18 / 230
第一章・始動編
三角関係と女の闘い
しおりを挟む「この男はアイザック・メンフィス、火の国の騎士団長だ。まあ……父さんの悪友とでも言うべきか」
「騎士団長……どうりで強いはずだよ」
「ははは、今のワシにはもう全盛期の頃の力は出せんよ。今は若いモンを鍛えるのがワシの役目だ」
「そうだろうよ、そのうちぎっくり腰にでもなって若い騎士連中に介護されるのがオチだ」
マナとルルーナを宥めてから居間に身を落ち着けた面々は、遅めの昼食をとることにした。その最中にグラムからメンフィスについての紹介があったのだが、騎士団長と聞けばメンフィスの強さにも納得がいく。
メンフィスはグラムと向かい合う形で座り、グラスに注がれた酒を一気に喉に通した。唸るように満足そうな声を洩らしてから、逆手の甲で口元を拭う。
――かと思いきや、テーブルを挟んで酒を呷るグラムを恨めしそうに睨み「へっ」と小さく笑ってみせる。そして、わざとらしくジュードを横目に見遣りながら改めて口を開いた。
「騎士になりたかったらいつでも言いなさい、ジュード。ワシがいくらでも剣を教えてやるからな」
「ジュードはワシの跡継ぎだぞ、変な誘いを向けるな」
「何を言うか、バカモンが。このくらいの年頃の男はな、裏方で地道にやるより剣を使って暴れ回る方がのびのび育つモンだ」
「心配せんでもウチの子らはのびのび育っておるわ」
グラムとメンフィスは、互いに酒を飲み交わしながら軽口を叩き合う。言葉こそ文句に近いが、どちらも表情には笑みが浮かんでいて、嬉しそうだ。
マナは暫しそんな二人を見守っていたが、端的に聞いた今後の予定を頭の中で簡単に纏めながら控えめに言葉を向けた。
「あの……じゃあ、あたしたちガルディオンにお引っ越しするんですか?」
「ああ、そうだよ。女王陛下の頼みでな、ガルディオンに住んで武器を造ってくれとのことだ」
メンフィスはマナに目を合わせると、何度か頷いてみせながら返答を向ける。
口調こそしっかりしているが、浅黒い顔には多少なりとも赤みが差していた。どうやら既に酔い始めているようだ。ウィルは考えるように顎の辺りに片手を添え、納得を示して頷く。
「確かに、ここで造って運ぶよりはガルディオンで造る方が遥かに効率がいいからな」
ガルディオンで造れば、完成と共に前線基地へ届けることが可能なのだ。運ぶ時間が短くなることで、何人の兵の命が救われることか。マナも納得するように頷くと、早々に玄関先へと足を向けたが――メンフィスの赤い顔を見ると思わず苦笑いが滲む。
「じゃあ、早速用意しなきゃ。……って言っても、出発は明日になりそうね」
「まあ……結構飛ばしてきたから馬も疲れてるだろうし、ちょうどいいさ」
「そっか。なら、明日すぐ出れるように仕事道具を纏めちゃいましょ。……なんか、邪魔したら悪そうだしね。おじさまもメンフィスさんも嬉しそう」
マナの言葉にジュードやウィルも、グラムとメンフィスを見遣る。確かに口を開けば悪態や軽口ばかりではあるが、マナが言うように互いに嬉しそうなのだ。また何かしら言い合いを始めるグラムとメンフィスを後目に、ジュードたちは静かに自宅を後にした。
家の隣にある作業場へと向かいながらマナとウィルはジュードを振り返り、その隣を歩くカミラに目を向けた。
「あ、カミラさんっていうんだ。目的地が同じだったから一緒に行動してて……ちょっと用があるから一緒に戻ってきたんだよ」
「へー、……あ、俺はウィル。こっちがマナで、そっちはルルーナ。よろしくな」
ジュードに紹介されて、カミラは慌てて頭を下げた。マナとルルーナはジッと彼女を見つめる。その一方で、当たり障りない返答を向けたウィルの内心は穏やかではなかった。
ジュード、ウィル、マナ。
三人は所謂「幼馴染み」というもので、十歳になる前からこの家で共に暮らしてきた。幼馴染み兼兄妹のようなもので、誰一人血の繋がりはないが家族なのだ。けれど、その関係はなんとも複雑なもの。
ジュードはまったく気づいていないが、マナはそのジュードに小さい頃から淡い恋心を抱いているし、ウィルはそのことを知っている。
しかし、ウィルはそんなマナに対して同じような想いを抱いているし、男同士の内緒話として随分前にジュードにだけは話したこともある。つまり、この幼馴染み三人で三角関係が出来上がっているのだ。
その上、更に厄介なのが――ルルーナという予想外の存在。
彼女はジュードに助けられたことで、本気なのか、それともマナを煽るためなのかは不明だが、ジュードに対して随分と興味と好意を持ってしまったようなのである。
当然、自宅を離れていたジュードがそれに気づいているはずもないのだが、ウィルは今日までマナとルルーナの言い合いを一番近くで見てきた身だ。ほんの数日のことだというのに、彼の神経はこれでもかというほどに摩耗していた。
そして、今度はそこにカミラという争いの種がぶち込まれてしまったものだから、ウィルは胃がキリキリと痛むのを感じる。
「……よろしくお願いします」
「はじめまして、カミラさん。遠いところをよく来てくれたわね、歓迎するわ」
「ここまでついてこなきゃいけない用事って、どんな用事なのかしら」
今度は女性陣三人の間にバチバチと火花が散っているようにウィルには見えた。色恋に関してはいっそ罪なほどに鈍いジュードは頻りに疑問符を浮かべていたが。
「あのさ、ルルーナ。地の国に入国する方法って、何かないかな?」
「あら、どうして?」
「ええっと……ちょっと、行かなきゃならない事情があってさ」
「ふぅん……」
カミラの素性や事情を正直に話せばいいのだろうが、ルルーナがいつ国に帰ってしまうかもわからない。彼女が帰国した際に、魔族が現れたことを話されてしまったら――きっと地の国グランヴェル全土に瞬く間に広まり、いずれは国を飛び出して世界中にその噂が広がってしまう。ただでさえ、地の国はこの世界で一番人口が多い国なのだから。
すると、ルルーナはジュードの頭から足の先までを視線で辿る。
そうして何事か企むように口角を引き上げるのと、ジュードと彼女との間にカミラが割って入るのはほぼ同時。
視界に突然カミラが入り込んできたことに対しルルーナは不愉快そうに目を細め、対するカミラは真正面から彼女を見返す。
「……やっぱりいいわ、ジュード。わたし、他の方法を探すから。この人にお願いしなくてもきっと違う方法があるはずだもの」
「あら、アンタのためなの? それならゴメンだわ、どうぞ頑張って別の方法を探してちょうだい」
一人の男のことで睨み合う女の、なんと恐ろしいことか。
先ほどまでその中に加わっていたマナも両者の不穏な空気に数歩後退する。
「……ねえ、あたしもルルーナと言い合ってる時ってあんな感じ?」
「……まあね」
傍らにいるウィルにそう一声かけると、彼は苦笑い混じりに肯定を返す。
そうして、カミラとルルーナ――両者が互いに「ふん」と顔を背けて明後日の方に歩いていくのを、ジュードたちは困ったように見つめていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる