23 / 28
辺境のタケリード編
10話
しおりを挟む
「あー、なんかイヤな予感しかしないわ。もう一日どこかに出かけていればよかった!」
どれだけ家を明けても、父がナナリーの帰宅の日に合わせて予定を変え続けるつもりだとまでは思いつかなかった。
外から馬の蹄と馬車の車輪が軋む音が聞こえたが、あえて気にせずに。
出版予定の令嬢の下剋上小説の原作に目を通していると、ドアをノックする音が聞こえた。
「なに?」
「・・・・・」
「レラ、今日は呼ばないでと言ったわよね」
しかたなしにドアを開けると、父マードルが立っていた。
「お父様?何していらっしゃるの?お客様はもうお帰りになったの?私今日は・・・」
文句を言おうとしたら、マードルがすっと横にずれて背後にいた若い男性と目があった。
─やられた!─
何か言ってやろうと口を開く前に
「ご無沙汰しておりました、ナナリー様。いつぞやは大変な御迷惑をおかけしたにも関わらず、寛大な御心でお許しくださったこと、一日足りとも忘れずに過ごしております」
そう言って、深く頭を下げる男性のさらりと流れた青みがかった黒髪は、どこかで見たような?
顔を上げた男性は、きょとんとしたナナリーにおずおずと話しかけた。
「タケリード・ザンバトです」
「・・・・・?」
「だから、タケリードだよ」
マードルがタケリードの肩に手を乗せて、ニヤニヤしている。
「随分と変わって、うん、男らしくなったな」
父のニヤニヤに腹が立つが、タケリード?
「うそ?嘘でしょ?こんな人じゃなかったわ」
白くきめ細やかだった肌は日焼けして真っ黒、そして程よく筋肉質だった体は、腕や肩など見えるところだけでも盛り上がって、ずいぶんと大きくなったように見える。
しかしよく見ると、黒い瞳はあの頃のままかもしれないが。
「本物です、が、母にもおまえは本当に息子かと訊ねられたほど変わったようです」
ははは、とマードルが笑い飛ばす。
「懐かしい者が訪ねてきたのだ、ナナリーも部屋に籠もらず、一緒に茶でも飲もうではないか」
そう言われたら断ることもできず。
応接に行くと、ユード・ザンバト伯爵もいた。
「ナナリー孃、無沙汰をしておりました!大変な成功のようではありませんか」
「ザンバト伯爵様、ごきげんよう。私の方こそ久しくなり、申し訳ございませんでした」
「タケリードも。ナナリー孃、驚かれたかな?」
「ええ、あまりの変貌に名乗られてもわかりませんでしたわ」
満足気に頷く。
「それで早速なのだが。タケリードに来てもらったのは、提案があるからなのだ」
タケリードが真面目な顔でマードルを見る。
「今、ザンバトのゼネラルコントラクションに所属して現場監督に就いているが、メリエラに来てもらえないだろうか?」
微妙な言い方をしたマードルは、二つの意図を込めていた。
「お父様、前にもおっしゃっていらしたわね」
ナナリーもそれについては賛成だ。
業界で高くその名を上げたタケリードがメリエラに来るのは、メリットしかない。
「いや、しかし今でも過分なほどの処遇と」
引こうとするが。
「私たちが与えた機会を、自身の努力で最大限に大きく育てたのはタケリード自身だ。もう十分というか、私たちの予想以上の結果を出した。それでもタケリードの中にまだ燻るものがあるなら、それこそメリエラの中でメリエラに返してもらえないだろうか?」
