蒼竜世界の勇者 -魔物と心を通わす青年の世界救済の旅-(リメイク版)

mao

文字の大きさ
22 / 230
第二章・水の国の吸血鬼騒動

魔法鉱石の別の使い方

しおりを挟む

 風の国ミストラルを出て、火の国の王都ガルディオンで新生活を始めたジュードたちは、早速問題にぶち当たっていた。


「では、水の国への通行を許可せよと言うのだな?」


 現在ジュードとウィルは、女王アメリアに謁見している。
 彼らが直面した問題は、この火の国では決して解決しそうにない重大且つ決して避けられないものだった。


「はい、陛下。ある程度は想定していたのですが、水や氷の魔力を秘めた鉱石が足りません。武器はいくらあっても困ることはないとのことですので、目的の鉱石が多く採掘されている場所で調達してこようと思います」


 それは、この火の国では手に入らない鉱石の在庫問題だった。
 火の国エンプレスはその名の通り、火の力を強く秘めた鉱石が数多く採掘されており、市場にもよく出回っている。

 しかし、この火の国に生息する魔物はそのほとんどが火属性を有しているため、火の魔法武器を造ったところで効果は望めないのが現実である。この国の魔物に効果的な打撃を与えるのであれば、やはり水か氷属性が必要になってくる。

 だが、それらの魔力を強く秘めたアクアマリンやサファイアなどはエンプレスでは採掘されず、この世界の北側に位置する水の国に多く存在しているのだ。


「他のもので代用はできぬのか?」
「水晶はまっさらな石で、どの属性に対しても拒否反応を示すことはありませんが、やはり個々の属性を有している鉱石に比べて効果は格段に下がります」
「ふむ……」


 その返答に女王は暫し黙り込んではいたが、やがて傍らに控えるメンフィスに一瞥を向けた。


「……ならば、やむを得んか。メンフィス、そなたはジュードたちに同行せよ、彼らを守ってやれ」
「御意」


 多くの者の命に関わるとなれば、渋ってもいられない。女王は了承の意味合いを込めて小さく頷き、メンフィスへと指示を出した。圧倒的な強さを誇る彼が同行するのなら心配はないだろう。


「それと、武器以外に防具も用意させて頂きました。後ほど、城の保管庫に届けさせていただければと思います」
「防具?」


 そこへ、ジュードの斜め後ろ辺りに控えるウィルが告げると、アメリアとメンフィスは互いに不思議そうに顔を見合わせた。
 彼らに依頼したのは魔法武器だ、防具の話まではしていない。アメリアは余計な横槍を入れることなく、その先の言葉を待った。


「はい、武器に装着するのであれば水や氷の鉱石がこの国では効果的ですが、防具に使うのなら逆に火の鉱石が最適かと。火属性を持つ魔物からの打撃を大きく緩和してくれるはずです」
「そんなことまでできるのか……! そなたたちには本当になんと礼を言えばいいのか……満足に言葉にもならぬ。我が国のために尽力してくれて、感謝しているぞ」


 ウィルのその説明に、アメリアは言葉を失ったように暫し唖然とした。そうして表情を和らげると、安堵したように片手でそっと己の胸を撫でる。メンフィスはそんな彼女の傍らで、これまた嬉しそうに厳つい顔に笑みを浮かべた。

 ジュードとウィルは、その様子を目の当たりにして深く頭を下げた。


 * * *


「よかったなぁ、水の国行きの許可が出てさ」


 アメリアとの謁見を終え、王城を後にしたジュードとウィルはひとまずの緊張感から解放されたことで軽く身を伸ばす。ウィルはともかく、ジュードは堅苦しい雰囲気はどうにも苦手だ。

 火の王都ガルディオンに引っ越して、既に二週間。
 現在、ジュードたちは王都ガルディオンにあるメンフィス邸の隣の屋敷に住まわせてもらっている。これまで生活していたミストラルの自宅の何倍もあるその屋敷に、最近になってようやく慣れてきた頃だ。


「それにしても、ウィルって本当にすごいよな」
「なんだよ、急に。褒めても何も出ないぞ」
「いや、さっきの防具の話って例のあの本で覚えたやつだろ? それをすぐ形にできるなんてさ、やっぱすごいよ」


 鉱石を防具に使ってみようかと言い出したのは、ジュードではなくこのウィルの方だった。武器に使うことで無詠唱による魔法武器を造り出すことができるのなら、防具に応用したら耐性をつけることができるのでは、と考えたのだ。

 この二週間、持ってきた防具で試行錯誤を繰り返し、完全にとはいかなくとも火の魔力を半減させる効果を持たせることに成功した。急ごしらえだが、何もないよりはマシだろう。


「魔法を跳ね返す補助魔法を使える人がいれば嬉しいんだけどな、あれは高度な魔法だからそうそういないと思うけど……」
「魔法を跳ね返す?」
「その魔法を込めた鉱石をお前の防具にでもつければ、魔法喰らって熱出すこともなくなるだろ、多分」


 普段よりも幾分かぶっきらぼうに返される言葉に、ジュードは一度口を半開きにして傍らの兄貴分を見遣る。

 ――ウィルが防具に関することまで考えたのは、このためだ。全ては、原因さえわからないジュードの特異体質のため。もし魔法武器を造るのと同じ要領で防具にも使えるのだとしたら、ジュードも魔法を警戒することなく暮らしていけるのではないかと、そう思ってのこと。

 普段より多少ぶっきらぼうに聞こえる返答は、ただの照れ隠しだ。


「とにかく、早いとこ屋敷に戻ってマナたちに報告しようぜ。それからは荷物整理だ。主にどういう鉱石を手に入れるかも考えなきゃならないしな」
「……ああ」


 ジュードはその気遣いに礼を向けようとしたのだが、それよりも先にウィルがやや声量大きめにそう言ってしまえば頷く以外にない。
 触れるな、何も言うな。これはその合図だと、長い付き合い故にわかっている。


「なあ、ウィル。あとでオレにもあの本見せてくれよ、他にも使い方が載ってるかもしれないし」
「お前なら一分ももたずに頭痛くなって終わりだよ」


 無詠唱での魔法発動、属性耐性付与。
 もしかしたら、この他にも古代文字と鉱石を用いた使い方があるかもしれない。今はまだ、それが見つかっていないだけで。それに、ジュードには嬉しいことがもうひとつ。


「(水の国に行くってことは、カミラさんを水の神殿に連れて行ける。エンプレスの魔物騒動が落ち着けば、きっと女王さまが地の国に入国できるように協力してくれるはずだ。そうすれば……)」


 カミラは、ヴェリア大陸には結界が張られていると言っていたが、魔族がこの世界に現れて既に十年。恐ろしい生き物とされる魔族が、十年の間に何もしていないとは思えなかった。きっと外に出るために行動を起こしていることだろう、大陸に張られた結界は果たしていつまでもつか。

 ヴェリアの民は魔族に対抗し得る光の力を持っている。彼らの誤解さえ解ければ、きっと何とかなるはずだ。

 払拭しきれない不安を胸の内に抱えながら、ジュードは無理矢理に自分にそう言い聞かせるとウィルと共に屋敷までの道を急いだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

処理中です...