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第18話

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 イグラルド子爵家のソリトスが寄越した書状を届けた者、エリーシャはよく知らない男だったが、深々と頭を下げ、トミイルと名乗った。

「若様より何をお調べするかは伺っております。調査終了後、詳細は若様よりお知らせ致しますのでご安心ください」

とだけ告げて、その姿を消した。

 エリーシャはキョロキョロする。
 小高い丘の一軒家、いや、敷地内にいくつか建物はあるが、丘から下の町まではなにも隠れるようなところがないのに、あっという間に隠れてしまったトミイルに驚いたのだ。

「期待できそうだわ!」

 月夜の妖精と呼ばれる女は、腹黒そうにニンマリとした。




 トミイルは、特殊な隠れ方が得意な男である。何もないと思うところでも、木一本でもあれば擬態して木の枝に同化してみせたりする。
 ツィージャー伯爵家のチャペルで行われた結婚式に参列したソリトスは、屋敷の外に隠れるところが極端に少ないことを知っており、トミイルを選んで送り出してくれていた。


「あれだな」

 夜、屋敷の窓から一人の男が降り立ち、裏口から出てきてキョロキョロしながら丘を下りていく。

 トミイルが掴まっている木の前を通り過ぎ、後を追おうとトミイルが動き出す直前、屋敷から追跡者が現れた。
 体格から騎士のようだ。

「はあん、ツィージャー伯爵もお見通しってことか」

 エリーシャより先に、嫡男が後ろ暗いことをしていると気づいた伯爵が素行調査を開始していたのだ。

 トミイルはその追跡者のあとを気づかれぬように追いかけた。

「ん?宿屋に馬を預けているのか?用意周到だな」

 馬で走られるとまかれてしまうかもと心配したが、馬は並足で歩き、林の中に括り付けると男が辿り着いた先はメイカ准男爵家。
 小石を投げるとロープがおりてきて、するすると二階に上がっていく。

「随分と慣れているな。これは頻繁にやっているようだ」

 伯爵家の追跡者もまだ草むらに潜んでいるので、トミイルは焦らずのんびり構えることにした。

 明け方、長い時間を待ちぼうけたトミイルはカタンという音に目を凝らす。
 追跡者も動き始めた。
またロープをつたい、男がおりてくると、窓から女が顔を出して手を振りあう。

「また明日ね」

 トミイルの耳に確かにそう聞こえた。

「また明日?まるで毎日来ているかのようだな?まさかな」



 そのまさかである。
 トミイルはソリトスに言われた最低四日の予定すべてを、メイカ准男爵家にアレンソアと通う羽目になった。
あっという間に証拠が集まり良かったと思うか、退屈な4日と思うか。後者のトミイルが書いた報告書は実に単調なものであった。

 夜屋敷を抜け出して宿の馬に乗り、メイカ准男爵家の娘イニエラの部屋と思われる場所で朝まで過ごし、屋敷に帰るのくり返し。
当然日中は隠れて居眠りしており、執務はしていない。

 それはソリトスとその両親を激怒させるのに十分なものであった。
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