【完結】おまえを愛することはない、そう言う夫ですが私もあなたを、全くホントにこれっぽっちも愛せません。

やまぐちこはる

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第27話

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 オルラヤはベレルとトルソーの側に寄ると、まず美しいカーテシーで改めて挨拶する。

「トルソー様」
「はい」
「単刀直入にお訊ねしますわ。あなた私たちの可愛らしいエリーシャをどう思っていらっしゃるかしら」

 予想を超えたズバリぶりに、激しく狼狽えたトルソーは思わず声が震えてしまう。

「あっ、あの、義姉上は」
「ええ、もう義姉上ではなくなりますでしょ?ねっベレル様」

 オルラヤが言いたいらしいことに気づいたトルソーは真っ赤に染まり、ベレルはオルラヤがツィージャーにとっても最良の道を導き出そうとしていることに感謝した。

「あの、エリーシャ様は美しいだけでなく、お優しく、賢くて聡明なお方で、あ、あ、あこがれの方です」

 オルラヤが微笑んで耳まで赤くなったトルソーを促す。

「では是非私の娘にそう伝えてあげてくださいな」

 ツツと側に寄り、トルソーの耳元で小さく囁く。

 ─あの娘もそれを心から喜びますわ。今がチャンス!言わないとエリーシャはイグラルドに連れて行かれてしまうわ!ほらほら!─


 そっと背中を押して、エリーシャの元へトルソーを歩かせる。
 父兄にイグラルドには帰らないと告げ、ラムスを泣きそうな顔にしていたエリーシャは、近づいてくるトルソーに気づいた。
ラムスとソリトスも。

「あ、あねうえ」
「もうあねうえではなくなりますわ。お義父様が手続きしてくださると伺っております」

 エリーシャの視線にベレルが頷く。

「エリーシャとお呼びになって」
「エ、エリーシャ様。あの、あ、ああ」

 カチカチのカチカチになったトルソーは、かくかくと動いている。

「トルソー様、落ち着いて」

 今から告白しようとしている相手に落ち着けと言われ、トルソーは自分の情けなさに突然覚醒した。

「エっ、エリーシャ様!あなたを一生大切にしますっ!ケッコンしてくださいっ」

 ド直球である。

 手続きが終わるまでは正確にはまだ兄嫁なのだが、そう来たかと皆苦笑した。

 ひとりだけ、エリーシャは頬を染めて頷いて。

 エリーシャとトルソーの幸せそうな姿と、ツィージャー伯爵家とイグラルド子爵家の政略的関係の破綻も防がれたことで、一気に祝福ムードに包まれたのだった。



 ベレルは即座にアレンソアの不貞により夫婦関係がなく、エリーシャとの婚姻無効の手続きを行い、簡単な検査ですぐ認められた。
 トルソーとは半年の婚約期間を設け、身内のみのちいさな結婚式を行うと決める。

 一度嫁いだあと、亡くなったわけでもない夫が、兄から弟に変わるのはそれなりの醜聞だが、ベレルは勿論それにも徹底的に手を打った。
 アレンソアの不貞とイニエラの毒殺未遂事件を広め、両家の関係を守るための政略結婚であると。

 どこを突ついても本当のことしか出てこない話なので、皆誰に聞かれても堂々と答える。
そのうち、噂の新鮮味が薄れてくると、誰も興味を持たなくなって、静かになった頃ふたりの結婚式が行われた。


■□■

いつもご愛読いただきありがとうございます。
残すところあと3話となりました。最後までよろしくお願い致します。
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