141 / 230
第六章・風の神器ゲイボルグ
地の男再び
しおりを挟む地のアグレアス――その強さは、実際に刃を交えたウィルだからこそ痛いほどに理解していた。
そして、恐らく勝てない相手だろうということも。
「フン、まだまだ俺の相手ができるとは言えんなぁ!」
「――くッ!」
アグレアスは己と真正面から対峙するウィルに狙いを定めると、両刃の大剣を軽々と片手で振り上げながら猛然と突撃してくる。両手で扱わねば狙いさえ定まりそうにないほどの大剣を、至極当然のように片手で振り回しながら矢継ぎ早に攻撃を叩き込んでくる様は、まるで猛獣だ。本来攻撃後の隙が多いはずの大剣を自由自在に振り回して攻撃を繰り出してくる、反撃の隙さえ見えない。
一撃でも深く入れば、命を落とす可能性さえある。不気味に黒光りする刃は、命を刈り取る死神の鎌のようだった。力にものを言わせて無遠慮に振り下ろされる刃を、ウィルは全神経を集中させてなんとか寸前でいなし続ける。
アグレアスは前回刃を交えたウィルに攻撃を集めているため、両脇からはリンファとマナがそれぞれ打撃と魔法による攻撃を向けてはいるのだが、それはアグレアスの注意を惹く要因にさえならないようだ。彼の標的は、ただただウィルのみに絞られていた。
アグレアスの表情や言葉からは、余裕さえ感じられる。恐らくこれは彼の本気ではない、あくまでも様子見程度のものだろう。
「(なんて馬鹿力だよ……ッ! こんなモン何回も受けてたら、腕がおかしくなっちまう!)」
交信状態を除けば、ウィルはジュードよりも力は上なのだ。その彼であっても、アグレアスの重過ぎる一撃には腕が――否、身体が悲鳴を上げていた。槍の柄を両手でしっかりと握り締めて攻撃を受けるたびに、両手から肩に雷でも走ったかのような痛みと痺れが伝わる。
ウィルはジュードやリンファと異なり、どちらかと言えばパワーファイターだ。しかし、同じタイプだろうアグレアスとの差はこうも大きい。それを痛感してウィルは憎々しげに舌打ちを洩らす。
「(相手が魔族だってのはわかってるが、それでもこんなに……こんなに違うものなのかよ!!)」
普段、常に一歩退いた位置で仲間を見守ることの多い立場とは言え、ウィルも男だ。こうも力量に差があるのだと思えばプライドを刺激される。それが例え自分とは異なる『魔族』という存在であっても、だ。
「まったく堪えてない……嘘でしょ……!?」
「いえ、私たちの攻撃はほとんど……効いているように見えません……!」
一方で、リンファとマナは自分たちの方には見向きもしないアグレアスの背中を悔しそうに見つめていた。どれだけ攻撃や魔法を叩き込んでも、アグレアスはこちらを振り返ることさえしないのだ。
新しいオモチャでも見つけた子供のようにウィルに興味を抱き、ただただ攻撃を繰り出している。アグレアスが振り下ろした剣は、以前同様に大地に衝突するなり爆発するように地面が爆ぜる。その際に飛び散る大小様々な破片によりウィルはもちろんのこと、アグレアス自身もある程度のダメージは受けているはずなのだ。それに加えて、マナとリンファの攻撃も受けている。
それなのに、当のアグレアス本人には苦痛の色さえ滲んでいない。怪物だ――口には出さないが、リンファは純粋にそう思った。
「こんな男を、あの時ジュード様は……」
リンファが小さく洩らした呟きに、マナは神器の先端に意識を集中させていきながらしっかりと一度だけ頷く。だが、そこで――ふと彼女の頭にはひとつの疑問が湧いた。
「(……でも、ジュードが交信したのって……いつが最初なの? あの時は精霊なんて……)」
ジュードが異常な力を発揮したのは、吸血鬼アロガンの館に乗り込んだ時が最初だ。幼い頃から彼を知っているマナであっても、それ以前にあのような異変を来したことはないと記憶している。
だが、精霊とのコンタクトは吸血鬼騒動の前には一度たりともなかったはずだ。それなら――
「(なら、あの時ジュードは……いったい何と、誰と交信してたの……!? あの館の中には精霊なんて誰もいなかったはずなのに……)」
精霊や魔族のことなど、様々な出来事があって失念していた。あの時は、まだ精霊と遭遇したことさえなかったはず。
しかし、あの吸血鬼との戦いに於いても、その後のアグレアスとヴィネアとの戦いでもジュードは圧倒的な強さを誇り、絶望的な状況を打破してみせたのである。当時は仲間の無事に安堵し、喜ぶだけしかできなかったが、よくよく考えてみればおかしな話だ。
だが、忘れてはいけない。今は、決して油断のできない戦いの真っ最中なのだということを。
「マナ様! 何かきます、気を付けて!」
「……え?」
間近から聞こえたリンファの声にマナは慌てて意識を引き戻し、その視線を改めてアグレアスへと投じた。すると彼は黒光りする大剣を両手で持ち、高く掲げている。
何をしようというのか――そう思いはしたものの、それはすぐに知れる。
「これに耐えられるかな? 喰らえ、グランドバースト!」
アグレアスは高く掲げた剣を、勢いよく足元の大地へ突き刺したのだ。
それと共に、アグレアスのいた場所を中心に大爆発が起きた。大地が大きく爆ぜたのである。その爆発と衝撃は空間全てに広がり、間近で交戦していたウィルは無論のこと、リンファやマナ――到底戦える状態ではないジュードさえも、ちびや精霊二人と共に巻き込んだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる