40 / 42
第40話
しおりを挟む
不祥事に塗れて紹介状もなく叩き出されたルイーフに、貴族家の仕事は見つからなかった。しかし裁判所は支払い計画を作るようしつこく催促をくり返す。
ある日大家の代理という見慣れぬ男が、家賃の回収にやって来た。
「今無職だって聞きましたが、家賃は遅れずに払ってもらわないと困りますよ」
そこには配慮の欠片もない。
「払えないなら、こちらで仕事を斡旋しましょうか?」
代理人を名乗った男は、知り合いの貴族がメイドを探しているから紹介しようとルイーフを誘った。
「私の口利きなら必ず雇ってくれる。そこで働くというなら、給料を貰ってから家賃を払ってくれればいい」
「貴族の屋敷でメイドですか?家賃払うのを待ってくれるんですか?」
「そう言うことです、どうします?」
「や、やります。お願いします」
「いいでしょう、あちらにも連絡を入れねばなりませんから明後日に迎えに来ます。ともに参りましょう」
「ありがとうございますっ!」
トーソルドのせいでどん底だったルイーフは、また貴族の屋敷で働けるなんて運が向いてきたと頭を下げながら、ニヤニヤと笑っていた。
「ジャブリック様、ご報告にあがりました」
「おお、エーズか。首尾はどうだね?」
それはルイーフに大家の代理人と名乗った男だった。
「紹介してほしいそうですよ」
「そうか、よくやってくれた!じゃあ希望通りに行ってもらおうじゃないか」
ハハハと楽しげに声をあげて笑うジャブリックの目は、冷たく光っていた。
ルイーフは知らなかったが、ジャブリックは嫌がらせをするためだけに、借家の持ち主からルイーフの住む家を買い求めていたのだ。平民街の小さな屋敷を買うくらい、伯爵にとって造作のないことだから。
「慰謝料の支払いが滞っているというのに、裁判所はずいぶんゆっくりしておるな!まったくこれだから役人仕事と言われるのだ。せっかくだから私が直接慰謝料の回収をしてやろう」そう言って。
ジャブリックが男を使ってルイーフに紹介する貴族の屋敷は、メイドや下働きの女中がいつしか姿を消してしまうと噂があり、まともな伝手のある者は決して近寄ることはない。
エーズは勿論そんなことを教えることはなく、ただルイーフに羽振りの良い貴族だからしっかりお仕えするようにとだけ、言い含めて子爵家に送り届けた。
「ジャブリック様、これを」
「ああ、アニエラへの慰謝料として渡してやろう。聞いてはいたが、けっこうな金額だな」
ルイーフを受け取った子爵が、エーズに持たせた礼金をジャブリックが貰う。
普通メイドを紹介したくらいで礼金を寄越すことはないので、そんなものを態々出す後ろ暗い理由があるということだ。
子爵はその噂通りに、二度とルイーフを屋敷から出さないだろうと、手のひらにずっしりくる重みを感じながら考えていた。
「何処に行くのやらなあ、あの女は」
もちろんトーソルドも悪かった、そんなに嫌なら逃げ回らずに結婚したくないと談判すればよかったのだ。
言ったからといってその願いを聞いてやったかはわからないが、トーソルドは親の注意を右から左へ流して浮気を続けた。
それでも結婚式に応じたのだから、何だかんだ言っても結婚したらちゃんと切り替えて、アニエラを大切にするだろうと思っていたのに。
ジャブリックはトーソルドだけでなく、ルイーフにも手を回していた。しかしルイーフもどうやってもトーソルドから離れず、実家の男爵家に注意してものらりくらり。
よほどトーソルドを愛しているのだと思っていたが、怪我をして戻ってきたら即座に捨てた。世話をすると言えば、年金をすべて渡して見逃してやってもよいと思ったのだが。
ジャブリックは知っていたのだ、ルイーフが近衛騎士に憧れていたことを。
二人が付き合いだしたのは学院の騎士課に通っていたトーソルドが、近衛の准騎士になった頃。これが他の騎士団なら目もくれなかっただろうと女生徒に噂されていた。
トーソルドが掴みかけた栄誉も、アニエラの幸せな結婚も、すべてを壊したルイーフを許す気などさらさらない。
ジャブリックは怪しい噂がある子爵にメイドをひとり紹介し、その礼金をもらっただけ。その後そのメイドがどうなったかは、ロイリー家の誰も興味を持つことなく、その女が住んでいた借家は借り主が戻らなくなって半年後、家主によって売り払われた。
===========================
まっ、まさかのHOTランキング(女性向け)1位!
夢?夢ー?何度も見返し、驚きすぎて手が震えつつ、大感激しています。お立ち寄りくださった方、お気に入りにしてくださった方、感想くださった方、皆様、本当にありがとうございます。(感想のお返事は少しづつさせて頂いております)
現在仕事が決算の佳境を迎えていますが、頑張れそうな気がします(*´ェ`*)
改めまして御礼申し上げます。
本日から新作「御令嬢、あなたが私の本命です!」公開しました。
拗らせ王子と王子の恋を応援する側近の、じれじれラブストーリーです。
過去の完結作品などもどうぞよろしくお願いいたします。
ある日大家の代理という見慣れぬ男が、家賃の回収にやって来た。
「今無職だって聞きましたが、家賃は遅れずに払ってもらわないと困りますよ」
そこには配慮の欠片もない。
「払えないなら、こちらで仕事を斡旋しましょうか?」
代理人を名乗った男は、知り合いの貴族がメイドを探しているから紹介しようとルイーフを誘った。
「私の口利きなら必ず雇ってくれる。そこで働くというなら、給料を貰ってから家賃を払ってくれればいい」
「貴族の屋敷でメイドですか?家賃払うのを待ってくれるんですか?」
「そう言うことです、どうします?」
「や、やります。お願いします」
「いいでしょう、あちらにも連絡を入れねばなりませんから明後日に迎えに来ます。ともに参りましょう」
「ありがとうございますっ!」
トーソルドのせいでどん底だったルイーフは、また貴族の屋敷で働けるなんて運が向いてきたと頭を下げながら、ニヤニヤと笑っていた。
「ジャブリック様、ご報告にあがりました」
「おお、エーズか。首尾はどうだね?」
それはルイーフに大家の代理人と名乗った男だった。
「紹介してほしいそうですよ」
「そうか、よくやってくれた!じゃあ希望通りに行ってもらおうじゃないか」
ハハハと楽しげに声をあげて笑うジャブリックの目は、冷たく光っていた。
ルイーフは知らなかったが、ジャブリックは嫌がらせをするためだけに、借家の持ち主からルイーフの住む家を買い求めていたのだ。平民街の小さな屋敷を買うくらい、伯爵にとって造作のないことだから。
「慰謝料の支払いが滞っているというのに、裁判所はずいぶんゆっくりしておるな!まったくこれだから役人仕事と言われるのだ。せっかくだから私が直接慰謝料の回収をしてやろう」そう言って。
ジャブリックが男を使ってルイーフに紹介する貴族の屋敷は、メイドや下働きの女中がいつしか姿を消してしまうと噂があり、まともな伝手のある者は決して近寄ることはない。
エーズは勿論そんなことを教えることはなく、ただルイーフに羽振りの良い貴族だからしっかりお仕えするようにとだけ、言い含めて子爵家に送り届けた。
「ジャブリック様、これを」
「ああ、アニエラへの慰謝料として渡してやろう。聞いてはいたが、けっこうな金額だな」
ルイーフを受け取った子爵が、エーズに持たせた礼金をジャブリックが貰う。
普通メイドを紹介したくらいで礼金を寄越すことはないので、そんなものを態々出す後ろ暗い理由があるということだ。
子爵はその噂通りに、二度とルイーフを屋敷から出さないだろうと、手のひらにずっしりくる重みを感じながら考えていた。
「何処に行くのやらなあ、あの女は」
もちろんトーソルドも悪かった、そんなに嫌なら逃げ回らずに結婚したくないと談判すればよかったのだ。
言ったからといってその願いを聞いてやったかはわからないが、トーソルドは親の注意を右から左へ流して浮気を続けた。
それでも結婚式に応じたのだから、何だかんだ言っても結婚したらちゃんと切り替えて、アニエラを大切にするだろうと思っていたのに。
