「日本で伴侶を見つけるまで帰ってくるな」と言われた魔王子

いくつになっても中二病

文字の大きさ
13 / 16

第13話 魔力の支配

しおりを挟む
「はぁぁぁ!!」

 よっ。いい剣筋だな。

「せぁぁ!!」

 うむ。これも悪く無い。
 だがその程度では当たらないぞ。

「身のこなしだけは一人前のようですね」

「カエデも悪く無い剣筋じゃないか」

「……あなたに呼び捨てにされる筋合いはありません!!」

 おっと、今のは気迫が乗りすぎだ。そんなにまずいことを言ったか?
 だがこの程度で動揺が剣筋に現れてしまうのはまだまだ甘い証拠だな。

 だが俺も避けているだけではカエデの隙を生み出せない。

 剣術か。武器に頼るのはあまり好きでは無いのだがな。

 武器は脆い。俺の攻撃の威力に耐えられないからだ。それこそ魔神級の魔具でもない限りは使う意味がない。

 逆にいえば相手の武器も俺の肉体の前にはほとんど意味をなさない。

 だが今回に関しては剣をこの身で受けることは出来ないから仕方あるまい。俺自身が痛くなくてもHPとやらが減ってしまえば負けのようだし。

 であれば……これでいいか。

「何のつもりですか?」

「ん? いや、俺も剣術で対抗しようと思ってな」

「そんな道端の棒切れで……ですか?」

 俺はたまたま近くに落ちていた木の棒を拾い、構える。
 ここは廃墟が立ち並んだ場所だから武器として代用できる物には事欠かない。

「悪いか?」

「舐められたものですね……切り落として差し上げましょう」

 そう言った途端、眼前まで迫り横薙ぎを繰り出すカエデ。
 俺は木の棒で受ける。

「なっ!? 何故!?」

「切れないことに驚いてるか? 技量の差があれば難しくないぞ?」

「あなたの剣技が私より優れていると?」

「圧倒的にな。それよりもいいのか?」

「??」

 剣と木の棒を重ね合わせている間に、こちらの準備も整ったぞ?

