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23話
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ナミリアは、週に四回ほどをイールズ商会の中に設えられた小部屋で、ミヒアとロリーンと使用人希望者の面接をしたり、東国に向かった商会員からの道具や材料の選定をしたりして過ごしていた。
東国の一つチューラルンゲから、織物工房と製糸工房に勤めていたという女性レレランを連れて戻った者がおり、東国での機織りや糸撚りを教える者が確保できた。
ナミリアが集めた糸撚り機や機織り機をレレランに使わせてみると、使い慣れた物ではないというのに、ダリアのそれが拙く見えるほど速さも精度も雲泥の差があった。
「ダリアには悪いけど・・・これほど違うとは思わなかったわ。ねえレレラン、どうしてこんな遠い国に来ようと思ったの?向こうでも技術を持つ貴女なら大切にされたでしょう?ご家族もいるだろうし。確かに報酬は弾んだと思うけど」
「アタシタチハタイセツナンカジャナイ。カワリ、イクラデモイル」
片言でゆっくり話すレレランのそれは、ナミリアに物悲しく響いて、思わずレレランを抱き締めていた。
「大切じゃない?そんなことないわ。私にとっては、私たちにとっては、貴女はとっても大切な人よ!来てくれてありがとう」
レレランの目が丸く見開かれる。
故郷チューラルンゲも身分制度がある。その差ははっきりと分けられ、貴族が下賤な使用人を抱き締めるなどありえないことなのだ。
しかもこんなに優しい言葉をかけるなど。
レレランは、それだけでも故郷を出て来て良かったと心から思った。
「アタシガンバル」
「ええ、一緒に頑張りましょうね!ここで働く皆がレレランみたいに出来るようになったら、きっと我が国にもこういった産業が定着すると思うの。よろしくお願いしますね」
「ハイ」
とは言ったものの、ナミリアはレレランの腕前が想像以上すぎて、なんならダリアを講師にしてもいいのではと考えていた自分の無知が恥ずかしく、自分はまだまだ甘いと思い知らされていた。
「レレラン、機織りや糸撚りのお仕事を一緒にしていた方でこちらに来てくれそうな方、もし他にもいたら紹介してもらえないかしら」
ひとりで雇おうと思っている皆を教えさせるのは難しいと理解したナミリアは、レレランにアテがあるならと聞いてみる。
暫く考えていたレレランは、ナミリアには読めないチューラルンゲの文字で何かを書き、手渡してくれた。
「チューラルンゲの文字かしら?」
「ソウ」
「ありがとう!これで探してもらってみるわね」
ナミリアはミヒアの元へ行くと、それを差し出した。
「それは何?あらチューラルンゲ語じゃない?」
「よくわかりますね」
「取引があるから、簡単な言葉ならわかるわよ。名前と住所かしら?」
「ええ、さっきレレランに糸撚りと機織りしてもらったのですが、それが凄すぎて」
「凄すぎって?」
「ミヒア様も一緒にご覧頂けばよかったですね。とにかく速さも動きの正確さも、ダリアなど足元にも及ばないといいましょうか」
「そんなに?」
「はい、時間をかけてほんの少し作れたダリアを見て、副業でやっていた農婦たちでもできると思うなんて烏滸がましかったです。でもっ」
口を開こうとしたミヒアに、ナミリアが被せた。
「でも、レレランに他の技術者も紹介してもらって、教える体制を整え、当初より時間をかけて育てれば必ず出来るようになります!余分にかかる経費は私が負担しますので、どうかこのまま続けさせてください、お願いします!」
一気に話しきったナミリアを迎えたのは、母のようなミヒアの笑みだった。
「新規事業が計画どおりにいくことなんて稀なこと。私もこれは絶対にやり遂げたいの。同じ材料と道具なのに同じ物が作れないなんて悔しいじゃない?教えてもらってできるようになれば、それは私たちだけじゃない、国の宝になるわ!だからやってみせる、絶対にね」
東国の一つチューラルンゲから、織物工房と製糸工房に勤めていたという女性レレランを連れて戻った者がおり、東国での機織りや糸撚りを教える者が確保できた。
ナミリアが集めた糸撚り機や機織り機をレレランに使わせてみると、使い慣れた物ではないというのに、ダリアのそれが拙く見えるほど速さも精度も雲泥の差があった。
「ダリアには悪いけど・・・これほど違うとは思わなかったわ。ねえレレラン、どうしてこんな遠い国に来ようと思ったの?向こうでも技術を持つ貴女なら大切にされたでしょう?ご家族もいるだろうし。確かに報酬は弾んだと思うけど」
「アタシタチハタイセツナンカジャナイ。カワリ、イクラデモイル」
片言でゆっくり話すレレランのそれは、ナミリアに物悲しく響いて、思わずレレランを抱き締めていた。
「大切じゃない?そんなことないわ。私にとっては、私たちにとっては、貴女はとっても大切な人よ!来てくれてありがとう」
レレランの目が丸く見開かれる。
故郷チューラルンゲも身分制度がある。その差ははっきりと分けられ、貴族が下賤な使用人を抱き締めるなどありえないことなのだ。
しかもこんなに優しい言葉をかけるなど。
レレランは、それだけでも故郷を出て来て良かったと心から思った。
「アタシガンバル」
「ええ、一緒に頑張りましょうね!ここで働く皆がレレランみたいに出来るようになったら、きっと我が国にもこういった産業が定着すると思うの。よろしくお願いしますね」
「ハイ」
とは言ったものの、ナミリアはレレランの腕前が想像以上すぎて、なんならダリアを講師にしてもいいのではと考えていた自分の無知が恥ずかしく、自分はまだまだ甘いと思い知らされていた。
「レレラン、機織りや糸撚りのお仕事を一緒にしていた方でこちらに来てくれそうな方、もし他にもいたら紹介してもらえないかしら」
ひとりで雇おうと思っている皆を教えさせるのは難しいと理解したナミリアは、レレランにアテがあるならと聞いてみる。
暫く考えていたレレランは、ナミリアには読めないチューラルンゲの文字で何かを書き、手渡してくれた。
「チューラルンゲの文字かしら?」
「ソウ」
「ありがとう!これで探してもらってみるわね」
ナミリアはミヒアの元へ行くと、それを差し出した。
「それは何?あらチューラルンゲ語じゃない?」
「よくわかりますね」
「取引があるから、簡単な言葉ならわかるわよ。名前と住所かしら?」
「ええ、さっきレレランに糸撚りと機織りしてもらったのですが、それが凄すぎて」
「凄すぎって?」
「ミヒア様も一緒にご覧頂けばよかったですね。とにかく速さも動きの正確さも、ダリアなど足元にも及ばないといいましょうか」
「そんなに?」
「はい、時間をかけてほんの少し作れたダリアを見て、副業でやっていた農婦たちでもできると思うなんて烏滸がましかったです。でもっ」
口を開こうとしたミヒアに、ナミリアが被せた。
「でも、レレランに他の技術者も紹介してもらって、教える体制を整え、当初より時間をかけて育てれば必ず出来るようになります!余分にかかる経費は私が負担しますので、どうかこのまま続けさせてください、お願いします!」
一気に話しきったナミリアを迎えたのは、母のようなミヒアの笑みだった。
「新規事業が計画どおりにいくことなんて稀なこと。私もこれは絶対にやり遂げたいの。同じ材料と道具なのに同じ物が作れないなんて悔しいじゃない?教えてもらってできるようになれば、それは私たちだけじゃない、国の宝になるわ!だからやってみせる、絶対にね」
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