「あの」ユードが手をあげて発言する。
「タケリードには我がザンバトのゼネラルコントラクションを委ねようと思っているのですが」
「うん、いいではないか。どちらにしてもユード殿はメリエラ傘下に入りたいと前々から申し出てくれていることだし、ザンバトを率いるタケリードが、メリエラに来ればめでたしめでたしだろう?」
ユードはうまく丸め込まれた。
「しかし、そうしたらドルドミラは?」
「新しい者を監督に送るか現地の者を抜擢するか、気になるならタケリードが新しい監督を選んで統括してもいい。時々視察に行ったりしてな」
「・・・」
躊躇うタケリードに、ユードが背中を押す。
「素晴らしい!こんなありがたい申し出、二度とないぞ。お受けした方がいい!というかお受けしなさい」
強く勧める父にようやく返す。
「ドルドミラには私を支えてくれた仲間がいるのです」
タケリードは、荒くれ者と呼ばれながらも熱くあたたかい作業員たちを置いて、自分だけ戻る気にはなれなかったのだ。
「それならタケリードのチームとして連れてきたらよかろう。どちらにしても部下は持たねばならんし、気心が知れ、仕事ができる腹心がいるならそれが一番だ」
「連れてくる?全員ですか?」
「家庭があり、その地が良い者だっているだろう。タケリードが連れていきたいと思う者の中から、一緒に行くと言う者をお前に割り当てる予算の範囲で何人か選べ。現地に残る者の中から後任の監督を選べばよいだろう」
この提案はタケリードの心を強く揺さぶった。
「まあ、今でなくともいい。まだ数日こちらにいるのだろう?帰るまでに返事をくれ。ところでナナリーともかなり久しいだろう?ナナリーの仕事はタケリードからヒントを得て起こしたものが多いのだから、二人で話したらもっと閃くかも知れんぞ。庭で茶でも飲んでこい」
どれだけ家を明けても、父がナナリーの帰宅の日に合わせて予定を変え続けるつもりだとまでは思いつかなかった。
外から馬の蹄と馬車の車輪が軋む音が聞こえたが、あえて気にせずに。
出版予定の令嬢の下剋上小説の原作に目を通していると、ドアをノックする音が聞こえた。
「なに?」
「・・・・・」
「レラ、今日は呼ばないでと言ったわよね」
しかたなしにドアを開けると、父マードルが立っていた。
「お父様?何していらっしゃるの?お客様はもうお帰りになったの?私今日は・・・」
文句を言おうとしたら、マードルがすっと横にずれて背後にいた若い男性と目があった。
─やられた!─
何か言ってやろうと口を開く前に
「ご無沙汰しておりました、ナナリー様。いつぞやは大変な御迷惑をおかけしたにも関わらず、寛大な御心でお許しくださったこと、一日足りとも忘れずに過ごしております」
そう言って、深く頭を下げる男性のさらりと流れた青みがかった黒髪は、どこかで見たような?
顔を上げた男性は、きょとんとしたナナリーにおずおずと話しかけた。
「タケリード・ザンバトです」
「・・・・・?」
「だから、タケリードだよ」
マードルがタケリードの肩に手を乗せて、ニヤニヤしている。
「随分と変わって、うん、男らしくなったな」
父のニヤニヤに腹が立つが、タケリード?
