフの背をドンと押して、門の外に押しやると、門番が冷たくルイーフを見下ろしながら鉄フェンスのゲートを閉めきった。

「いや、やだなんで?ひどいぃ!」
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