17 / 44
17話
しおりを挟む
「ああっ!痛っ!!」
店の奥にあるメーメの部屋から悲鳴が聞こえた。
モニカが連れてきた医者がメーメの折れた足を固定していたのだ。また明日くるからと医者が帰ったあと、うめき声をあげるメーメにサラが薬を飲ませてやる。
「今日店を開けるのは無理ですわね」
「何を言っているんだ。ほとんどのものはサラも作れるだろう。店を開けなさい。ただデコレーションだけはダメだぞ」
脂汗を額に浮かべながらメーメが指示を出す。
「そんな!私の作ったものでよろしいのですか?」
「今までだってサラも作っていたではないか」
「でも仕上げは、師匠が」
メーメは眉を顰めながら、片頬を緩めて
「引っかかりおったな。ここしばらく、私はデコレーション以外の仕上げはしとらんよ。仕上げた振りはしたがな」
「ええっ?」
サラが目を丸くしてポカンとするのを見て吹き出したメーメは、その衝撃が足を刺激したらしい。
「いったたた!」
体を丸め、痛がっている。
「もう師匠ったら。悪さをされるからそういう目に遭うのですわ」
そう言いつつサラは、赤い顔でエプロンをつけてスイーツ作りの支度を始めた。
「ああ、サラ。一つ頼みがあるんだが」
「なんでしょう?」
「紙とペンを。手紙を書くので、あとで手配してほしいのだ」
頷いて、机の引き出しから便箋と封筒、羽根ペンとインクを持ってきて、ベッドのところにサイドテーブルを引っ張ってくるとその上に置いた。
「モニカ、エイジャ。悪いけど今日は屋敷に帰らずに師匠についていてほしいの」
「いや大丈夫だよ」
「ダメです。手が足りなくなったらモニカに手伝ってもらうつもりなんですから。それまでおとなしく面倒みてもらってくださいませ。ふたりともよろしくお願いしますね」
そのあと、サラは開店時間までスイーツ作りに没頭した。
鳩時計が時を知らせる。
「あら、もうそんな時間!大変だわ」
モニカを呼び、店の掃除を頼むと焼き菓子やジュレを並べていく。
デコレーションケーキは今日はお休みし、フルーツクリームケーキやチョコレートケーキ、チーズケーキをメインに、一口サイズのショコラ。
「結構頑張ったわ、わたくしえらいっ!」
一人で作ったとは思えないほどの量である。
自分で自分を褒めてうふふっと笑う。
メーメがここしばらく仕上げはしていなかったと言っていたが、それでもすべてをサラが作っていたわけではない。
本当の意味で初めてすべてを作った記念日!満足気に顔を紅潮させた。
師匠は怪我をしたけれど。
「あ!師匠大丈夫かしら」
予定時間前に開店準備が整ったのでメーメの部屋へ様子を見に行くと、御者のエイジャとメーメが世間話をして時間を潰していた。
「お加減はいかがですか?」
「痛み止めが効いて、なんとか我慢できている」
「お食事食べられそうでしたら、なにかお作りしますわよ」
「いや、買ってきてもらうからいい。あとこれの手配を彼に頼んでもいいだろうかね、サラ」
メーメは、その手に手紙を持って振って見せる。
「もちろんですわ、エイジャお願いね」
御者が頷いて手紙を受け取ると、上着の内ポケットに差し入れた。
「準備できたのなら店を開けなさい」
師弟が視線を合わせ、頷きあうと
「今日も一日がんばりますわ!」
伯爵令嬢のはずの弟子は、軽く拳を握ってみせた。
その日はサラが作り、モニカがホールと販売を担当して、いつものメーメの店よりずっと華やかな雰囲気に、来る客も楽しそうだった。
「お疲れ様!モニカ、エイジャ今日はふたりがいなかったら大変だったわ。本当にありがとう」
「私からもお礼を言います、本当に助かりました」
ベッドで上半身を起こしたメーメが頭を下げる。
「しばらくメーメ様は動けませんから、明日から当面私がお手伝いいたしますわ」
モニカは誰がなんと言おうとやると決めているようだ。
「助かるわ、よろしくねモニカ」
「私も。力仕事はお任せください」
エイジャもそう言って協力を約束した。
翌日、いつもより早く店に着いた三人が、氷が届くのを待ち受けていると
「おはようございます!」
氷を積んだ馬車からサラよりだいぶ年嵩の女性が下りてきて、サラを驚かせた。
─え?