「うそ?嘘でしょ?こんな人じゃなかったわ」
白くきめ細やかだった肌は日焼けして真っ黒、そして程よく筋肉質だった体は、腕や肩など見えるところだけでも盛り上がって、ずいぶんと大きくなったように見える。
しかしよく見ると、黒い瞳はあの頃のままかもしれないが。
「本物です、が、母にもおまえは本当に息子かと訊ねられたほど変わったようです」
ははは、とマードルが笑い飛ばす。
「懐かしい者が訪ねてきたのだ、ナナリーも部屋に籠もらず、一緒に茶でも飲もうではないか」
そう言われたら断ることもできず。
応接に行くと、ユード・ザンバト伯爵もいた。
「ナナリー孃、無沙汰をしておりました!大変な成功のようではありませんか」
「ザンバト伯爵様、ごきげんよう。私の方こそ久しくなり、申し訳ございませんでした」
「タケリードも。ナナリー孃、驚かれたかな?」
「ええ、あまりの変貌に名乗られてもわかりませんでしたわ」
満足気に頷く。
「それで早速なのだが。タケリードに来てもらったのは、提案があるからなのだ」
タケリードが真面目な顔でマードルを見る。
「今、ザンバトのゼネラルコントラクションに所属して現場監督に就いているが、メリエラに来てもらえないだろうか?」
微妙な言い方をしたマードルは、二つの意図を込めていた。
「お父様、前にもおっしゃっていらしたわね」
ナナリーもそれについては賛成だ。
業界で高くその名を上げたタケリードがメリエラに来るのは、メリットしかない。
「いや、しかし今でも過分なほどの処遇と」
引こうとするが。
「私たちが与えた機会を、自身の努力で最大限に大きく育てたのはタケリード自身だ。もう十分というか、私たちの予想以上の結果を出した。それでもタケリードの中にまだ燻るものがあるなら、それこそメリエラの中でメリエラに返してもらえないだろうか?」
「あの」ユードが手をあげて発言する。
「タケリードには我がザンバトのゼネラルコントラクションを委ねようと思っているのですが」
「うん、いいではないか。どちらにしてもユード殿はメリエラ傘下に入りたいと前々から申し出てくれていることだし、ザンバトを率いるタケリードが、メリエラに来ればめでたしめでたしだろう?」
ユードはうまく丸め込まれた。
「しかし、そうしたらドルドミラは?」
「新しい者を監督に送るか現地の者を抜擢するか、気になるならタケリードが新しい監督を選んで統括してもいい。時々視察に行ったりしてな」
「・・・」
躊躇うタケリードに、ユードが背中を押す。
「素晴らしい!こんなありがたい申し出、二度とないぞ。お受けした方がいい!というかお受けしなさい」
強く勧める父にようやく返す。
「ドルドミラには私を支えてくれた仲間がいるのです」
タケリードは、荒くれ者と呼ばれながらも熱くあたたかい作業員たちを置いて、自分だけ戻る気にはなれなかったのだ。
「それならタケリードのチームとして連れてきたらよかろう。どちらにしても部下は持たねばならんし、気心が知れ、仕事ができる腹心がいるならそれが一番だ」
「連れてくる?全員ですか?」
「家庭があり、その地が良い者だっているだろう。タケリードが連れていきたいと思う者の中から、一緒に行くと言う者をお前に割り当てる予算の範囲で何人か選べ。現地に残る者の中から後任の監督を選べばよいだろう」
この提案はタケリードの心を強く揺さぶった。
「まあ、今でなくともいい。まだ数日こちらにいるのだろう?帰るまでに返事をくれ。ところでナナリーともかなり久しいだろう?ナナリーの仕事はタケリードからヒントを得て起こしたものが多いのだから、二人で話したらもっと閃くかも知れんぞ。庭で茶でも飲んでこい」
45
あなたにおすすめの小説
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
異母妹に婚約者を奪われ、義母に帝国方伯家に売られましたが、若き方伯閣下に溺愛されました。しかも帝国守護神の聖女にまで選ばれました。
克全
恋愛
『私を溺愛する方伯閣下は猛き英雄でした』
