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第41話
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「アニー、君の新しいアトリエを城の近くに開いたらどうだろうな。良い物件があってね」
ジュールがアニエラの隣で針の動きを眺めながら言う。日当たりが良いせいか、途中ふわぁと欠伸をして。
「お昼寝なさりたいなら、あちらにどうぞ」
「いいや、私は眠くなんかない!せっかくアニーといるのにもったいないじゃないか」
ジャブリックにけしかけられて以来、急にジュールの態度が変化した。
それまでも弟に不遇な目に遭わされていたアニエラを常に気にかけて、トーソルドの生活態度を注意してくれていたが、あくまでも義兄としての距離を保っていたと思う。
しかし、今はなんというか、蕩けたような甘さでアニエラを包もうとするのだ。
「あの、そんなに甘やかさないでくださいジュール様」
侍女たちの胡乱な視線から逃れたいアニエラが断ると、悲しそうな、飼い主に叱られた犬のようなしょげ方でジュールが俯いてしまう。
「そうだよな。私なんてアニーからしたら年上すぎて、10歳から見た19歳はかっこいい兄のようだったかもしれんが、今の私は・・・おじ・・くっ。こんな、私なんかもう誰も・・・うっ」
泣きが入ったジュールに困り果てたアニエラは、背中を撫でながら慰めの声をかける。
「そんなこと仰らないでください。ジュール様は今だって素敵ですわ・・・」
元気づけたいと思ったことは間違いないが、あまりに自然に自分の口から溢れた言葉に、アニエラ自身が驚いてしまう。
そう、こどもの頃はやさしく気遣ってくれるジュールが好きだった。遠方から馬を駆り、訪れる姿は凛々しくて憧れた。
いやほのかな初恋。ジュールではなくトーソルドが婚約者だということが悲しくてならなかった。
いつしかその想いは胸の奥底にしまい込まれて、二度と思い出してはいけないと蓋をしたが。
相変わらずやさしいジュール。
今のしょんぼりとした姿も、義兄としてトーソルドから守ってくれた姿も、どれも皆アニエラには好ましいものばかり。
隣りにジュールがいれば心穏やかに、でもなんとなく楽しく、なんとなく幸せに過ごせると気がついてハッとする。
─もしジュール様が本当に私を望んでくださるなら、幸せになれる?─
今はまだ、踏み出す勇気がない。
トーソルドとの冷えた結婚生活は淡々とやり過ごししたが、自分が愛されなかったという傷がアニエラの心に深く残されているのだ。
だからほんの少しだけ、まずは言葉にしてみることにした。
「ええ、ジュール様はおいくつになられても素敵なままですわ。いつまでも私の憧れ。ですから笑っていらして、堂々となさっているお姿をいつも私にお見せくださいませ」
それはジュールを喜ばせ、自信を与えたことはもちろん、ジャブリックやテューリン、トリアたちに、アニエラをもう一度家族に迎えられるかもしれないと希望を抱かせた。
しかし思ったほど、早くに事は進まず。
ジュールとアニエラが艱難辛苦を乗り越えて結ばれるまでにさらに月日を要するのだった。
===========================
次回、最終話です。
HOTランキング2位ありがとうございます。
すべての皆様に感謝しております(*´ェ`*)
新作「御令嬢、あなたが私の本命です!」公開しました。拗らせ王子と王子の恋を応援する側近の、じれじれラブストーリーです。どうぞよろしくお願いいたします。
ジュールがアニエラの隣で針の動きを眺めながら言う。日当たりが良いせいか、途中ふわぁと欠伸をして。
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しかし、今はなんというか、蕩けたような甘さでアニエラを包もうとするのだ。
「あの、そんなに甘やかさないでくださいジュール様」
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泣きが入ったジュールに困り果てたアニエラは、背中を撫でながら慰めの声をかける。
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─もしジュール様が本当に私を望んでくださるなら、幸せになれる?─
今はまだ、踏み出す勇気がない。
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だからほんの少しだけ、まずは言葉にしてみることにした。
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しかし思ったほど、早くに事は進まず。
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