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第22話
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ユンディの耳にも聞こえた。
「なんで生きてるの?」
─どういうことだ?イニエラは何をしたんだ?─
聞きたいが、聞くのが怖い。
何も考えられず、貴族の令嬢を人前に出すには有り得ない、ガウン姿のイニエラをベレルのもとに引きずって行った。
騒ぎに気づいたメイカ准男爵夫人トリーも何事かと姿をみせる。
「なあんだ、本当に生きてる。
あの草、即効で効くって書いてあったのに嘘ばっかり!」
何年も先の伯爵家の代替わりを待つ気が無くなったイニエラは、植物図鑑で即効性の強毒植物を探し、乾燥させて茶に混ぜたものをアレンソアに渡したのだった。
しかしベレルたちは無事で、今目の前にいる・・・。
チェッと舌打ちをしたイニエラの、罪を罪とも思わない言動にレイカが叫んだ。
「イニエラっ、あなた何故私たちに毒を?あんなによくしてあげたのに」
レイカの言葉に目玉を剥いたのはメイカ夫妻だ。
「ど、毒?そんななにかの間違いでは・・・」
否定しようとしたが、ユンディは先程の娘の言葉を思い出して言葉尻を濁した。
『なんで生きてるの?』
イニエラの声が脳裏に木霊する。
あれは死んだと思っていなければ出ない言葉だ。
「そ、そんな・・・イニエ・・ラ、うそだろう?」
しゃがみ込む父親には目もくれず、イニエラはレイカに言い返す。
「よくしてやったですって?おば様それ本気で仰ってます?相思相愛のアレンと私を引き裂いて、あんな白っちゃけた女と結婚させたくせに。
でもアレンはあの女には指一本だって触れやしないの、私だけを愛しているから。
アレンはね、伯爵になったらあの女を叩き出して、私を伯爵夫人にしてくれるって約束してくれているのよ!それなのにあんたたちがいつまでもいつまでも伯爵位を譲らないからっ!早くいなくなりなさいよぉぉぉぉっ」
ヒステリックに叫んだイニエラに、トリーが気絶した。ユンディもできれば気絶したかった。
あまりにも怖ろしい話である。
妻帯者の次期伯爵と不貞の仲の娘が、自分が伯爵夫人になるために、現伯爵夫妻と次期伯爵夫人全員を害そうとした。
娘がその口で言ったのだから間違いようのない事実・・・。
「お、終わりだ。メイカ家はもう・・・」
「そうだな、文官を続けることは勿論叶わぬ。当然准男爵も剥奪されるであろう」
ベレルの冷たい声に、またカッとしたイニエラが「ふざけるな」と叫ぶ。
「ふざけるな?それはこちらの台詞だ!なあメイカ准男爵?どう償ってもらえばいいだろうなあ。我が家族は毒を盛られたショックで精神的な痛手を被った。暫く執務どころではないし、社交にも出られないだろう。
茶を口にした料理人は今死にかけている。
貴殿の娘に誑かされた私の息子は次期伯爵どころか廃嫡だ。奴にかけてきた教育費もパアだよパア。それに新たに次男に教育を施さねばならん。
文官の貴殿なら知っているだろうが、長男の嫁は我がツィージャーと共同事業を行うイグラルドの娘だ。離婚となれば事業にも大きな影響が出る。イグラルド領で我が家がシャトーを持ったことは知っているかね?政略で結ばれた我が家だからこそ、手に入れることができたのだよ。だがそれらを手放さねばならなくなったとしたら、これらすべてを貴殿らの財産で賠償できると思うかね?」
ユンディは蛇に睨まれた蛙とはこうも怖ろしい思いをしているのだと、ベレルから目を逸らせずに震えが止まらない。
ベレルの言葉はユンディに深い絶望を与え、ついさっきまで愛娘であったはずのイニエラへ怒りと憎しみが湧き上がった。
「なんで生きてるの?」
─どういうことだ?イニエラは何をしたんだ?─
聞きたいが、聞くのが怖い。
何も考えられず、貴族の令嬢を人前に出すには有り得ない、ガウン姿のイニエラをベレルのもとに引きずって行った。
騒ぎに気づいたメイカ准男爵夫人トリーも何事かと姿をみせる。
「なあんだ、本当に生きてる。
あの草、即効で効くって書いてあったのに嘘ばっかり!」
何年も先の伯爵家の代替わりを待つ気が無くなったイニエラは、植物図鑑で即効性の強毒植物を探し、乾燥させて茶に混ぜたものをアレンソアに渡したのだった。
しかしベレルたちは無事で、今目の前にいる・・・。
チェッと舌打ちをしたイニエラの、罪を罪とも思わない言動にレイカが叫んだ。
「イニエラっ、あなた何故私たちに毒を?あんなによくしてあげたのに」
レイカの言葉に目玉を剥いたのはメイカ夫妻だ。
「ど、毒?そんななにかの間違いでは・・・」
否定しようとしたが、ユンディは先程の娘の言葉を思い出して言葉尻を濁した。
『なんで生きてるの?』
イニエラの声が脳裏に木霊する。
あれは死んだと思っていなければ出ない言葉だ。
「そ、そんな・・・イニエ・・ラ、うそだろう?」
しゃがみ込む父親には目もくれず、イニエラはレイカに言い返す。
「よくしてやったですって?おば様それ本気で仰ってます?相思相愛のアレンと私を引き裂いて、あんな白っちゃけた女と結婚させたくせに。
でもアレンはあの女には指一本だって触れやしないの、私だけを愛しているから。
アレンはね、伯爵になったらあの女を叩き出して、私を伯爵夫人にしてくれるって約束してくれているのよ!それなのにあんたたちがいつまでもいつまでも伯爵位を譲らないからっ!早くいなくなりなさいよぉぉぉぉっ」
ヒステリックに叫んだイニエラに、トリーが気絶した。ユンディもできれば気絶したかった。
あまりにも怖ろしい話である。
妻帯者の次期伯爵と不貞の仲の娘が、自分が伯爵夫人になるために、現伯爵夫妻と次期伯爵夫人全員を害そうとした。
娘がその口で言ったのだから間違いようのない事実・・・。
「お、終わりだ。メイカ家はもう・・・」
「そうだな、文官を続けることは勿論叶わぬ。当然准男爵も剥奪されるであろう」
ベレルの冷たい声に、またカッとしたイニエラが「ふざけるな」と叫ぶ。
「ふざけるな?それはこちらの台詞だ!なあメイカ准男爵?どう償ってもらえばいいだろうなあ。我が家族は毒を盛られたショックで精神的な痛手を被った。暫く執務どころではないし、社交にも出られないだろう。
茶を口にした料理人は今死にかけている。
貴殿の娘に誑かされた私の息子は次期伯爵どころか廃嫡だ。奴にかけてきた教育費もパアだよパア。それに新たに次男に教育を施さねばならん。
文官の貴殿なら知っているだろうが、長男の嫁は我がツィージャーと共同事業を行うイグラルドの娘だ。離婚となれば事業にも大きな影響が出る。イグラルド領で我が家がシャトーを持ったことは知っているかね?政略で結ばれた我が家だからこそ、手に入れることができたのだよ。だがそれらを手放さねばならなくなったとしたら、これらすべてを貴殿らの財産で賠償できると思うかね?」
ユンディは蛇に睨まれた蛙とはこうも怖ろしい思いをしているのだと、ベレルから目を逸らせずに震えが止まらない。
ベレルの言葉はユンディに深い絶望を与え、ついさっきまで愛娘であったはずのイニエラへ怒りと憎しみが湧き上がった。
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