ネルソン子爵家の令嬢ソフィアは婚約者トラヴィスと踊るために王家主催の舞踏会にきていた。だがこの舞踏会は、ソフィアに大恥をかかせるために異母妹ロージーがしかけた罠だった。ネルソン子爵家に後妻に入ったロージーの母親ナタリアは国王の姪で王族なのだ。ネルソン子爵家に王族に血を入れたい国王は卑怯にも一旦認めたソフィアとトラヴィスの婚約を王侯貴族が集まる舞踏会の場で破棄させた。それだけではなく義母ナタリアはアストリア帝国のテンプル方伯家の侍女として働きに出させたのだった。国王、ナタリア、ロージーは同じ家格の家に侍女働きに出してソフィアを貶めて嘲笑う気だった。だがそれは方伯や辺境伯という爵位の存在しない小国の王と貴族の無知からきた誤解だった。確かに国によっては城伯や副伯と言った子爵と同格の爵位はある。だが方伯は辺境伯同様独立裁量権が強い公爵に匹敵する権限を持つ爵位だった。しかもソフィアの母系は遠い昔にアストリア帝室から別れた一族で、帝国守護神の聖女に選ばれたのだった。
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」「ノベルバ」に同時投稿しています。
【完結】殿下、私ではなく妹を選ぶなんて……しかしながら、悲しいことにバットエンドを迎えたようです。
みかみかん
恋愛
アウス殿下に婚約破棄を宣言された。アルマーニ・カレン。
そして、殿下が婚約者として選んだのは妹のアルマーニ・ハルカだった。
婚約破棄をされて、ショックを受けるカレンだったが、それ以上にショックな事実が発覚してしまう。
アウス殿下とハルカが国の掟に背いてしまったのだ。
追記:メインストーリー、只今、完結しました。その後のアフターストーリーも、もしかしたら投稿するかもしれません。その際は、またお会いできましたら光栄です(^^)
勝手にしなさいよ
棗
恋愛
どうせ将来、婚約破棄されると分かりきってる相手と婚約するなんて真っ平ごめんです!でも、相手は王族なので公爵家から破棄は出来ないのです。なら、徹底的に避けるのみ。と思っていた悪役令嬢予定のヴァイオレットだが……
【番外編も完結】で、お前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか?
Debby
恋愛
ヴェルトが友人からの手紙を手に辺境伯令嬢であるレィディアンスの元を訪れたのは、その手紙に「詳細は彼女に聞け」と書いてあったからだ。
簡単にいうと、手紙の内容は「学園で問題を起こした平民──エボニーを妻として引き取ってくれ」というものだった。
一方その話を聞いてしまった伯爵令嬢のオリーブは動揺していた。
ヴェルトとは静かに愛を育んできた。そんな自分を差し置いて、言われるがまま平民を妻に迎えてしまうのだろうか。
そんなオリーブの気持ちを知るはずもないエボニーは、辺境伯邸で行儀見習いをすることになる。
オリーブは何とかしてヴェルトを取り戻そうと画策し、そのことを咎められてしまう。もう後は無い。
オリーブが最後の望みをかけてヴェルトに自分を選んで欲しいと懇願する中、レィディアンスが静かに口を開いた。
「で、そろそろお前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか」
「はい?」
ヴェルトは自分が何を言われたのか全く理解が出来なかった。
*--*--*
覗いてくださりありがとうございます。(* ᴗ ᴗ)⁾⁾
★2/17 番外編を投稿することになりました。→完結しました!
★★「このお話だけ読んでいただいてもOKです!」という前提のもと↓↓↓
このお話は独立した一つのお話ですが、「で。」シリーズのサイドストーリーでもあり、第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」の「エボニーその後」でもあります(あるいは「最終話」のその後)。
第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」
第二弾「で、あなたが私に嫌がらせをする理由を伺っても?」
第三弾「で、あなたが彼に嫌がらせをする理由をお話しいただいても?」
どれも女性向けHOTランキングに入り、特に第二弾はHOT一位になることが出来ました!(*´▽`人)アリガトウ
もしよかったら宜しくお願いしますね!
幼馴染の生徒会長にポンコツ扱いされてフラれたので生徒会活動を手伝うのをやめたら全てがうまくいかなくなり幼馴染も病んだ
猫カレーฅ^•ω•^ฅ
恋愛
ずっと付き合っていると思っていた、幼馴染にある日別れを告げられた。
そこで気づいた主人公の幼馴染への依存ぶり。
たった一つボタンを掛け違えてしまったために、
最終的に学校を巻き込む大事件に発展していく。
主人公は幼馴染を取り戻すことが出来るのか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる