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第25話
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ベレルは丁寧に丁寧に、起きたこととその原因、アレンソアの不貞に気づいていながら対処が遅れて大事になったことをイグラルド子爵一家に真摯に侘びた。
「アレンソアは廃嫡し、次男トルソーを次期伯爵とすることと、主犯である娘の出入りを許していた妻レイカを離婚して実家に戻すことに決めました」
たった一晩で。
ベレルの実に貴族らしい非情な判断に、ラムスらため息をつく。
「ではエリーシャはどうなるのです?聞いたところによるとアレンソア殿に蔑ろにされていたとか!私のかわいいエリーシャを!イグラルド子爵家はツィージャー伯爵家との事業からすべて手を引かせてもらいますぞ!」
「まったく言い訳もできません。エリーシャが望むのであれば何でも甘んじて受け入れます。もしイグラルド子爵家に帰りたいと言うなら、離婚ではなく白い結婚として婚姻無効を我が家有責で申し立てましょう」
そこまで言われてしまうと、つっこみようがない。
とりあえずエリーシャの顔を見ようと、離れに案内された。
エリーシャは離れの陽当りの良い部屋で寛いでいた。
侍女とトルソーと。
トルソーは忠犬のようにエリーシャのそばを離れず、武術の腕はからきしのくせに守ろうとしている。
エリーシャは、やさしいトルソーがいてくれるおかげで、昨日遭った怖ろしいことも思い出さずにいられる気がしていた。
「エリーシャ!」
「お父様お母様、お兄様まで!」
「ああ、よかったおまえが無事で!」
今にも泣きそうなラムスとソリトスがエリーシャを抱き寄せると、家族に譲るようにトルソーは自然と一歩引いた。
するとどうだろう、エリーシャが心細げにトルソーを探すのだ。
母オルラヤはエリーシャの目が常にトルソーを追っているのに気づいた。
「エリーシャ」
夫たちから娘を抱き取るとオルラヤはその髪を撫でてやる。
ベレルは震えが止まらないと言っていたが、落ち着いているのはトルソーのお陰だろうかと母の視線は心配そうにエリーシャを見守るトルソーに向けられた。
緑の瞳と目が合うと、こくんと頷いてみせるトルソー。
「なあエリーシャ、もう何も心配しなくていいんだ。私たちとイグラルドに帰ろう」
場の空気を読まず、ラムスが連れ帰ろうと誘うが、俯いたエリーシャは良い返事をしようとしない。
常識的に考えて、怖ろしいことが起きたツィージャー伯爵家より父母と実家に戻る方がよほど安心なはずだが、それでもここにいたいと思う何かがあるのだ。
オルラヤはラムスの腕を引いた。
「エリーシャにはエリーシャの考えがあるはずよ。エリーシャにとって怖ろしい記憶よりもっと大切なことがあるのかもしれないわ。答えを急がせるのは止めてあげて」
母の言葉にエリーシャの琥珀の瞳が大きく開かれ、ぎゅぅっと抱きついてくる。
「お母様!」
「ええ、わかるわ、あなたの瞳を見ればね」
そう言ってオルラヤが顔を覗き込むと、照れくさそうに頬を染める。
アレンソアに虐げられた暮らしの中、エリーシャの心を守っていたのがトルソーなのだろう。
こんなとき、頼りにするほどに想っているようだ。
それならいっそトルソーと再婚してしまえばいいのではないかと、オルラヤの脳裏に考えがぽつと思い浮かんだ。
「アレンソアは廃嫡し、次男トルソーを次期伯爵とすることと、主犯である娘の出入りを許していた妻レイカを離婚して実家に戻すことに決めました」
たった一晩で。
ベレルの実に貴族らしい非情な判断に、ラムスらため息をつく。
「ではエリーシャはどうなるのです?聞いたところによるとアレンソア殿に蔑ろにされていたとか!私のかわいいエリーシャを!イグラルド子爵家はツィージャー伯爵家との事業からすべて手を引かせてもらいますぞ!」
「まったく言い訳もできません。エリーシャが望むのであれば何でも甘んじて受け入れます。もしイグラルド子爵家に帰りたいと言うなら、離婚ではなく白い結婚として婚姻無効を我が家有責で申し立てましょう」
そこまで言われてしまうと、つっこみようがない。
とりあえずエリーシャの顔を見ようと、離れに案内された。
エリーシャは離れの陽当りの良い部屋で寛いでいた。
侍女とトルソーと。
トルソーは忠犬のようにエリーシャのそばを離れず、武術の腕はからきしのくせに守ろうとしている。
エリーシャは、やさしいトルソーがいてくれるおかげで、昨日遭った怖ろしいことも思い出さずにいられる気がしていた。
「エリーシャ!」
「お父様お母様、お兄様まで!」
「ああ、よかったおまえが無事で!」
今にも泣きそうなラムスとソリトスがエリーシャを抱き寄せると、家族に譲るようにトルソーは自然と一歩引いた。
するとどうだろう、エリーシャが心細げにトルソーを探すのだ。
母オルラヤはエリーシャの目が常にトルソーを追っているのに気づいた。
「エリーシャ」
夫たちから娘を抱き取るとオルラヤはその髪を撫でてやる。
ベレルは震えが止まらないと言っていたが、落ち着いているのはトルソーのお陰だろうかと母の視線は心配そうにエリーシャを見守るトルソーに向けられた。
緑の瞳と目が合うと、こくんと頷いてみせるトルソー。
「なあエリーシャ、もう何も心配しなくていいんだ。私たちとイグラルドに帰ろう」
場の空気を読まず、ラムスが連れ帰ろうと誘うが、俯いたエリーシャは良い返事をしようとしない。
常識的に考えて、怖ろしいことが起きたツィージャー伯爵家より父母と実家に戻る方がよほど安心なはずだが、それでもここにいたいと思う何かがあるのだ。
オルラヤはラムスの腕を引いた。
「エリーシャにはエリーシャの考えがあるはずよ。エリーシャにとって怖ろしい記憶よりもっと大切なことがあるのかもしれないわ。答えを急がせるのは止めてあげて」
母の言葉にエリーシャの琥珀の瞳が大きく開かれ、ぎゅぅっと抱きついてくる。
「お母様!」
「ええ、わかるわ、あなたの瞳を見ればね」
そう言ってオルラヤが顔を覗き込むと、照れくさそうに頬を染める。
アレンソアに虐げられた暮らしの中、エリーシャの心を守っていたのがトルソーなのだろう。
こんなとき、頼りにするほどに想っているようだ。
それならいっそトルソーと再婚してしまえばいいのではないかと、オルラヤの脳裏に考えがぽつと思い浮かんだ。
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