162 / 230
第七章・地の神器ガンバンテイン
水の国の異常気象
しおりを挟む色々と気になることは多いし、整理したい情報もたくさんあるのだが、あまりのんびりしていて王都グルゼフからの追手が来るとマズいことになる。そう判断した一行は、話もそこそこに水の国に向かうために関所に足を向かわせた。
前回、水の国のもう一方の関所から入国する際にも大変な想いをしたのだ。今回もあれと同等、もしくはそれ以上の苦労が待っているかもしれない。そう思っていた面々を待ち受けていたのは、予想と寸分違わぬ――がっちりと武装した水の国の兵士たちだった。
「帰れ帰れ! 火の国の人間の入国など認めるものか!」
「そうだ、帰れ!」
こちらの馬車を見つけるなりその手に武器を取り、関所の出入り口を自分たちの身を壁にすることで封鎖してしまった。力業で強引に通ることはできるが、そのようなことをしてしまえば上手くいくかもしれない話も駄目になってしまう可能性が高い。自国の民を傷つけられて喜ぶ王などそうそういないだろう。
どうしたものか――シルヴァは困り果てて馬車を止め、兵士たちの様子を窺った。
「……シルヴァさん」
「困ったものだな、少しでも先を急ぎたいというのに……」
ジュードとウィルは馬車の窓から顔を出すと、心配そうに外の様子を窺う。
初めて水の国を訪れた時と変わらず、この国は相変わらず火の国の人間に対して憎悪を抱いているようだ。
しかし、そんな彼らの元にひとつ聞き覚えのある声が届いた。
「……あれ、ジュード?」
「え?」
その声に思わず反応したのは、当然ながら窓から顔を出していたジュードとウィルだ。不思議そうに目を丸くさせながら視線を投げ掛けた先、そこには群がる兵士たちを軽く押し退けて前へ出てきたエイルが立っていた。
ジュードの姿を確認するとエイルは訝っていた顔を途端に嬉々に染め上げ、先までの警戒はどこへやら――武器を下ろして馬車へと駆け寄ってくる。シルヴァはそんな彼の様子に数度瞬きを打った後、御者台の上からジュードとウィルを振り返った。
「ジュード、久しぶり! 本当に遊びに来てくれたんだ!」
「あ、いや……はは、別に遊びに来たわけじゃないんだけど……」
「わかってるよ、……そんな馬車に乗ってるんだしさ」
エイルはジュードの言葉に小さく頷いてみせると、一度だけ複雑な面持ちで馬車を見遣りつつ――しかしとやかく言うことはせずに兵士たちに向き直った。
「……この人たちは僕の知人だ、彼らのことは僕が責任を持つ。だから通してやってくれ」
「しかし、エイル……」
「以前この国に現れた魔族を退治してくれたのはこの人たちなんだぞ、陛下にとっても客人のようなものなんだ。……だから、頼む」
エイルのその言葉にウィルやマナは互いに顔を見合わせ、ジュードは瞬きながら彼を眺める。前回この国を訪れた際と今とでは、エイルの様子が百八十度変わっていたからだ。水の国の兵士は未だ火の国の人間に対し強い嫌悪や敵対心を持っているようだが、エイルは多少でもその葛藤を乗り越えつつあるのだろう。
「……エイル」
「ジュードは友達だもんね。それに……遊びに来たわけじゃないなら、何か大事な用があるんでしょ?」
「ああ、オレたちはどうしても王さまに会わなきゃいけないんだ」
「なら、ちょうどよかった。きっと陛下もジュードに会いたがってると思うよ」
そこでジュードはエイルの言葉に疑問符を浮かべた。
確かに水の国の王リーブルとは面識がある。多少なりとも彼の記憶に残っているだろうとは思うが、リーブルは一国の王。他国の人間一人に会いたがるなど、そうそうあるものではない。
ジュードが不思議そうに首を捻ると、エイルは視線を横に逃がして神妙な面持ちで呟いた。
「……この関所を出れば、すぐに理由がわかると思うよ」
* * *
国王がジュードに会いたがっている理由。それは、この関所を出ればすぐにわかる。
エイルのその言葉の意味は、確かに関所を出てすぐに判明した。ジュードたちは目の前に広がる光景に瞬きさえ忘れたように呆然と佇み、そして息を呑む。
「エイル、これは……?」
「見ての通り、大雪原さ。前にジュードたちが来た時も季節外れの雪なんか降ってたけど……あれからずっと毎日雪、雪、雪で積もりっぱなし。この関所から王都まで通常なら一日で着くはずなのに、今は雪で足止めされて三日、ひどい時は五日もかかるんだ」
ジュードたちの目の前には果てなどないのではないかと思うほどの、どこまでも続く大雪原が広がっていたのである。人の背丈より高く積もった場所も数多く存在し、埋もれれば自力で出てくるのは困難を極めるだろう。
エイルは脇に下ろした拳を固く握り締めて静かに視線を下げると、吐き出すように呟いた。
「こんなことは初めてなんだ、今まで雪の量が多いことは何度もあったけど国が埋まってしまうくらいの雪は降ったことがない」
「この原因をオレたちに調べてほしくて王さまが会いたがってる、ってことか?」
「さすがだねジュード、察しがいいや」
「そ、そんなこと言われてもな……」
確かに目の前に広がる光景は異常だ。
このまま延々と降り続けば、やがては王都シトゥルスさえ埋もれてしまうだろう。そうなってしまえば文字通り水の国は終わりだ。
とは言え、この異常な状況の原因を解明するなどそう簡単にできることではない。どうしたものかとジュードは静かに唸った。
今は取り敢えず、エイルに事情を聞きながら水の王都シトゥルスを目指すのが先だ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる