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15話
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「以前ミヒア様が、糸や生地は東国の専売特許だと仰られていましたが」
「そうね。今からここで織物工場を建てても、あの技術に追いつくのは並大抵ではないわ。買うほうが早いし、安いのよ」
「輸入税と運送、護衛代を払ってもですか?」
ミヒアは意外そうにナミリアをみた。
「よく調べているのね」
「ありがとうございます」
誉められて小首を傾げ、はにかむように微笑むナミリアは小鳥のように可愛らしい。
久しぶりにみた気に入りの娘の笑顔に、ミヒアもつられて微笑んでいた。
「ミヒア様、この国では糸や生地を誰が作っているかはご存知ですか?」
「ええ、農家の奥さんたちが農閑期などに手慰みに」
「そうです。個々にその人が買える材料や道具で細々やっているので、品質が上がらないのではないでしょうか?」
平民だったミヒアにとり、それはごく当たり前のことだ。貴族たちが好んで使う上質の生地は輸入品、自分たち庶民が使うのは副業で誰かが撚ったり織ったりした、粗悪とまでは言わないが、安価のものを使う。
生まれたときから見ている循環なので、そこに疑問を持ったことは一度もなかった。
「でも出来る人たちはここにもいるんです。訓練はかなり必要でしょうけれど、若く、幼少から見様見真似でやっていた女性たちを集めて訓練し、勿論良い道具や良い材料を用意してやれば、初めての者を集めるよりずっと早く上手くなるのではないでしょうか?」
ミヒアとロリーンは、ナミリアの考えたことを段々と理解し始めていた。
「・・すごいわ、ナミリアさん!そう、その工房をやりたいのね?」
「自分でやりたいとまでははっきり言えないのですが、幸い資金は潤沢にありますのでお力をお貸しいただけないでしょうか」
ミヒアからもらった保障金を使うつもりらしい。
「そんなの駄目よ、あれは貴女の一生を守るものなのよ。でもわたしとの共同出資ということならいいけれど」
にやにやと美しい口元が歪む。
「ところでお父様には相談されたの?」
「いえ、先ほど思いついてその足でうかがいましたので」
ナミリアの答えに、ミヒアはうれしさが滲み出るように晴れやかに笑った。
「あの、ちょっとよろしいかしら」
黙って見ていたロリーンがとうとう片手をあげ、話に割り込んできた。
「すみません勝手に話していて」
「それはいいのだけど、ナミリア様はもしかして糸や生地をこの国で自分たちで作ろうと思っているの?本気で?」
「はい。ロリーン夫人も糸を褒めてくださいましたでしょう?あれは家で糸撚りを副業にしてきた下女が、私が用意した道具や材料で仕上げてくれたものなのです。
下女の家で使っている道具でも同じように糸を撚らせましたが、やはり道具がいいだけで格段に品質が上がります。
粗悪な材料でも作らせてみましたが、それは多少良く出来るくらいで、ですから、良い材料と良い道具、そして技術のある者がいれば我が国でも上質な生地や糸は作れるようになると思います。
人が育つのに時間は必要ですが、うちの下女から、こどもの頃から糸撚りしている者はたくさんいると聞きました」
じっと聞いていたミヒアは、うんと頷いた。
「確かに。そういえば私もこどもの頃は家で糸車を回していたわ」
「ミヒア様がですか?」
「ええ。私、もとは平民ですもの」
たいしたことでもないように言ってのけるミヒアの言葉に、仕事で成り上がってきた自信を感じたロリーンは、気づくとミヒアの手を握りしめ、口走っていた。
「私も貴女たちと一緒に仕事をしてみたいわ!だめかしら?」
■□■
いつもありがとうございます。
本日はこのあと二回更新します。
「呪われ令嬢、猫になる」も更新中です。
よろしくお願いいたします。
「そうね。今からここで織物工場を建てても、あの技術に追いつくのは並大抵ではないわ。買うほうが早いし、安いのよ」
「輸入税と運送、護衛代を払ってもですか?」
ミヒアは意外そうにナミリアをみた。
「よく調べているのね」
「ありがとうございます」
誉められて小首を傾げ、はにかむように微笑むナミリアは小鳥のように可愛らしい。
久しぶりにみた気に入りの娘の笑顔に、ミヒアもつられて微笑んでいた。
「ミヒア様、この国では糸や生地を誰が作っているかはご存知ですか?」
「ええ、農家の奥さんたちが農閑期などに手慰みに」
「そうです。個々にその人が買える材料や道具で細々やっているので、品質が上がらないのではないでしょうか?」
平民だったミヒアにとり、それはごく当たり前のことだ。貴族たちが好んで使う上質の生地は輸入品、自分たち庶民が使うのは副業で誰かが撚ったり織ったりした、粗悪とまでは言わないが、安価のものを使う。
生まれたときから見ている循環なので、そこに疑問を持ったことは一度もなかった。
「でも出来る人たちはここにもいるんです。訓練はかなり必要でしょうけれど、若く、幼少から見様見真似でやっていた女性たちを集めて訓練し、勿論良い道具や良い材料を用意してやれば、初めての者を集めるよりずっと早く上手くなるのではないでしょうか?」
ミヒアとロリーンは、ナミリアの考えたことを段々と理解し始めていた。
「・・すごいわ、ナミリアさん!そう、その工房をやりたいのね?」
「自分でやりたいとまでははっきり言えないのですが、幸い資金は潤沢にありますのでお力をお貸しいただけないでしょうか」
ミヒアからもらった保障金を使うつもりらしい。
「そんなの駄目よ、あれは貴女の一生を守るものなのよ。でもわたしとの共同出資ということならいいけれど」
にやにやと美しい口元が歪む。
「ところでお父様には相談されたの?」
「いえ、先ほど思いついてその足でうかがいましたので」
ナミリアの答えに、ミヒアはうれしさが滲み出るように晴れやかに笑った。
「あの、ちょっとよろしいかしら」
黙って見ていたロリーンがとうとう片手をあげ、話に割り込んできた。
「すみません勝手に話していて」
「それはいいのだけど、ナミリア様はもしかして糸や生地をこの国で自分たちで作ろうと思っているの?本気で?」
「はい。ロリーン夫人も糸を褒めてくださいましたでしょう?あれは家で糸撚りを副業にしてきた下女が、私が用意した道具や材料で仕上げてくれたものなのです。
下女の家で使っている道具でも同じように糸を撚らせましたが、やはり道具がいいだけで格段に品質が上がります。
粗悪な材料でも作らせてみましたが、それは多少良く出来るくらいで、ですから、良い材料と良い道具、そして技術のある者がいれば我が国でも上質な生地や糸は作れるようになると思います。
人が育つのに時間は必要ですが、うちの下女から、こどもの頃から糸撚りしている者はたくさんいると聞きました」
じっと聞いていたミヒアは、うんと頷いた。
「確かに。そういえば私もこどもの頃は家で糸車を回していたわ」
「ミヒア様がですか?」
「ええ。私、もとは平民ですもの」
たいしたことでもないように言ってのけるミヒアの言葉に、仕事で成り上がってきた自信を感じたロリーンは、気づくとミヒアの手を握りしめ、口走っていた。
「私も貴女たちと一緒に仕事をしてみたいわ!だめかしら?」
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