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第二章・水の国の吸血鬼騒動
タラサの街のお祭り
しおりを挟む「どうせなら、ガルディオンで見てきた方がよかったかもしれませんね」
結局断ることもできず、ショートソードとダガーを購入して店を後にしたジュードは、自分の腰にある真新しい剣に慣れない想いを抱きながら隣を歩くメンフィスに声をかけた。
魔物の狂暴化が特に激しい火の国、それも王都であるガルディオンには腕のいい鍛冶屋が数多くそろっている。そんな彼らが手掛けた武器に比べれば、風の国の品はやや劣るのだ。しかし、メンフィスはそんなジュードに頭を横に振ってみせた。
「いいや、最初は初歩的な武器の方がいいんだよ。変に気負わずに済むからな」
「そういうものですか?」
「ふふ、そういうものさ。慣れてきたら、ワシがお前さんに合う最適なものでも見繕ってやろう」
などと、そう語るメンフィスは妙に嬉しそうだ。まるで、息子や孫と買い物をしているかのように。何にしても、騎士団長たるメンフィスが指導してくれるのなら、今よりは確実に強くなれるだろう。
待ち合わせに指定した噴水広場に行き着くと、ジュードとメンフィスは花々に囲まれた噴水の方に足先を向ける。
そこには、休憩していたルルーナと食材を調達してきただろうマナたちの姿――
「……あれ?」
そこで、ジュードは思わず声を洩らした。仲間の姿は確かにそこにある。だが、先ほど分かれた時とは明らかにマナとカミラの装いが異なっていた。
普段、マナはショートパンツにチューブトップ、その上に赤いポンチョを羽織っているし、カミラは裾広がりのワンピース姿だ。それなのに、今はどちらも民族衣装のような独特な模様のワンピースを身に纏っていた。
ジュードとメンフィスは急いでそちらに歩み寄ると、思ったままの疑問をぶつける。
「マナ、カミラさんも。そのカッコ、どうしたの?」
「……それがさ、お祭りに参加していかないかって強引に着替えさせられちゃって」
「ルルーナの体調のこともあるだろ? だから、どうするかなと思って話してたとこだよ」
マナとウィルから返る言葉にジュードは苦笑いを浮かべ、メンフィスはため息を洩らして軽く頭を垂れる。時間短縮のために船旅を選んだのだ、お祭りに参加して遊びまわっている時間などジュードたちにはない。
だが、メンフィスは何事か考え込むような面持ちで黙り込むと、垂れた頭を上げて咳払いをひとつ。
「……まあ、ウィルの言うようにルルーナの体調のこともある。一日くらいならゆっくりしても構わんだろう」
「えっ、い、いいんですか!?」
「うむ、この街から関所までは目と鼻の先だ、構わんよ」
メンフィスの思わぬ言葉に真っ先に声を上げたのは、傍らにいたジュードだ。彼は国のためにこうして旅に同行している。本音を言えば、すぐにでも発ちたいはずだ。そんな彼から許可が出たのはあまりにも意外なことだった。
「……それなら、お言葉に甘えて私はゆっくりさせてもらうけど、お祭りなんて馬鹿馬鹿しいものに付き合う気はないわ、騒ぐならよそでやってよね」
「んなっ……!」
それまで噴水の縁に腰かけて黙り込んでいたルルーナは、吐き捨てるようにそう呟くと早々に立ち上がって、宿がある方へと歩いて行ってしまった。マナは彼女のそのあんまりな言葉に文句を言ってやろうかと思ったが、それは隣にいたウィルに止められる。
「まあまあ、俺が行ってくるからマナはジュードたちと一緒に露店でも見てこいよ。宿の部屋も取らなきゃならないしな、買った荷物もついでに置いてくるよ」
「……うん」
それでもマナは幾分か不服そうにはしていたが、それ以上は特に何も言わなかった。一方で、カミラは先に去っていったルルーナの背中をやや心配そうに見つめる。
彼女には、ルルーナがなんとなく寂しそうな顔をしているように見えたのだ。それがどうにも気にかかった。それを口に出すことはできなかったが。
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