ジャブリックはトーソルドだけでなく、ルイーフにも手を回していた。しかしルイーフもどうやってもトーソルドから離れず、実家の男爵家に注意してものらりくらり。
よほどトーソルドを愛しているのだと思っていたが、怪我をして戻ってきたら即座に捨てた。世話をすると言えば、年金をすべて渡して見逃してやってもよいと思ったのだが。
ジャブリックは知っていたのだ、ルイーフが近衛騎士に憧れていたことを。
二人が付き合いだしたのは学院の騎士課に通っていたトーソルドが、近衛の准騎士になった頃。これが他の騎士団なら目もくれなかっただろうと女生徒に噂されていた。
トーソルドが掴みかけた栄誉も、アニエラの幸せな結婚も、すべてを壊したルイーフを許す気などさらさらない。
ジャブリックは怪しい噂がある子爵にメイドをひとり紹介し、その礼金をもらっただけ。その後そのメイドがどうなったかは、ロイリー家の誰も興味を持つことなく、その女が住んでいた借家は借り主が戻らなくなって半年後、家主によって売り払われた。
===========================
まっ、まさかのHOTランキング(女性向け)1位!
夢?夢ー?何度も見返し、驚きすぎて手が震えつつ、大感激しています。お立ち寄りくださった方、お気に入りにしてくださった方、感想くださった方、皆様、本当にありがとうございます。(感想のお返事は少しづつさせて頂いております)
現在仕事が決算の佳境を迎えていますが、頑張れそうな気がします(*´ェ`*)
改めまして御礼申し上げます。
本日から新作「御令嬢、あなたが私の本命です!」公開しました。
拗らせ王子と王子の恋を応援する側近の、じれじれラブストーリーです。
過去の完結作品などもどうぞよろしくお願いいたします。
281
あなたにおすすめの小説
【完結】私を裏切った最愛の婚約者の幸せを願って身を引く事にしました。
Rohdea
恋愛
和平の為に、長年争いを繰り返していた国の王子と愛のない政略結婚する事になった王女シャロン。
休戦中とはいえ、かつて敵国同士だった王子と王女。
てっきり酷い扱いを受けるとばかり思っていたのに婚約者となった王子、エミリオは予想とは違いシャロンを温かく迎えてくれた。
互いを大切に想いどんどん仲を深めていく二人。
仲睦まじい二人の様子に誰もがこのまま、平和が訪れると信じていた。
しかし、そんなシャロンに待っていたのは祖国の裏切りと、愛する婚約者、エミリオの裏切りだった───
※初投稿作『私を裏切った前世の婚約者と再会しました。』
の、主人公達の前世の物語となります。
こちらの話の中で語られていた二人の前世を掘り下げた話となります。
❋注意❋ 二人の迎える結末に変更はありません。ご了承ください。
蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。
[完結]だってあなたが望んだことでしょう?
青空一夏
恋愛
マールバラ王国には王家の血をひくオルグレーン公爵家の二人の姉妹がいる。幼いころから、妹マデリーンは姉アンジェリーナのドレスにわざとジュースをこぼして汚したり、意地悪をされたと嘘をついて両親に小言を言わせて楽しんでいた。
アンジェリーナの生真面目な性格をけなし、勤勉で努力家な姉を本の虫とからかう。妹は金髪碧眼の愛らしい容姿。天使のような無邪気な微笑みで親を味方につけるのが得意だった。姉は栗色の髪と緑の瞳で一見すると妹よりは派手ではないが清楚で繊細な美しさをもち、知性あふれる美貌だ。
やがて、マールバラ王国の王太子妃に二人が候補にあがり、天使のような愛らしい自分がふさわしいと、妹は自分がなると主張。しかし、膨大な王太子妃教育に我慢ができず、姉に代わってと頼むのだがーー
(完)なにも死ぬことないでしょう?
青空一夏
恋愛
ジュリエットはイリスィオス・ケビン公爵に一目惚れされて子爵家から嫁いできた美しい娘。イリスィオスは初めこそ優しかったものの、二人の愛人を離れに住まわせるようになった。
悩むジュリエットは悲しみのあまり湖に身を投げて死のうとしたが死にきれず昏睡状態になる。前世を昏睡状態で思い出したジュリエットは自分が日本という国で生きていたことを思い出す。還暦手前まで生きた記憶が不意に蘇ったのだ。
若い頃はいろいろな趣味を持ち、男性からもモテた彼女の名は真理。結婚もし子供も産み、いろいろな経験もしてきた真理は知っている。
『亭主、元気で留守がいい』ということを。
だったらこの状況って超ラッキーだわ♪ イケてるおばさん真理(外見は20代前半のジュリエット)がくりひろげるはちゃめちゃコメディー。
ゆるふわ設定ご都合主義。気分転換にどうぞ。初めはシリアス?ですが、途中からコメディーになります。中世ヨーロッパ風ですが和のテイストも混じり合う異世界。
昭和の懐かしい世界が広がります。懐かしい言葉あり。解説付き。
(完結)元お義姉様に麗しの王太子殿下を取られたけれど・・・・・・(5話完結)
青空一夏
恋愛
私(エメリーン・リトラー侯爵令嬢)は義理のお姉様、マルガレータ様が大好きだった。彼女は4歳年上でお兄様とは同じ歳。二人はとても仲のいい夫婦だった。
けれどお兄様が病気であっけなく他界し、結婚期間わずか半年で子供もいなかったマルガレータ様は、実家ノット公爵家に戻られる。
マルガレータ様は実家に帰られる際、
「エメリーン、あなたを本当の妹のように思っているわ。この思いはずっと変わらない。あなたの幸せをずっと願っていましょう」と、おっしゃった。
信頼していたし、とても可愛がってくれた。私はマルガレータが本当に大好きだったの!!
でも、それは見事に裏切られて・・・・・・
ヒロインは、マルガレータ。シリアス。ざまぁはないかも。バッドエンド。バッドエンドはもやっとくる結末です。異世界ヨーロッパ風。現代的表現。ゆるふわ設定ご都合主義。時代考証ほとんどありません。
エメリーンの回も書いてダブルヒロインのはずでしたが、別作品として書いていきます。申し訳ありません。
元お姉様に麗しの王太子殿下を取られたけれどーエメリーン編に続きます。
すれ違う思い、私と貴方の恋の行方…
アズやっこ
恋愛
私には婚約者がいる。
婚約者には役目がある。
例え、私との時間が取れなくても、
例え、一人で夜会に行く事になっても、
例え、貴方が彼女を愛していても、
私は貴方を愛してる。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 女性視点、男性視点があります。
❈ ふんわりとした設定なので温かい目でお願いします。
(完結)その女は誰ですか?ーーあなたの婚約者はこの私ですが・・・・・・
青空一夏
恋愛
私はシーグ侯爵家のイルヤ。ビドは私の婚約者でとても真面目で純粋な人よ。でも、隣国に留学している彼に会いに行った私はそこで思いがけない光景に出くわす。
なんとそこには私を名乗る女がいたの。これってどういうこと?
婚約者の裏切りにざまぁします。コメディ風味。
※この小説は独自の世界観で書いておりますので一切史実には基づきません。
※ゆるふわ設定のご都合主義です。
※元サヤはありません。
(完結)婚約者の勇者に忘れられた王女様――行方不明になった勇者は妻と子供を伴い戻って来た
青空一夏
恋愛
私はジョージア王国の王女でレイラ・ジョージア。護衛騎士のアルフィーは私の憧れの男性だった。彼はローガンナ男爵家の三男で到底私とは結婚できる身分ではない。
それでも私は彼にお嫁さんにしてほしいと告白し勇者になってくれるようにお願いした。勇者は望めば王女とも婚姻できるからだ。
彼は私の為に勇者になり私と婚約。その後、魔物討伐に向かった。
ところが彼は行方不明となりおよそ2年後やっと戻って来た。しかし、彼の横には子供を抱いた見知らぬ女性が立っており・・・・・・
ハッピーエンドではない悲恋になるかもしれません。もやもやエンドの追記あり。ちょっとしたざまぁになっています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる