【完結】婚約者は偽者でした!傷物令嬢は自分で商売始めます

やまぐちこはる

文字の大きさ
70 / 149
夢は交錯する

第13話

しおりを挟む
 気持ち良すぎて睡魔に吸い込まれそうになる。
 
─だめだめ、頑張って目を開けているのよカーラ!どんなことをされるのか体験に来たのだから!─

 ガッ!と無理矢理目を開ける。
と言ってもハンカチの下だから、目が血走っていても誰にもわからない。



「ではオイルマッサージに入らせていただきます」

 仰向けのカーラの額辺りに、ぽとぽとと途切れなくオイルが落とされ始めた。人肌ほどに温められたそれは、何をするわけでもなく頭皮を伝い流れていくのだが、それが実に気持ちよくて、吸い込まれそうになった。

 ─ハッ!また眠りそうになってしまったわ─

 しばらくオイルを流されたあと、指の腹で揉み込まれるようにマッサージが始まる。
リズムよく強弱をつけながら、揉まれていたかと思うとやさしく擦られ、また順序よく揉まれる。
 カーラは眠気に抗ったが、仰向けの首筋に指を差し込まれて解され、熱めのホットタオルの上に頭を乗せられた時には眠りに落ちていた。
 暫く頭をタオルに包まれて蒸されたあと、余分なオイルを流していく。

 熱いお湯の刺激で目が覚めたカーラは、何かを体験し損ねたことに愕然としたが、湯でオイルを流され、もう一度熱いタオルで頭を包まれるとまたウトウトしてしまう。
 タオルの熱が冷めた頃、乾いたタオルで水分を丁寧に拭き取って、体を起こされた。

「では髪を乾かします」

 何度もタオルを取り替えながら水分を拭っては、そばで扇で仰ぐのだ。
 部屋の中は髪を濡らしても体が冷えないように温められている、濡れ髪を仰がれたところで寒くもなく、むしろ温まり過ぎた体には扇の風が心地よいほどであった。

「乾きましたので、梳かして参りますね」

 大きな不思議な毛の生えたブラシを手に、まずは頭皮全体を。次に髪を根元から毛先に向けて順に梳かしていくのだが、普段トイルにやってもらうより格段に滑りがよく、まったく絡んだりしないのだ。

「終わりました」

 そう言って鏡を見せてくれたのだが、カーラの金髪はさらにツヤツヤと輝いていた。

「さあでは、髪を結いましょう」
「結ってくれるの?」
「もちろんこのまま下ろしてお帰りになる方も多いですが、シルベス風に纏められる方も沢山おられます」
「では私もシルベス風にして!」

 トイルに先輩と呼ばれた女は、細長い目の細かな櫛を手に、顔の輪郭に沿った編み込みを始めた。
 その編み込みは繊細で複雑、美しく櫛目の通ったもので、結い上げられていく。編んでは小さなピンで崩れないようにそっと留め、また編んではピンで留めをくり返し、今までに見たことがないアップスタイルが現れた。

「すごい!すごいわ、どうやったらこんな風にできるの?」

 自分の髪を自分で梳かすほど髪を触るのが好きなカーラである。目を輝かせ、女の手を握りしめた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

私は愛する人と結婚できなくなったのに、あなたが結婚できると思うの?

あんど もあ
ファンタジー
妹の画策で、第一王子との婚約を解消することになったレイア。 理由は姉への嫌がらせだとしても、妹は王子の結婚を妨害したのだ。 レイアは妹への処罰を伝える。 「あなたも婚約解消しなさい」

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

悪役令嬢は調理場に左遷されましたが、激ウマご飯で氷の魔公爵様を餌付けしてしまったようです~「もう離さない」って、胃袋の話ですか?~

咲月ねむと
恋愛
「君のような地味な女は、王太子妃にふさわしくない。辺境の『魔公爵』のもとへ嫁げ!」 卒業パーティーで婚約破棄を突きつけられた悪役令嬢レティシア。 しかし、前世で日本人調理師だった彼女にとって、堅苦しい王妃教育から解放されることはご褒美でしかなかった。 ​「これで好きな料理が作れる!」 ウキウキで辺境へ向かった彼女を待っていたのは、荒れ果てた別邸と「氷の魔公爵」と恐れられるジルベール公爵。 冷酷無慈悲と噂される彼だったが――その正体は、ただの「極度の偏食家で、常に空腹で不機嫌なだけ」だった!? ​レティシアが作る『肉汁溢れるハンバーグ』『とろとろオムライス』『伝説のプリン』に公爵の胃袋は即陥落。 「君の料理なしでは生きられない」 「一生そばにいてくれ」 と求愛されるが、色気より食い気のレティシアは「最高の就職先ゲット!」と勘違いして……? ​一方、レティシアを追放した王太子たちは、王宮の食事が不味くなりすぎて絶望の淵に。今さら「戻ってきてくれ」と言われても、もう遅いです! ​美味しいご飯で幸せを掴む、空腹厳禁の異世界クッキング・ファンタジー!

婚約破棄、承りました!悪役令嬢は面倒なので認めます。

パリパリかぷちーの
恋愛
「ミイーシヤ! 貴様との婚約を破棄する!」 王城の夜会で、バカ王子アレクセイから婚約破棄を突きつけられた公爵令嬢ミイーシヤ。 周囲は彼女が泣き崩れると思ったが――彼女は「承知いたしました(ガッツポーズ)」と即答!

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

謹んで、婚約破棄をお受けいたします。

パリパリかぷちーの
恋愛
きつい目つきと素直でない性格から『悪役令嬢』と噂される公爵令嬢マーブル。彼女は、王太子ジュリアンの婚約者であったが、王子の新たな恋人である男爵令嬢クララの策略により、夜会の場で大勢の貴族たちの前で婚約を破棄されてしまう。

婚約破棄された悪役令嬢、手切れ金でもらった不毛の領地を【神の恵み(現代農業知識)】で満たしたら、塩対応だった氷の騎士様が離してくれません

夏見ナイ
恋愛
公爵令嬢アリシアは、王太子から婚約破棄された瞬間、歓喜に打ち震えた。これで退屈な悪役令嬢の役目から解放される! 前世が日本の農学徒だった彼女は、慰謝料として誰もが嫌がる不毛の辺境領地を要求し、念願の農業スローライフをスタートさせる。 土壌改良、品種改良、魔法と知識を融合させた革新的な農法で、荒れ地は次々と黄金の穀倉地帯へ。 当初アリシアを厄介者扱いしていた「氷の騎士」カイ辺境伯も、彼女の作る絶品料理に胃袋を掴まれ、不器用ながらも彼女に惹かれていく。 一方、彼女を追放した王都は深刻な食糧危機に陥り……。 これは、捨てられた令嬢が農業チートで幸せを掴む、甘くて美味しい逆転ざまぁ&領地経営ラブストーリー!

〘完結〛ずっと引きこもってた悪役令嬢が出てきた

桜井ことり
恋愛
そもそものはじまりは、 婚約破棄から逃げてきた悪役令嬢が 部屋に閉じこもってしまう話からです。 自分と向き合った悪役令嬢は聖女(優しさの理想)として生まれ変わります。 ※爽快恋愛コメディで、本来ならそうはならない描写もあります。

処理中です...