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第24話

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 泣きくれた顔のレイカを従え、ベレルがツィージャー伯爵家に戻ってくると、屋敷の中は概ね静けさを取り戻していた。

「トルソーとエリーシャはどうしている?」
「おふたりは侍女たちも一緒に離れのお部屋で休まれています」
「うむ、エリーシャはまだ怯えているか?」

執事を降格されたルイードが伏せ目がちに頷く。

「離れか。トルソーと私も当面離れに居を移すことにするかな」
「あ、あの、奥方様は」

 ベレルの冷めた視線はレイカを見もしない。

「これは実家に返す。荷物をまとめ次第、一両日中にツィージャーを離れるから本邸の客間を使わせろ」

 一切情のない一言に、衝撃を受けたルイードは思わずレイカの顔を見てしまう。
 青ざめ、しかし目の周りは真っ赤に腫れていた。

 だがルイードにもレイカを気の毒だとは思えなかった。

 ベレルは何度も何度もメイカ准男爵家の娘は適切な距離を守る事ができない、息子たちにとって良くない存在だから付き合いを切れとレイカに忠告してきた。
 しかし、常日頃の奉仕活動で平民とも距離の近いレイカは、ベレルが二言目には身分と言うのが気に入らず、平民やそれに近い准男爵だって良き者はいる!それを見切って付き合うのだから自分の社交に文句を言うなと言い返していたのだ。
 執務や家内の仕切りはろくにできないというのに、派手な社交と奉仕活動だけに夢中な伯爵夫人などいなくてもいいのだ。

 金がかかるだけで、無駄な存在だから。




 その夜から、食事も離れで三人で食べることになった。
 ベレルとトルソーが心配していたエリーシャは、ひとりになるのを怖がり、眠るときは侍女が側について灯りを消さないようにした。




 翌朝、待ちに待ったという体で、イグラルド子爵夫妻とソリトスが乗り込んできた。

「訪問日を変えて頂き、誠に感謝しております。また此度は息子であったアレンソアがご心配をおかけしたことでの訪問かと存じます。イグラルド子爵ご夫妻とソリトス殿が仰りたいだろうことは概ね私も予想がついておるのですが、エリーシャに会う前に少しだけ話を聞いて頂けないでしょうか」

 かつてベレル・ツィージャー伯爵がここまで丁寧に語ったことはなかった。
 イグラルド子爵ラムスは、離婚させると言わせないつもりだと感じ、ギリと歯を噛み締めたが、伯爵に下手に出られてはハイと言うしかないのが貴族の悲しいところ。

 招かれるままに本邸の応接室へ入っていった。

「まず、昨夜次期伯爵であったアレンソアが私たち一家に毒を盛り、料理人一人が現在も意識不明の重態です」
「なっ!エリーシャは無事なのですか?」
「はい、料理人が倒れたことで、私たちは毒の入ったものを口にせずに済みましたから。エリーシャは今次男のトルソーが守っております。間違いなく安全ですので、どうかご心配なさらずに」

「そう言われても顔を見るまでは安心なんてできませんわ!」

 イグラルド子爵夫人オルラヤがベレルに食ってかかる。

「そのように思われるのが当然です、事情を説明したらすぐに会わせますのでほんの暫くお付き合い下さい」
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