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第43話

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「あの、ありがとうございます」

 ジロジロとした視線を感じて居心地が悪そうなビュワードだが、濡れ衣を晴らしてくれたルーサーにはきちんと礼を言った。

「いや、ニイマス嬢に絡まれ始めた時に助けてやれればよかったんだが、少し遅かったよ。むしろこちらのほうが済まなかったな」

 そう言って謝ってくれたルーサーに、ビュワードは手を差し出した。

「私はビュワード・スミールです」
「うん、勿論知ってる。いろいろ大変だったって噂のヤツだろう?」

 まさかこんなにもドストレートに聞く者がいるとは!と苦笑しながら、ビュワードとルーサーは握手を交わした。

 それ以来、廊下で会うたびに声を掛け合うようになった。とは言え、互いにそれ以上に踏み込むでもない。


 ゴールディアはビュワードがルーサーを見つけるとうれしそうに声をかける様子に、思うことがあった。
 何しろビュワードはずっと孤独で、友達がいない。
まあゴールディアも北の地では友がいないのだが、王都や領地には心を通わせる幼馴染みや親友がいて、その存在に支えられている。

「そうだわ」



 ゴールディアはビュワードに、次にルーサーと会ったら自分を紹介するように頼んだ。

「ちゃんと婚約者ですって、お願いしますわね」



 ビュワードは廊下でルーサーに会っても、こんにちはくらいしか言わない。
しかしゴールディアに言われていたこともあり、その日の帰りに馬車寄せで彼を見つけるとルーサーに手を振った。

「あの、モイル様!」
「ああスミール様、こんにちは」
「こんにちは。あの、紹介してもよろしいでしょうか?こちらは私の婚約者ゴールディア・ミリタス侯爵令嬢です」

 ずぃっと前に出たゴールディアは、誰よりも堂々と名乗る。

「ご紹介に預かりました、ミリタス侯爵家のゴールディアでございますわ」
「モイル子爵家のルーサーと申します」
「先日はビュワード様をお助け下さったと伺いました。御礼に我が家へお招きしたいのでございますが」

 ビュワードもルーサーも、驚いた顔をする。

「いや、そんな大したことしていませんよ」

 手を振って辞退しようとしたが、ゴールディアは貴重なビュワードの友だち候補を逃す気はない。

「いいえ、御礼を怠ったと我が父に知られましたら叱られてしまいますわ。助けると思ってどうか、せめて一度でも」

 そこまで言われて断る者もそうはいない。
ビュワードはいつものように少し困ったような、でもうれしそうな表情をしている。

「ああ、ではそのうちに」

 帰ろうとしたルーサーを引き留め、

「そのうちとはいつでしょうか?明日?明後日ならよろしいですか?」

ゴールディアはぐいぐいと押し捲くる。

「で、では明後日・・・」
「畏まりましたわ、当方から招待状をモイル子爵家にお送り致しまして、明後日は是非学院から私の馬車でともにいらしてくださいませ。楽しみにしております」
「で、ではまた」
「はい、ご機嫌よう」
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