【完結】御令嬢、あなたが私の本命です!

やまぐちこはる

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第8話 閑話:マウントする令嬢

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 王家の四人の王子王女の中でもっとも社交上手と言われるリリアンジェラ姫は、15という年齢のため夜会は特別なときだけだが、茶会は自らも頻繁に催して情報収集を欠かさない。

 今日の茶会はリリアンジェラがよく思っていない令嬢たちも多く招かれた、派閥の隔てのない大規模なものだった。

「リリ様、どうなさいましたの?」

 リリアンジェラの刺すような視線を辿ったラミル伯爵令嬢カテナは、メンジャー侯爵家のセラ嬢とその取り巻きたちが、美しいが大人しいシリーナ・ニュリンゲ伯爵令嬢を囲んでいることに気がついた。

「カティ、側を通り過ぎて何を話しているのか聞いてきてくれない?」
「了解ですわ!」

 カテナはテューダー・ソグの従兄妹で、兄王子に囲まれたリリアンジェラの遊び相手に令嬢をと考えたパリス王妃が、マイラに連れてこさせたものだ。
 通常は乳母のこどもたちが乳兄弟となるが、リリアンジェラの乳母モリーン・テルドはこどもを亡くして乳母になった経緯があり、リリアンジェラには乳兄弟と呼べる者はいない。
 その代わり、同い年のラミル伯爵令嬢カテナが阿吽の呼吸ですべてをわかりあう、希少な幼馴染みとなっていた。



 リリアンジェラにしかわからないニヤニヤ笑いを浮かべたカテナが、令嬢たちの間を縫うように戻ってくると、すーっと近づいて耳元で囁いた。

「聞いて参りましたわ!なんと、セラ様ってばエルロール様と婚約なさるおつもりみたいですわ。シリーナ様に、伯爵家の令嬢如きが王子に選ばれるわけがないから弁えなさいって」
「まあ、やっぱり!あの方って本当に自分がどれほどの者だと思っていらっしゃるのかしら!」

 リリアンジェラは前からよい噂を聞かないセラが嫌いだったが、なおさら拍車がかかる。

「それでシリーナ様は?」
「お友達のご令嬢が助けに入られて」
「ふうん、どちらの方?」
「ベリス伯爵令嬢ですわ」
「ああ、オリー様ね。それなら安心だわ」
「はい、伯爵家と言ってもベリス家はその辺の侯爵家では歯が立ちませんからね」

 満足そうにリリアンジェラが頷くも。

「え、いやだ!まただわ!」

 次の標的を見つけたらしいセラたちが、また別の伯爵令嬢を囲んでいる。どうやらまど婚約者がおらず、エルロールの婚約者候補となれる伯爵家以上の令嬢がターゲットのようだ。

「わかりやすいわね。ねえカティ!助けてあげて!」
「畏まりっ!」

 ニッと笑ったカテナが令嬢たちの間をすり抜け、今度は連れて戻ってきた。
リリアンジェラも親しいミサイヤ・ウィーサー伯爵令嬢である。

「あら、ミーシャ様でしたのね。メンジャー侯爵令嬢に不快なことを言われたりしなかったかしら」

 リリアンジェラの口調が気安いものに変わる。

「リリ様、お気づきでしたの!ああ、それでカティ様を寄越して下さったのですね、助かりましたわ。
メンジャー令嬢が、私がエルロール殿下を狙っているみたいなことを仰るものですから、驚いてしまって」
「まあ、セラ様はミーシャ様がゴアミー侯爵令息と婚約間近とはご存知ないのね」
「そのようですわ。それにエルロール殿下に選ばれるのはセラ様だから、身の程を弁えるよう仰られて、もう私唖然としてしまいましたの!」

 セラはエルロール王子にちょうど良さげな年頃の、婚約者がいない令嬢たちを片っ端からこうしてマウントして歩いているのだ。

「まったく何様かしら!お兄様があんなの選ぶわけがないじゃない!もしそんなトチ狂ったことをお兄様やお父様たちが仰ったら、私が叩き潰してやりますわ!
あら、こんなこと言うの、はしたなかったかしら!おほほほほ」



 もし国王がエルロールの婚約者にセラを選んだとしたら、リリアンジェラはそれが父だろうと許さないだろう。何をして止めさせるのかは想像するのも恐ろしいと、カテナもミサイヤも口を噤んだ。

「もちろんそうならないよう、あの令嬢がお兄様に近づけないようにしてやるわ。見てなさい!」

 ─ここまで嫌われるって凄いわ。お気の毒様─

 鷹が獲物を狙うようにセラを睨みつけるリリアンジェラを、カテナは肩を竦めて見つめていた。
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