蒼竜世界の勇者 -魔物と心を通わす青年の世界救済の旅-(リメイク版)

mao

文字の大きさ
163 / 230
第七章・地の神器ガンバンテイン

王都はまだ遠く

しおりを挟む

 結局、王都シトゥルスまでの道のりは遠く、その日は満足に進むことさえままならなかった。
 関所を出て約三時間ほど歩いたところに、急遽設置されたという簡素な休憩小屋がある。今夜はそこで一晩を過ごすことになった。

 休憩小屋と言ってもこの大雪だ、満足な仕事もできなかったのだろう。造りは粗雑なもので、隙間風など当然のように吹き込んでくる。立て付けも悪く、やや勢いをつけて扉を閉めなくては完全に閉まらない。

 しかし、延々と雪が降り積もる中で野宿をすればほぼ間違いなく凍死してしまう。粗末な造りの休憩小屋であっても、非常に有り難いものなのだ。造りこそ雑だが広さはなかなかのもので、馬車を引く馬二頭を中に入れることもできた。


「えぇッ!? じゃ、じゃあ、ジュードって王子様だったの!? その剣が聖剣で、伝説の勇者様の魂が宿ってて……すごいじゃないか! ジュードが遺志を継いで、新しく勇者様になるんだね!?」
「そ、そんなわけないだろ、この聖剣はヘルメス王子が使うんだから」


 簡単に夕食も済ませてあとは寝るだけという状態になってから、エイルにこれまでの事情やこうして再び火の国を訪れた理由を彼に話すことにした。何があったのかはわからないが、今のエイルはかつてのような駄々っ子とは違い、ひと回りもふた回りも成長したようだ。ここまでの経緯を話しても、難しい顔をするどころか目と表情を輝かせてジュードを見つめた。

 エイルの言葉に、ジュードは腰に提げていた聖剣を外すとどうしたものかと首を捻る。これは元々、カミラの中にあったものだ。しかし、封印が解けてしまった今、再び彼女の元に戻ろうとする気配さえ見せない。すると、イスキアが困ったように苦笑いを滲ませた。


「あらら、それは困ったわね。聖剣はもうジュードちゃんを所有者として認めちゃってるわよ。だから、それを扱えるのは今はもうあなただけなの」
「えっ……!? な、なんで……!?」
「マスター、自分の言ったこと覚えてないに? 自分の大事な人たちを守りたいだけ、って聖剣を取り返した時に言ってたに。あれで聖剣に願いを懸けたことになっちゃったんだによ」
「うそ……」


 あの時はとにかくムシャクシャしたし、頭の中だってゴチャゴチャだった。ジュードとしては、あれは単純にファイゲやネレイナに向けて返した言葉だったのだが、聖剣はそれを願いとして受け取ってしまったのだろう。ジュードが愕然とした様子で聖剣を見つめていると、横からウィルとマナの二人がそれぞれバシバシとその背中を叩いた。


「別にいいじゃない、あたしたちだって神器なんて大変なもの持っちゃったのよ。こうなったらさ、もう難しいこと考えないであたしたちで魔族をぶっ飛ばしてやりましょ」
「そうだよ、お前ってバカのくせにほんとこういう時だけはあれこれ考えるよな」
「……そうだけど、本来使う人がいるのにさ。カミラさん、本当にいいの?」


 ジュードがヴェリアの王子だろうと何だろうと、この昔馴染み二人はこれまで通りまったく変わらない。それがジュードにとっては有難かったし、気が楽になるものでもある。ちびも胡坐をかいた相棒の片膝に顎を乗せて「わうっ」とひとつ吠える。
 すると、カミラは穏やかに微笑んで何度も頷いた。ルルーナは面倒くさそうにしていたが。


「うん、いいと思う。ヘルメス様だって、使い手がジュードなら認めてくださるわ」
「まあ、選ばれちゃった以上は仕方ないわね。私も国には戻れそうにないし……やれるだけのことはやるわよ」


 火の神杖レーヴァテイン、風の神槍ゲイボルグ、地の神杖ガンバンテイン――これで三つの神器が揃い、その全てが顕現したことになる。ようやく半分と捉えるべきか、それとももう半分と解釈すべきか。
 シヴァは壁に寄りかかったまま、ジュードの手にある聖剣を見遣る。


「だが、聖剣はまだ本来の力に目覚めてはいない。聖剣に頼りきりになり、過信しないようにな」
「本来の力?」
「聖剣が持つ力はあまりにも強大過ぎるため、普段は六つの神器でその力を抑え込んでいるのだ。神器が全て顕現して初めて、聖剣は本来の真価を発揮できる」


 シヴァのその説明を聞いて、仲間たちの視線は一斉にジュードの手元にある聖剣に向けられた。こうして見ている限りは、ただの美しい剣だ。現在は光を纏っておらず、本当にただただ一振りの剣でしかない。真価と言われても、やはり想像できるレベルをとうに超えていた。

 しかし、そんなに強大な力がこちら側にあるというのは非常に心強い。誰も口にすることはなかったが、思うことは同じだ。

 リンファはいつものように黙ったまま、ちらと視線のみでウィルやマナ、それにルルーナを見遣る。彼女のその胸中は複雑なものだった。


「(私もみなさまのように神器を持てたら、もっとお役に立てるんでしょうか。……いいえ、羨んではいけない。こうして共に戦わせて頂けるだけで満足しなくては……)」


 メンフィス邸でも、先日のトレゾール鉱山でも。魔族を前に何もできなかったことを思い返すと、彼女の胸には悔しさばかりが募る。役に立ちたいという気持ちだけが空回りして、実力が追いついていないことが言葉にならないくらいもどかしかった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

処理中です...