「サクちゃん! 今だ!」

「だからサクちゃんじゃなぁぁぁい!! 風昇!!」

 サクが発動した魔法により、俺とカエデは上空に打ち上げられる。

 本来は俺に接近するタイミングでこれを使えればベストだが、カエデはそんな罠に引っかかる相手では無い。

 二人には俺の元に接近させた場合は俺ごと吹き飛ばすように言っていたが、うまく判断してくれたようだ。

「そのまま落ちて!! 風降!!」

「俺もいくぜ! 岩球!!」



「甘く見られたものです。天翔」


 そのまま俺とカエデは上から吹く風の勢いで落下し、打ち上げられてくる岩魔法に激突する予定だったが、カエデは上空で魔法を発動し魔法の効果範囲から脱した。

 俺はもちろんそのまま落ちているが、木の棒で岩の魔法を打ち砕いて着地する。

「な、空中で移動したぞ!」

「まさか楓さんが天翔を使えるなんて……あれは空中に足場を生み出して移動する上位の風魔法だったはずです!」

「狙いは悪くありませんが、二度は受けません。あなた方の秘策としている奇妙な魔法も接近してこそ発揮できる物。であれば、近づかなければいいだけのことです!!」

「ちっ!! やっぱり魔弾も見られていたか……どうするリエン!!」

「魔法が来ます!!」

 一度剣を腰の鞘に収めて構えるカエデ。

「翔燕斬——」

 魔法名を口にし、剣を高速で抜きながら横薙ぎを繰り出すカエデ。
 その動作から風の斬撃がいくつも飛来する。

 俺は一瞬でソウタロウとサクの前に移動し、迫り来る斬撃を木の棒で切り落とす。

「リエン!!」

「次の魔法が!!」

 そうしているうちにカエデは新たな魔法の準備をしていた。
 全ての斬撃を切り落としたところでその魔法も発動される。

「十刀舞斬——」

 カエデが魔法を発動すると、俺達を囲むようにして上空に十本の魔法剣が現れる。

 そしてそれらが魂を持ったように襲いかかって来た。

 狙いは防ぐ術のないソウタロウとサクだ。10人の剣士と同時に対峙している感覚だが、それぞれが別の意思で動いているわけではないので連携が取れている。

 なるほど面白い技を使うな。

「これで終わりです。絶翔斬、極——」

 10本の剣を俺が捌いている時に、カエデは決め手である魔法を繰り出して来た。
 先程の飛来する数々の斬撃とは違い、一つの巨大で高威力な斬撃だ。

 なるほど。一番強いというのも頷ける。

 相手の弱点を見極めてそこを突き、有無を言わせない攻撃を畳み掛ける。
 力も申し分無いし、勝ちまでの道筋も完璧だ。

 だがカエデ。お前にはまだ足りて無いものがある。

「リエン!! すまねぇ!!」

「僕たちが足手まといに!!」

 二人にも見せてやるか。本当の戦いとは——


 空間を支配することが勝敗を分けるということを。


「なっ!?」

「あ、あれ?」

「ん? 魔法が……消えた?」


 何が起きているか理解出来ないか。
 俺は今、空間を支配した。正確には、ここ一帯の魔力を支配した。
 それにより、カエデの10本の剣の魔法も巨大な斬撃も消え去った。

「何をしたのですか……」

「正直甘く見ていた。ここまでする必要は無いと思っていたがな」

 本来はソウタロウとサクとの連携で勝利を掴みたかったがな。そこはカエデが上手だったと思うことにしよう。

「まだ終わりでは! ——?」

「気付いたか? 魔法を発動できないことに」

「え? あれ、僕もだ!」

「俺もだ!! 一体何したんだリエン?」

「なに、ここ一体の魔力を支配しただけだ」

「魔力を……支配?」

 やはり知らないか。ソウタロウとサクが魔力で索敵出来ることを知らなかった時点で薄々気付いてはいた。

 本来の魔法戦は、空間の魔力をどれだけ支配出来るかが鍵になる。

 自分が支配した分相手は魔力が使えなくなるからだ。魔力操作とは本来自身の内に取り込んだ魔力ではなく、自分の外側の魔力を操ることを指す。

 魔力を辿って相手の位置を把握するなどは初歩だ。一帯の魔力を掌握していれば自分の位置を魔力を介して探られるなんてことにはならない。

 ちなみに星術の考え方はこの魔力の支配と似ている。

「そんなことが……可能なのですか?」

「俺も聞いたことはないぞ?」

「僕もです」

「さて、魔力を支配されれば勝負の行く末は決まったようなものなのだが、あいにく俺は魔法を使えない理由がある。まだ続けてもいいがどうする?」

 俺はカエデに問う。正直これで勝っても嬉しくはないが、魔法を奪ってしまってはもう戦いにすらならないだろう。

「……私もまだまだ知らないことが多いということでしょうか。いいでしょう。この戦いは私の負けでいいです。ですが——あなたとはいずれ決着をつけさせて頂きます」

「もちろんだ。俺もこれで勝ったとは思っていない」

「では……私はお先に失礼します」

「あぁ」

 そう言って振り返り歩き出すカエデ。右の拳は強く握りすぎて血が滴っていた。

 相当悔しいのだろうな。悪いことをしたか。

「リ、リエン君!!」

「お、俺達……勝ったのか?」

「ちょっと卑怯な手ではあったがな。だが本来空間の魔力を支配出来なければ戦いにもならないことを考えれば、いい機会になっただろう」

「それだけどよ、本当に何が何だかわかんねぇよ……」

「ひょっとしてリエン君って……とんでもない人?」

 俺はただの魔王子だ。

 それにしても……カエデを見ると母上のことを思い出して切ない気持ちになるな。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

処理中です...