この方が氷を運んでいらっしゃるの?
御者は別にいらっしゃる?
ではこの方は?─
「いつも父がお世話になっております、私エンデラ・メーメの娘、ローサ・メレンデラと申します」
「こちらこそ、私のほうが師匠にお世話になっておりますわ。・・・メレンデラさま・・・?あ!メレンデラ子爵様」
サラのメーリア伯爵領とは少し方向が違うが、同じ北部に在する貴族だ。
「だから氷を」
「ええ、私の主人が父に毎日氷を送っておりますのよ」
「まあ!そうでしたか。それはありがとうございます」
「ご存知なかったのね、父も貴族家出身ですの。菓子作りに興じて、元々あまり爵位を継ぐことに熱心ではなくて。祖父が亡くなって代替わりする際に出奔して伯父に爵位を」
サラ、モニカとエイジャはそれこそ目を丸くした。
「ずいぶん型破りなことをされる・・・」
「ええ。びっくりしましたけど、早くに母も亡くなっておりましたし、私は子爵を継いだ伯父の養女となりましたので、丸くおさまりましたのよ」
ほほほと笑うが、この女性もなかなか腹の座った人だとエイジャは感じていた。
店の奥にあるメーメの部屋から悲鳴が聞こえた。
モニカが連れてきた医者がメーメの折れた足を固定していたのだ。また明日くるからと医者が帰ったあと、うめき声をあげるメーメにサラが薬を飲ませてやる。
「今日店を開けるのは無理ですわね」
「何を言っているんだ。ほとんどのものはサラも作れるだろう。店を開けなさい。ただデコレーションだけはダメだぞ」
脂汗を額に浮かべながらメーメが指示を出す。
「そんな!私の作ったものでよろしいのですか?」
「今までだってサラも作っていたではないか」
「でも仕上げは、師匠が」
メーメは眉を顰めながら、片頬を緩めて
「引っかかりおったな。ここしばらく、私はデコレーション以外の仕上げはしとらんよ。仕上げた振りはしたがな」
「ええっ?」
サラが目を丸くしてポカンとするのを見て吹き出したメーメは、その衝撃が足を刺激したらしい。
「いったたた!」
体を丸め、痛がっている。
「もう師匠ったら。悪さをされるからそういう目に遭うのですわ」
そう言いつつサラは、赤い顔でエプロンをつけてスイーツ作りの支度を始めた。
「ああ、サラ。一つ頼みがあるんだが」
「なんでしょう?」
「紙とペンを。手紙を書くので、あとで手配してほしいのだ」
頷いて、机の引き出しから便箋と封筒、羽根ペンとインクを持ってきて、ベッドのところにサイドテーブルを引っ張ってくるとその上に置いた。
「モニカ、エイジャ。悪いけど今日は屋敷に帰らずに師匠についていてほしいの」
「いや大丈夫だよ」
「ダメです。手が足りなくなったらモニカに手伝ってもらうつもりなんですから。それまでおとなしく面倒みてもらってくださいませ。ふたりともよろしくお願いしますね」
そのあと、サラは開店時間までスイーツ作りに没頭した。
鳩時計が時を知らせる。
「あら、もうそんな時間!大変だわ」
モニカを呼び、店の掃除を頼むと焼き菓子やジュレを並べていく。
デコレーションケーキは今日はお休みし、フルーツクリームケーキやチョコレートケーキ、チーズケーキをメインに、一口サイズのショコラ。
「結構頑張ったわ、わたくしえらいっ!」
一人で作ったとは思えないほどの量である。
自分で自分を褒めてうふふっと笑う。
メーメがここしばらく仕上げはしていなかったと言っていたが、それでもすべてをサラが作っていたわけではない。
本当の意味で初めてすべてを作った記念日!満足気に顔を紅潮させた。
師匠は怪我をしたけれど。
「あ!師匠大丈夫かしら」
予定時間前に開店準備が整ったのでメーメの部屋へ様子を見に行くと、御者のエイジャとメーメが世間話をして時間を潰していた。
「お加減はいかがですか?」
「痛み止めが効いて、なんとか我慢できている」
「お食事食べられそうでしたら、なにかお作りしますわよ」
「いや、買ってきてもらうからいい。あとこれの手配を彼に頼んでもいいだろうかね、サラ」
メーメは、その手に手紙を持って振って見せる。
「もちろんですわ、エイジャお願いね」
御者が頷いて手紙を受け取ると、上着の内ポケットに差し入れた。
「準備できたのなら店を開けなさい」
師弟が視線を合わせ、頷きあうと
「今日も一日がんばりますわ!」
伯爵令嬢のはずの弟子は、軽く拳を握ってみせた。
その日はサラが作り、モニカがホールと販売を担当して、いつものメーメの店よりずっと華やかな雰囲気に、来る客も楽しそうだった。
「お疲れ様!モニカ、エイジャ今日はふたりがいなかったら大変だったわ。本当にありがとう」
「私からもお礼を言います、本当に助かりました」
ベッドで上半身を起こしたメーメが頭を下げる。
「しばらくメーメ様は動けませんから、明日から当面私がお手伝いいたしますわ」
モニカは誰がなんと言おうとやると決めているようだ。
「助かるわ、よろしくねモニカ」
「私も。力仕事はお任せください」
エイジャもそう言って協力を約束した。
翌日、いつもより早く店に着いた三人が、氷が届くのを待ち受けていると
「おはようございます!」
氷を積んだ馬車からサラよりだいぶ年嵩の女性が下りてきて、サラを驚かせた。
─え?
この方が氷を運んでいらっしゃるの?
御者は別にいらっしゃる?
ではこの方は?─
「いつも父がお世話になっております、私エンデラ・メーメの娘、ローサ・メレンデラと申します」
「こちらこそ、私のほうが師匠にお世話になっておりますわ。・・・メレンデラさま・・・?あ!メレンデラ子爵様」
サラのメーリア伯爵領とは少し方向が違うが、同じ北部に在する貴族だ。
「だから氷を」
「ええ、私の主人が父に毎日氷を送っておりますのよ」
「まあ!そうでしたか。それはありがとうございます」
「ご存知なかったのね、父も貴族家出身ですの。菓子作りに興じて、元々あまり爵位を継ぐことに熱心ではなくて。祖父が亡くなって代替わりする際に出奔して伯父に爵位を」
サラ、モニカとエイジャはそれこそ目を丸くした。
「ずいぶん型破りなことをされる・・・」
「ええ。びっくりしましたけど、早くに母も亡くなっておりましたし、私は子爵を継いだ伯父の養女となりましたので、丸くおさまりましたのよ」
ほほほと笑うが、この女性もなかなか腹の座った人だとエイジャは感じていた。
16
あなたにおすすめの小説
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
妹のために愛の無い結婚をすることになりました
バンブー竹田
恋愛
「エミリー、君との婚約は破棄することに決まった」
愛するラルフからの唐突な通告に私は言葉を失ってしまった。
婚約が破棄されたことはもちろんショックだけど、それだけじゃない。
私とラルフの結婚は妹のシエルの命がかかったものでもあったから・・・。
落ちこむ私のもとに『アレン』という大金持ちの平民からの縁談が舞い込んできた。
思い悩んだ末、私は会ったこともない殿方と結婚することに決めた。
【完結】愛され令嬢は、死に戻りに気付かない
かまり
恋愛
公爵令嬢エレナは、婚約者の王子と聖女に嵌められて処刑され、死に戻るが、
それを夢だと思い込んだエレナは考えなしに2度目を始めてしまう。
しかし、なぜかループ前とは違うことが起きるため、エレナはやはり夢だったと確信していたが、
結局2度目も王子と聖女に嵌められる最後を迎えてしまった。
3度目の死に戻りでエレナは聖女に勝てるのか?
聖女と婚約しようとした王子の目に、涙が見えた気がしたのはなぜなのか?
そもそも、なぜ死に戻ることになったのか?
そして、エレナを助けたいと思っているのは誰なのか…
色んな謎に包まれながらも、王子と幸せになるために諦めない、
そんなエレナの逆転勝利物語。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
星屑を紡ぐ令嬢と、色を失った魔法使い
希羽
恋愛
子爵令嬢のルチアは、継母と義姉に虐げられ、屋根裏部屋でひっそりと暮らしていた。彼女には、夜空に輝く星屑を集めて、触れた者の心を癒す不思議な力を持つ「銀色の糸」を紡ぎ出すという、秘密の能力があった。しかし、その力で生み出された美しい刺繍の手柄は、いつも華やかな義姉のものとされていた。
一方、王国には「灰色の魔法使い」と畏れられる英雄、アークライト公爵がいた。彼はかつて国を救った代償として、世界の色彩と感情のすべてを失い、孤独な日々を送っている。
ある夜会で、二人の運命が交差する。義姉が手にしたルチアの刺繍にアークライトが触れた瞬間、彼の灰色だった世界に、一瞬だけ鮮やかな色彩が流れ込むという奇跡が起きた。
その光の本当の作り手を探し出したアークライトは、ルチアを自身の屋敷へと迎え入れる。「私のために刺繍をしろ」──その強引な言葉の裏にある深い孤独を知ったルチアは、戸惑いながらも、初めて自分の力を認められたことに喜びを感じ、彼のために星屑を紡ぎ始める。
彼女の刺繍は、凍てついていた公爵の心を少しずつ溶かし、二人の間には静かな絆が芽生えていく。
しかし、そんな穏やかな日々は長くは続かない。ルチアの持つ力の価値に気づいた過去の人々が、彼女を再び絶望へ引き戻そうと、卑劣な陰謀を企てていた。
今更「結婚しよう」と言われましても…10年以上会っていない人の顔は覚えていません。
ゆずこしょう
恋愛
「5年で帰ってくるから待っていて欲しい。」
書き置きだけを残していなくなった婚約者のニコラウス・イグナ。
今までも何度かいなくなることがあり、今回もその延長だと思っていたが、
5年経っても帰ってくることはなかった。
そして、10年後…
「結婚しよう!」と帰ってきたニコラウスに…
【完結済】冷血公爵様の家で働くことになりまして~婚約破棄された侯爵令嬢ですが公爵様の侍女として働いています。なぜか溺愛され離してくれません~
北城らんまる
恋愛
**HOTランキング11位入り! ありがとうございます!**
「薄気味悪い魔女め。おまえの悪行をここにて読み上げ、断罪する」
侯爵令嬢であるレティシア・ランドハルスは、ある日、婚約者の男から魔女と断罪され、婚約破棄を言い渡される。父に勘当されたレティシアだったが、それは娘の幸せを考えて、あえてしたことだった。父の手紙に書かれていた住所に向かうと、そこはなんと冷血と知られるルヴォンヒルテ次期公爵のジルクスが一人で住んでいる別荘だった。
「あなたの侍女になります」
「本気か?」
匿ってもらうだけの女になりたくない。
レティシアはルヴォンヒルテ次期公爵の見習い侍女として、第二の人生を歩み始めた。
一方その頃、レティシアを魔女と断罪した元婚約者には、不穏な影が忍び寄っていた。
レティシアが作っていたお守りが、実は元婚約者の身を魔物から守っていたのだ。そんなことも知らない元婚約者には、どんどん不幸なことが起こり始め……。
※ざまぁ要素あり(主人公が何かをするわけではありません)
※設定はゆるふわ。
※3万文字で終わります
※全話投稿済です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる