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第55話 いついつまでも
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第一王子エルロールの成年式の日、エルロールとオルサガ侯爵令嬢メリンダは素晴らしい晴天のもと、結婚式を迎えた。
メリンダは二歳下だが、学院は卒業しているので婚姻は問題ない。
孤児院の奉仕活動中に知り合ったふたりの恋は、当初身分差があったこともあり、障害を乗り越えた世紀のロマンスと、世間の女性たちを蕩けさせた。
それとともにエルロールとメリンダによる孤児院の奉仕活動に目が向けられ、それにあやかろうと奉仕活動に精を出す令嬢が格段に増えて、教会はほくほくしたらしい。
それはさておき。
城の大聖堂に、長ーいトレーンを引きながらメリンダがオルサガ侯爵にエスコートされて入ってきた。
皆が息を飲む美しさ、だが心優しく賢くもある令嬢を見つけ出したエルロールに、男たちは称賛の目を向けている。
「これでエルロール殿下の王太子は間違いないな」
誰かの囁きが耳に入ったカルロイド王子がニヤリと笑った。
結婚式は恙無く終わり、祝宴で見事なファーストダンスを踊ってみせた第一王子夫妻に、貴族たちは次代の王政も安寧だと微笑みを見せて。
国全体が幸せに酔いしれた夜だった。
「メ、メリンダ」
エルロールは婚約してからもずーっとメリンダ嬢と呼んでいた。メリンダと呼びたかったのだが、なかなか勇気が出ず、祝宴が終わってふたりきりになって、漸く初めて呼ぶことができたのだ。
「はい、エル様」
「ふたりのときは様はいらない。エルと呼んでほしいんだ」
「は、はい。エ・・ル」
「うん」
じっと見つめあう。
「これから長い人生をともに迎えるにあたり、夫となる私エルロールは、妻メリンダを生涯に渡り愛し敬い守り続けると誓う」
跪いてそう言ったエルロールは、メリンダに剣を捧げた。既に寝着のふたり、それは寝室に相応しい行為とは言えないが、真剣なエルロールは今ここで伝えたかった。
メリンダが感極まって頷いたのを見たエルロールは剣を鞘に収めて壁に掛け、メリンダを寝台に座らせて自分も隣に座る。
いよいよかとメリンダがキュッと手を握ったことに気づくこともなく、さらに話を続けていく。
「今後王太子妃教育がさらに続くと、なかなか奉仕活動を続けるのが難しくなるだろう。でもメリンダにとってあの子達と会うことは大切だと、いやもちろん私にとっても大切なことだから定期的にその時間は確保するよう女官に手配させるつもりだから安心してほしい。ああ、こども・・・」
何か思い出したらしいエルロールが顔を赤くして俯いた。
何をもごもごしているのだろうとメリンダが小首を傾げて見つめていると、急にぱっと顔を上げて。
「早くほしいな!こどもは三人くらいはほしいっ!メリンダに似たら絶世の美姫になるに違いないよ!ああ、楽しみで身悶えするほどだ」
ふるふると身を震わせているエルロールを見て、さっきまでの熱がすぅっと冷めたメリンダだが。
「エル様に似たら、さぞ賢く麗しき王子がお生まれになると思いますわ」
そう言ってクスリと笑った。
賢王としてその名を知らしめたエルロール・アルストロ13世は、唯一無二と熱愛し続けた妻メリンダ王妃とアルストロ王国を治めた。
エルロールの施策の中でも特に、読み書き教室は平民たちの識字率を高めた事で国力が大きく上がり、民の生活を豊かにした。
その読み書き教室だが、最初は小さな教室を増やして読み書きのみを教えていたが、それを拠点に平民が気軽に通え、様々なことを学ぶ小学校に変化する。
いつしか国民は身分に関わらず、必ず基礎学習を受けることと、主にメリンダの意向で法律や教育費の予算も整えられていった。
エルロールの希望通り、ふたりの王子とひとりの王女も生まれた国王夫妻のロマンスは、真実の愛を求める人々から支持され、恋愛結婚が貴族平民問わず憧れとなる。
「メリ、ランスロットの剣筋が素晴らしいと騎士団長が言っていたよ」
「そうですか!あの子は貴方に似て、何をやらせても優秀なのですわ。そういえばリリアンジェラ様からローザのマナーが素晴らしいとお褒めいただきましたの」
リリアンジェラは、小さな国の第三王子と国内の公爵嫡男とを天秤にかけて公爵家へ嫁いだあと、王子や王女たちのマナーや王族としての教育師を努めている。
なかなか厳しく、第二王子のボランはしょっちゅう逃げ出して叱られているのだ。
「さすがわたしたちのローザだ!それにしてもローザは貴女にどんどん似てくるな!そのうちにローザを見た者はその眩しさに目が潰れてしまうかもしれない」
ハハハっと笑うエルロール。飽きもせずに褒め殺しあってる夫妻に呆れた目を向けたテューダーもそのまま。
純粋で熱い王子の初恋はその後も一向に冷めることはなく、愛を捧げた令嬢を一生幸せにし続けたのだった。
================================
ここまでお読み頂き、ありがとうございました。
本編はこれにて完結となります。
皆様のあたたかい感想に励まされ、またお気に入りや栞に力を頂きました。
厚く御礼申し上げます。
あと数話分、毎朝七時に一話更新の外伝が続きます。
あんな脇役、こんな脇役のお話も。
こちらもお楽しみ頂けたらうれしいです。
よろしくお願い致します。
メリンダは二歳下だが、学院は卒業しているので婚姻は問題ない。
孤児院の奉仕活動中に知り合ったふたりの恋は、当初身分差があったこともあり、障害を乗り越えた世紀のロマンスと、世間の女性たちを蕩けさせた。
それとともにエルロールとメリンダによる孤児院の奉仕活動に目が向けられ、それにあやかろうと奉仕活動に精を出す令嬢が格段に増えて、教会はほくほくしたらしい。
それはさておき。
城の大聖堂に、長ーいトレーンを引きながらメリンダがオルサガ侯爵にエスコートされて入ってきた。
皆が息を飲む美しさ、だが心優しく賢くもある令嬢を見つけ出したエルロールに、男たちは称賛の目を向けている。
「これでエルロール殿下の王太子は間違いないな」
誰かの囁きが耳に入ったカルロイド王子がニヤリと笑った。
結婚式は恙無く終わり、祝宴で見事なファーストダンスを踊ってみせた第一王子夫妻に、貴族たちは次代の王政も安寧だと微笑みを見せて。
国全体が幸せに酔いしれた夜だった。
「メ、メリンダ」
エルロールは婚約してからもずーっとメリンダ嬢と呼んでいた。メリンダと呼びたかったのだが、なかなか勇気が出ず、祝宴が終わってふたりきりになって、漸く初めて呼ぶことができたのだ。
「はい、エル様」
「ふたりのときは様はいらない。エルと呼んでほしいんだ」
「は、はい。エ・・ル」
「うん」
じっと見つめあう。
「これから長い人生をともに迎えるにあたり、夫となる私エルロールは、妻メリンダを生涯に渡り愛し敬い守り続けると誓う」
跪いてそう言ったエルロールは、メリンダに剣を捧げた。既に寝着のふたり、それは寝室に相応しい行為とは言えないが、真剣なエルロールは今ここで伝えたかった。
メリンダが感極まって頷いたのを見たエルロールは剣を鞘に収めて壁に掛け、メリンダを寝台に座らせて自分も隣に座る。
いよいよかとメリンダがキュッと手を握ったことに気づくこともなく、さらに話を続けていく。
「今後王太子妃教育がさらに続くと、なかなか奉仕活動を続けるのが難しくなるだろう。でもメリンダにとってあの子達と会うことは大切だと、いやもちろん私にとっても大切なことだから定期的にその時間は確保するよう女官に手配させるつもりだから安心してほしい。ああ、こども・・・」
何か思い出したらしいエルロールが顔を赤くして俯いた。
何をもごもごしているのだろうとメリンダが小首を傾げて見つめていると、急にぱっと顔を上げて。
「早くほしいな!こどもは三人くらいはほしいっ!メリンダに似たら絶世の美姫になるに違いないよ!ああ、楽しみで身悶えするほどだ」
ふるふると身を震わせているエルロールを見て、さっきまでの熱がすぅっと冷めたメリンダだが。
「エル様に似たら、さぞ賢く麗しき王子がお生まれになると思いますわ」
そう言ってクスリと笑った。
賢王としてその名を知らしめたエルロール・アルストロ13世は、唯一無二と熱愛し続けた妻メリンダ王妃とアルストロ王国を治めた。
エルロールの施策の中でも特に、読み書き教室は平民たちの識字率を高めた事で国力が大きく上がり、民の生活を豊かにした。
その読み書き教室だが、最初は小さな教室を増やして読み書きのみを教えていたが、それを拠点に平民が気軽に通え、様々なことを学ぶ小学校に変化する。
いつしか国民は身分に関わらず、必ず基礎学習を受けることと、主にメリンダの意向で法律や教育費の予算も整えられていった。
エルロールの希望通り、ふたりの王子とひとりの王女も生まれた国王夫妻のロマンスは、真実の愛を求める人々から支持され、恋愛結婚が貴族平民問わず憧れとなる。
「メリ、ランスロットの剣筋が素晴らしいと騎士団長が言っていたよ」
「そうですか!あの子は貴方に似て、何をやらせても優秀なのですわ。そういえばリリアンジェラ様からローザのマナーが素晴らしいとお褒めいただきましたの」
リリアンジェラは、小さな国の第三王子と国内の公爵嫡男とを天秤にかけて公爵家へ嫁いだあと、王子や王女たちのマナーや王族としての教育師を努めている。
なかなか厳しく、第二王子のボランはしょっちゅう逃げ出して叱られているのだ。
「さすがわたしたちのローザだ!それにしてもローザは貴女にどんどん似てくるな!そのうちにローザを見た者はその眩しさに目が潰れてしまうかもしれない」
ハハハっと笑うエルロール。飽きもせずに褒め殺しあってる夫妻に呆れた目を向けたテューダーもそのまま。
純粋で熱い王子の初恋はその後も一向に冷めることはなく、愛を捧げた令嬢を一生幸せにし続けたのだった。
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ここまでお読み頂き、ありがとうございました。
本編はこれにて完結となります。
皆様のあたたかい感想に励まされ、またお気に入りや栞に力を頂きました。
厚く御礼申し上げます。
あと数話分、毎朝七時に一話更新の外伝が続きます。
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