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外伝
第56話 双子の王子
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メリンダがオルサガ侯爵家に養女に行ってすぐのこと。
「カル!」
「んーどしたメル?」
「小耳に挟んだんだが、兄上が婚約するらしいぞ」
カルロイドは沈み込んでいたソファからガバッと起き上がった。
「いつ?結婚は成年式間に合いそうか?」
「間に合わせるためにあんなにバタバタしてるんだろ?」
「ああ、よかったぁ!私たちの婚約を遅らせないとダメかと思っていたからなあ」
「本当にな」
双子はニヤニヤっと笑って、肘で突きあった。
「エルにいしゃま、あしょんでぇ」
一歳下の双子の弟に両腕に抱き付かれ、エルロール第一王子が困ったように眉尻を下げると、双子の女官たちが抱き上げて子供部屋へと連れて行く。
「「ヤダヤダヤダ、にいしゃまとあーしょーぶーっ!」」
双子が声を揃えて倍音で泣き叫ぶが。
「エルロール殿下はお勉強のお時間ですから、メルケルト殿下とカルロイド殿下はおふたりで遊んでくださいませね」
「「ヤダヤダヤダヤダーッ!にーいーしゃーまーっ!」」
こんな風に幼少からエルロールのことが大好きだったメルケルトとカルロイドだが、どれほど遊びたいと願っても、いつもエルロールは勉強だと侍従たちに連れて行かれてしまう。
「ねえ、リーザ!どうしてにいしゃまはお勉強しないといけないの」
メルケルトが女官に訊ねると、
「それはいつか国王になられるかもしれないからでございます」
「こくおうってなに?」
「ふふ、メルケルト殿下のお父様が国王陛下でございますわ」
「おとうしゃま?」
「そうです。国で一番お偉くて尊い方ですよ。いつかはエルロール殿下か、メルケルト殿下かカルロイド殿下が国王を継ぐことになりますが、そのためにはたくさんお勉強しなければなりません。
エルロール殿下はおふたりより少し早くお生まれになりましたから、おふたりより少し早くから一生懸命にお勉強をなさっておいでですのよ。
もちろんおふたりも来年からお勉強が始まりますわ」
メルケルトは、すぐカルロイドにエルロールと遊べない理由を教えてやった。
「ええ?こくおうしゃまになるためにべんきょしゅるからあしょべないの?しょんなのやだぁ」
「しょうだよね、ぼくもやだぁ」
「・・・ね、メル。ぼくたちはべんきょしないことにしよ」
「だね、じゃないとあしょべなくなっちゃうよ」
こうして双子王子は齢3歳にして、勉強はしないと決めたのだった。
少し大きくなると、双子たちも国王がどういうものか理解できるようになった。
凄まじい重圧と重い責任を背負い、民を守るために様々な勉強を重ねる兄エルロールを見ては、こそこそと相談する。
「ぼくは国王にはなりたくない」
「ああ、メル。ぼくもだ。兄上のように一生懸命勉強すると国王にされてしまうかもしれないよ」
「ああ、兄上には悪いが、ぼくたちは勉強はほどほどにしておこう!」
そして、エルロールが成年式を迎える一年前。
「なあ、カル。おまえいいと思ってる令嬢がいるんだろう?」
「メルもだろ?」
「まあな。でも兄上が婚約者を決めるまでは絶対に婚約しないぞ」
「ああ、私もだ。もし兄上が結婚せずに、私たちが先に結婚したら王にされちゃうかもしれないんだからな。メルは彼女にはそのこと話してあるのか?」
「ん?ああ、彼女には王にはなりたくないって言ってあるし、権力からは距離を置いている家門だからそれでいいって言ってくれてる」
「やっぱりそこは大事だよな。私の彼女は婿取りなんだ。だから私は臣籍降下してそっちを継ぎたいんだけど、今そんなこと言ったら」
「私たちを王にしたいとか言う寝ぼけたやつらに別れさせられるかもしれないから、ぜーったいに内緒にしとけよ」
第一王子エルロールに比べると出来が悪く、万一、メルケルトかカルロイドが王太子に選ばれたら一大事だとすら言われていた双子の第二、第三王子たちは、大変そうな王になど心底なりたくなかった。
小さな頃から計画的にサボり、だらしなさそうな姿を見せ、悪い王様や嫌われ者の王様の本を読むとすぐに真似をして、絶対に国王に選ばれることがないように準備してきたのである。
エルロールがメリンダと結婚して無事に王太子となると、安心したカルロイドはすぐにレンド辺境伯家の一人娘ミエラに婿入りを願い出た。
狭いところに閉じ込められるのを嫌うカルロイドは、馬を駆り、広い領地を守ることが性に合うようだ。王都育ちにはキツいのではという噂を跳ね返し、実にのびのびとその地に馴染んでいった。
メルケルトの方は、以前より付き合いを深めていたアニエ・ヤーミー侯爵令嬢との婚姻を。
ヤーミー侯爵家は権力や政治より学問に重きを置き、優れた学者を数多く輩出する一門なので、メルケルトとその家の令嬢が交際と聞いて首をひねったものがたくさんいたらしい。
しかし双子の弟たちは幼少時に目論んだとおりに、気楽な王弟の道を選び取ったのだ。
もちろん締めるところは締めつつも、仕事も勉強もやりすぎ禁止、ゆるふわを良しとする双子の王子とその家族が幸せになったことは言うまでもない。
「カル!」
「んーどしたメル?」
「小耳に挟んだんだが、兄上が婚約するらしいぞ」
カルロイドは沈み込んでいたソファからガバッと起き上がった。
「いつ?結婚は成年式間に合いそうか?」
「間に合わせるためにあんなにバタバタしてるんだろ?」
「ああ、よかったぁ!私たちの婚約を遅らせないとダメかと思っていたからなあ」
「本当にな」
双子はニヤニヤっと笑って、肘で突きあった。
「エルにいしゃま、あしょんでぇ」
一歳下の双子の弟に両腕に抱き付かれ、エルロール第一王子が困ったように眉尻を下げると、双子の女官たちが抱き上げて子供部屋へと連れて行く。
「「ヤダヤダヤダ、にいしゃまとあーしょーぶーっ!」」
双子が声を揃えて倍音で泣き叫ぶが。
「エルロール殿下はお勉強のお時間ですから、メルケルト殿下とカルロイド殿下はおふたりで遊んでくださいませね」
「「ヤダヤダヤダヤダーッ!にーいーしゃーまーっ!」」
こんな風に幼少からエルロールのことが大好きだったメルケルトとカルロイドだが、どれほど遊びたいと願っても、いつもエルロールは勉強だと侍従たちに連れて行かれてしまう。
「ねえ、リーザ!どうしてにいしゃまはお勉強しないといけないの」
メルケルトが女官に訊ねると、
「それはいつか国王になられるかもしれないからでございます」
「こくおうってなに?」
「ふふ、メルケルト殿下のお父様が国王陛下でございますわ」
「おとうしゃま?」
「そうです。国で一番お偉くて尊い方ですよ。いつかはエルロール殿下か、メルケルト殿下かカルロイド殿下が国王を継ぐことになりますが、そのためにはたくさんお勉強しなければなりません。
エルロール殿下はおふたりより少し早くお生まれになりましたから、おふたりより少し早くから一生懸命にお勉強をなさっておいでですのよ。
もちろんおふたりも来年からお勉強が始まりますわ」
メルケルトは、すぐカルロイドにエルロールと遊べない理由を教えてやった。
「ええ?こくおうしゃまになるためにべんきょしゅるからあしょべないの?しょんなのやだぁ」
「しょうだよね、ぼくもやだぁ」
「・・・ね、メル。ぼくたちはべんきょしないことにしよ」
「だね、じゃないとあしょべなくなっちゃうよ」
こうして双子王子は齢3歳にして、勉強はしないと決めたのだった。
少し大きくなると、双子たちも国王がどういうものか理解できるようになった。
凄まじい重圧と重い責任を背負い、民を守るために様々な勉強を重ねる兄エルロールを見ては、こそこそと相談する。
「ぼくは国王にはなりたくない」
「ああ、メル。ぼくもだ。兄上のように一生懸命勉強すると国王にされてしまうかもしれないよ」
「ああ、兄上には悪いが、ぼくたちは勉強はほどほどにしておこう!」
そして、エルロールが成年式を迎える一年前。
「なあ、カル。おまえいいと思ってる令嬢がいるんだろう?」
「メルもだろ?」
「まあな。でも兄上が婚約者を決めるまでは絶対に婚約しないぞ」
「ああ、私もだ。もし兄上が結婚せずに、私たちが先に結婚したら王にされちゃうかもしれないんだからな。メルは彼女にはそのこと話してあるのか?」
「ん?ああ、彼女には王にはなりたくないって言ってあるし、権力からは距離を置いている家門だからそれでいいって言ってくれてる」
「やっぱりそこは大事だよな。私の彼女は婿取りなんだ。だから私は臣籍降下してそっちを継ぎたいんだけど、今そんなこと言ったら」
「私たちを王にしたいとか言う寝ぼけたやつらに別れさせられるかもしれないから、ぜーったいに内緒にしとけよ」
第一王子エルロールに比べると出来が悪く、万一、メルケルトかカルロイドが王太子に選ばれたら一大事だとすら言われていた双子の第二、第三王子たちは、大変そうな王になど心底なりたくなかった。
小さな頃から計画的にサボり、だらしなさそうな姿を見せ、悪い王様や嫌われ者の王様の本を読むとすぐに真似をして、絶対に国王に選ばれることがないように準備してきたのである。
エルロールがメリンダと結婚して無事に王太子となると、安心したカルロイドはすぐにレンド辺境伯家の一人娘ミエラに婿入りを願い出た。
狭いところに閉じ込められるのを嫌うカルロイドは、馬を駆り、広い領地を守ることが性に合うようだ。王都育ちにはキツいのではという噂を跳ね返し、実にのびのびとその地に馴染んでいった。
メルケルトの方は、以前より付き合いを深めていたアニエ・ヤーミー侯爵令嬢との婚姻を。
ヤーミー侯爵家は権力や政治より学問に重きを置き、優れた学者を数多く輩出する一門なので、メルケルトとその家の令嬢が交際と聞いて首をひねったものがたくさんいたらしい。
しかし双子の弟たちは幼少時に目論んだとおりに、気楽な王弟の道を選び取ったのだ。
もちろん締めるところは締めつつも、仕事も勉強もやりすぎ禁止、ゆるふわを良しとする双子の王子とその家族が幸せになったことは言うまでもない。
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