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八話 喪失 前編
しおりを挟む“人間らしい感覚で生活を送る最後の機会”
その言葉の意味を、少年は程無く知った。
「────っ! はぁっ……はぁっ……!」
朝の日差しが差し込む、使用人部屋の一室。そのベッドの上でふと意識が戻る。
これまた久しぶりの、人間らしい寝床の感覚。
しかし、決して心地良くは無かった。安物の様で少し硬くて身体が痛む。
おまけにシーツや掛け布団、着せられている寝巻きらしきフワフワした服も汗でびっしょりと濡れており、熱い肌が微かにひんやりとして震える。
「あっ、起きたっ⁉︎」
ベールに包まれたツインテ少女の顔が飛び込み、俄かに少年は驚く。が、その拍子で全身に壮絶な電流が駆け抜け「あ゛ぐぅっ……⁉︎」と苦悶の声を上げた。
「うわっ、大丈夫⁉︎」
「こらっ、カゾノちゃん」
「だって……わたしのせいかもだし……」
「違うと思うし、管轄外でしょ。心配なのは分かるけど、私に任せて」
「ぅ……わかりました」
カゾノがしょげ気味に引き下がり、今度は明るいクリーム色の短髪、シスイが前に出る。
彼女は嫋やかな仕草で少年の側にそっと手を置いた。
「お身体の具合はどうですか?」
「っ、みれば、わかる、だろっ……っ」
「そこまでお辛そうですと、見ただけでは測りかねます」
此方もベールに包まれていて表情は伺えない。艶のある声のトーンもいつも通り悪戯っぽい様でいて淡々としていた。
さらと少年の髪を撫で、彼女は尋ねる。
「最後に覚えているのはいつでしょうか?」
「ぇ……?」
少年は記憶を辿った。最後に覚えているのは、食堂でのキクチの話と、その後の感動的なスープの味。
「スープ、すごくおいしくて、ぜんぶのんで……ぇっ、あれっ……?」
どう足掻いてもそこから説明が出来ない。何があって、どうなったのか。
大きな瞳を揺らし錯乱する彼に「なるほど、やっぱり」とシスイは頷く。
「その後昏倒しちゃいましたからね。今日が何日か、は……聞いても仕方ないか」
彼女はその口から簡潔に説明した。以来三日間、意識が戻らなかったと。
「三日、もっ……はぁっ……っ……⁉︎」
「感覚過敏に超多感症状、それによる極度の疲労、でしょうか……ああ落ち着いて、深呼吸を────」
何で気を失った? 食物に毒が? いや、入れる意味が無いのはわかって、わかってぅっ……。
俄かに動転し過呼吸気味になった少年の首筋に、何やらプスリと注射が打たれた。
急速に沈静して、呼吸が落ち着いていく。
代わりに瞳から一つ、二つ、ほろり、ほろりと涙が溢れて枕を濡らす。
「っーー……くそっ……っ」
「今後は鎮静剤が必須になりそうですね。普通の食事もまだ大丈夫って聞いてたけど、ちょっと厳しそうかな……カゾノちゃん、キクチさんに報告して来て」
「っ、了解!」
部屋を元気に飛び出していくカゾノの声を最後に、少年はまた微睡む。
「あぁ、薬の量、ちょっと多かったかも……まあいいか。もう暫くしたらドクターがいらっしゃいますから、それまでゆっくりお休み下さい」
意思に反し、自分の身体が他者の好き勝手に変えられていく。
受け入れ難い事実だった。しかし、容赦無く突きつけられる。
「────っんお゛ぁっ!」
突然、股間と肛門から生じた身を裂く様な鮮烈な刺激によって叩き起こされ、少年は素っ頓狂な声を上げた。
白い壁、使用人室より広い部屋。ぬぽんと抜ける尻穴の排泄感と、空気に曝され灼け痺れる各局部。かの館の一室に作られた診療室で今、装具を剥がされたのだと瞬時に理解すると、続いて「はいっ、おはよぉ~!」という、興奮気味の女声が鼓膜を揺らす。
「寝かせたままあちこちいじいじしても良かったんだけど、見て貰いたい物があるからさぁ、ちょっとお姉さんのお話に付き合ってねぇ」
ダボついた白衣にガスマスク。ドクターヘルゼンは、彼の憤りの視線を確認するなり「ってことでこれ見て!」と背中から伸ばした機構腕で枠を作り、少年の目の前に出した。
次の瞬間、枠の内側に薄平たい光の膜が張られ、そこに映像が映し出される。
「じゃ~んどうよこれっ! 今のレイくんちゃんの神秘的体内画像!」
現存する技術では説明の付かない、本当に輪切りにしたかの如く細部まで鮮明な人間の下腹部の断面画像だった。
「男児が女性化する途中の身体なんて滅多に撮れない超レアモノだよぉ? すごくなぁ~い?」
画像と表現したが、動く。輪切りの角度や深さが、ヘルゼンの指先の動きに合わせて変化する。
小腸、大腸、膀胱、陰茎や、それに付随する尿道や血管等。様々な人体構造が画面上に次々曝け出されていく。
男性的器官がある以上、被写体は見るからに男児。だが、各所に異変があった。
「ほらほらここここぉ~! 精巣が身体の奥に入って、上がっていっちゃってるでしょぉ?」
こぉんな感じで! と更に時間経過による変化が再生され、それらが元あった位置からどう動いたかが克明に描写される。
「あと膀胱の出口のとこもほらっ! 前立腺が尿道から剥離して、ひしゃげたハートマークみたいになってるの! ってこれっ……っひゃぁ~! 小室が分離肥大して子宮になってきてるのかなこれぇ⁉︎ あとちょっと待ってここも────」
身体のシルエットを見るに恐らく良い歳をしているであろう女が、余った袖を振り乱し、幼少児の研究発表の如く無邪気に各種異変をピックアップして話す。
その度嫌と言うほど拡大される、男として重要な部位。強調されるその変化。
逸物と、その奥に不意に違和感を覚え、少年は視線を股間へ降ろす。
「っ……!」
先の赤いつくしんぼが目に映り、その変化に愕然とした。
装具が外されていたが故、はっきり分かってしまったのだ。さめざめ泣いているが如く、先端より汁を溢しながら苦しげに震えているそれが、前に見た時より明らかに一回り細く小さく、根本の膨らみが失せている事に。
「ぁ……ぁ……」
その手で股に軽く触れれば、中身を失った皺のある袋の上を指先が滑った。
ぞわり。こそばゆさが背筋を走る中、彼は青い顔をして首を横に振る。
「あややぁ? もしやこういうの苦手ぇ? この興奮を出来れば共有したいんだけどなぁ」
ブロンドの長髪の生えたガスマスクが不思議そうに傾げられた。
グロテスクが苦手という訳では無い。寧ろ勉学上見慣れている為、医学的知見として余す事なく理解出来てしまう。
ただ、それ故に兎に角否定したかった。その画像が、自身の身体のものでは無いと。
「ならこっちは? 胸部写真ならそれ程グロくはないっしょぉ?」
しかし、証明される。寄っていた絵が一度引いて、瞼を閉じた自身の顔が映し出された。
掠れた悲嘆が漏れる。
「いっ、いやだっ……」
「えぇっ、なんでぇ?」
そこからバストアップへと拡大されていく。赤く腫れ、ぷっくりと浮き出た乳輪、その中央で痼り立つ乳頭が悪戯に目に付く絵面になる。
意識させられた途端、ちくちく、ちくちく。胸の先が痛痒くなった。
其方に目を移せば、確認出来てしまう。画面の中と同じ、赤々としていて痛々しくも、何処か甘やかなさくらんぼを。
「っ、やめろっ……」
「なんでさぁ、まだ中身映ってないよほらぁ」
写角が九十度変わり、上半身側面が映し出される。更に胸部、拡大、拡大。
時間経過が前後され、乳房の微かな膨らみ、その微細な変化が強調される。
「はぁっ、やめてくれぇっ……もうっ……!」
「んん~? ちょっと膨らんできてるかなぁ?」
写角が体内に潜り込んだ。
そして映り込む、乳頭部から胸筋膜に向かって伸びる、細胞によって形作られた茎と葉。
時は遡り、今一度進められる。茎だけだったその箇所の先から葉がどんどん生い茂り、先の状態になる。
少年はその名を知っていた。茎は乳管。葉は小葉、線葉。
知識がある。意味を知っている。必然的に、それがどういう事なのかも理解する。
「おほぉ~乳腺の発達がお早」
「や゛っめ゛ろおおおおおおおお゛ぉっ、っ……⁉︎」
恐怖と憤りが限界を超え、枯れた咽頭から哀叫が絞り出されたその刹那。本能的に溢れ出した魔力が、一気に下腹部へと流れた。
体感としては灼熱の奔流。それが臍の下、淫紋の一点に向け集まっていく。
「お゛っ……お゛おぉっ……⁉︎」
「うおっ、ちょっ、まったまったまったっ……!」
集約、圧縮。強烈な圧迫と熱を感じ、横向きに寝ていた少年の身体はぐっと丸くなった。
そして、ぴゅくんっ! 程なく限界を迎え、潰されたバネが解放されるが如く弾ける。「んお゛っっ⁉︎」という濁声と共に、股間から熱い液体が噴き出した。
「お゛っ、んっ、っ゛っ……⁉︎」
一瞬反って直ぐに戻った彼の腹部に熱い液体が当たり、血生臭いニオイが立ち込める。
霞んだ視界の中、彼に見えたのは赤く染まった自身の下腹部だった。
気付いた直後、その辺りに激痛が走り始め、少年は呻き苦しみだす。
「ぅ゛っ、あ゛っあああぁっ……!」
「あーりゃりゃダメだよ無茶はぁ」
機構腕が脱脂綿を手に取り、赤に濡れた腹部に当てがった。
ふわりとした感触に撫でられると、ズンッ、ズクンッ! 灼け痺れた神経が衝撃を発し、幼気な肢体は強張り悶絶する。
腹筋は痙縮して、その度逸物から血の混じった汁が噴き出す。拭いてもキリがない。
「う゛っ、っ……っ゛っ……!」
「やばばぁー……! ちょっとシスイ君! シスイ君いるぅ⁉︎」
シスイが呼び出され、彼女の協力を以て事態は何とか収拾がついた。
事後の少年の見開かれた瞳から静かに一筋の涙が伝う最中、彼女とドクターは話し合う。
「だから言ったじゃないですか、近頃は手心を加えないと危険ですって」
「いやぁ分かってたけど、流石にここまで魔力リソースが膨大とはねぇ……」
「何とかならないんですか?」
「過剰な多感症状とか諸々は淫も……刻印に何かリソースを食う追加要素を加えて細かく調整していけばまあ、何とかなるとは思うけど」
「出血症状は、厳しいと?」
「そだねぇー、主目的の実行で起こる致し方無い副作用だから、排尿器の置換が済むまでは気を付けないと────」
少年には確かに力があった。膨大な魔力、明晰な頭脳、問題は有れど、由緒正しき家柄の長男という立場。
恵まれていた故に忘れていた。否、強くある為に否定しようとしていた。
そのどれか一つが欠けてしまえば、自身足り得なかったという事を。
己が言う。“それでもボクは、我こそが絶対だ”
病床の役員も言った。
「そうだ、貴方が絶対だ」
個の力の追求と誇示に執心していたのには理由がある。
積み重ねた物が脆くも崩れ去った時、向き合う事になる。状況が彼を逃さない。
甘やかな感覚と共に薄らと意識が舞い戻る。
夢を見ていた気がした。ぼーっとした少年の頭は、願わくば今の現実こそが夢である様に願ったが、生々しい感覚の数々がそれを許さない。
「んっ……ああっ、目、醒めちゃいましたか……二度目ですね、失敗は……っ」
甘ったるい声、女ったらしい淫雛な香り。重なる熱い肌と肌。官能に蕩ける局部。仰向けの身体にのし掛かる体重と、軋む硬いベッド。
彼は首をもたげたが、すぐさまぶら下がった二つのたわわな果実が視界に迫り、間も無く顔を塞がれた。
「んぶっ……⁉︎」
「小さ過ぎて、あまり上手く出来なくて……待ってて下さいね、今、んっ……終わります、からっ……っっ!」
股間がぎゅうっ、ぎゅうっと肉の筒に締め付けられた。突然快感がなだれ込み、彼の瞳は上擦って、背筋はびくんっと大きく跳ねる。
「っ゛ん……ん゛んんっ……⁉︎」
連続する痙縮と共に、とろとろ、とろとろ。出る物が出ている。
それだけの筈なのに、逸物自体が溶け出していってしまっている様な、そんな錯覚に陥った。
蕩けた赤の瞳が不安げに揺れ、涙で滲む。身を強張らせ震える中、更に搾らんと抱き締められる。
「っ゛~~~~……!」
「んっ……熱いっ……!」
熱に浮かされた身体の節々が痛み、末端が痺れた。が、同時にそれも徐々に溶け出していく。
次第に力も抜けてだらんと脱力すると、漸く抱擁から解放された。
顔を埋めていた乳房が離れ、「っはぁっ……! はぁっ……っ」と肩で息をし相手を睨むと、ぬっぷと肉膣に包まれていた逸物も離され自由になる。
空気に触れ、灼け痺れる感触。良かった、まだ有ると一瞬ホッとしたのも束の間、被さっていた女体は下がったかと思えば、その艶めくクリーム色の頭髪を股倉に割り込ませ、逸物を咥え込んだ。
「ふぅっ⁉︎ ぅっ……っっ……!」
じゅぽじゅぽくちゅくちゅ、舐められ、吸い尽くされ、その度熱や痛みが快感に変換される。
されればされる程どんどん小さくなっていく気がして、少年は必死に「やめろ」と声を荒げようとした。
しかし腹に力が入らず、腑抜けた嘆きが出るばかり。
「やえ゛っ……ぉわるっ、おわるっ、てぇ゛っ……!」
「っ、ん、クールダウン、ですよ……はむっ」
「や゛っ……またでっ……! っっ゛!」
再び腰を仰け反らせ、逸物はぎゅんっ、ぎゅんっと射精運動をする。
その都度噴き出す薄い精。直様舐め取られ、残さず吸い取られた。
「っぷぁっ……ふぅ。どうですか? 幾分、マシになりましたか?」
「っ……っっ……」
羞恥に震え、口を結んだ少年は答えない。が、彼女はその顔色で熱と痛みが幾分マシになった事を察すると、少年の傍らに添い寝して、吐息の掛かる距離でぽつりぽつりと話した。
ここ数日が山場である事。長引かせない為、暫くは尻穴以外の装具を着けない事。自分とカゾノが、ほぼ付きっきりで看病する事。
「お陰で房中術による処置、思った以上に、沢山しなきゃいけなくなっちゃいました……はんっ」
「んっ……んんんっ……⁉︎」
今度は唇が重ねられる。くちゅ、れろ。舌を入れられ、艶かしく絡められ。少年の記憶上初めての経験が、またしても突然奪われた。
先程まで逸物を加えていた舌なのに生臭さは無く、ただ感じた事のない淫靡な風味が少年の脳髄を侵す。
抵抗はままならず。淫蕩の底に沈められていく。
「っんはぁっ、ちゅっ……れろっ……ふっ、んちゅっ────」
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