精霊に誘われて異世界で魔女をやってます

美緒

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これより先は立入禁止です

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 豊かな木々が濃い影を作る森の中を二人の人間が奥に向かって歩いていた。
 砂埃で汚れたフードを被っている為顔は分からないが、一人は剣を腰に差し、一人は丈夫そうな杖を手に持っている。
 空中からそれを見止めたマナは、一人は魔法が使えるのかなぁと思いながら、そっと、二人の進行方向にある大きな木の枝に降り立つ。勿論、物音が出ない様、消音と不動の魔法を使うのを忘れない。
 少し二人組に近付いた事からその姿がはっきり見えるが、やはり顔は見えない。それに、羽織っているマントが結構大きい為、体型を隠している。これでは、本当に男二人組なのかも分かりはしない。

 まあいいや、と、マナは深く考える事を止め、奥に進む二人組を指差すと声を発した。

「これより先は立入禁止です」
「っ!!」
「!?」

 二人組が警戒心を露わに立ち止り、一人は剣を抜いて構え、一人は杖を構える。
 そんな様子を見下ろしながら、マナは再び口を開いた。

「ここは精霊の森。この地に存在する物は全て精霊に繋がる。そんな場所で貴方達は剣や杖を振るい、森を傷付けるつもり?」

 マナの言葉に若干躊躇いながらも武器を構え続ける二人組。
 マナは仕方ないなぁと溜め息を零し、枝から離れ、風を操り、地面にゆっくり降り立った。

「「っ!?」」

 マナの突然の出現に驚き固まる二人組。
 それもそうだろう。突然現れたのは全身黒尽くめの少女。そして手には箒。森の中で出会うには可笑しい格好なのだ。驚かない方が変である。

 そんな事はどうでもいいとばかりにマナは箒の柄を二人に突き付け、キッと睨み付けた。

「その物騒な物を片付けて。森を傷付けるのは許さない」

 マナの言葉と同時に、森の闇が深くなる。
 思わず二人組は震え、周囲を見渡すと、困惑した様に剣を鞘に収め、杖を引いた。
 それを見届けたマナは箒を改めて持ち直し、二人組を見据える。

「取り敢えず、さっきも言ったように、これより先は立入禁止です。引き返して」

 マナの言葉を受け、剣を持つ方が何事か考える様に空の仰ぎ、次いで被っていたフードを取るとマナを真っ直ぐに見詰めてきた。
 それは森の闇の中でも輝く明るい金髪と、新緑を思わせる瑞々しい翠の瞳を持つかなり美形な青年だった。
 ――が。マナの好みではなかった為、あっさりスルー。
 男の方は自分の容姿に自信でもあったのか、肩透かしを食らったかの様に若干肩を竦めた後、マナに鋭い視線を投げて寄越す。

「断る」

 まあ、そう言うだろうなとは思っていた。
 なのでマナは慌てる事無く箒を持っていない方の手を軽く上げ、ふうっと息を吐き出す。

「うん。じゃあ、力尽く」

 パチン、と、乾いた音が森に響いたと思った瞬間。

「なっ!?」
「!?」

 二人組とマナの三人は森の外に立っていた。マナの魔法だ。

「この瞬間をもって、害意のある・なしに関わらず、精霊の森には私の許可が無い者は立入る事が出来なくなる」

 再びパチンと音が響く。同時に、不可視の結界が精霊の森を包み込み、精霊とマナ以外通り抜ける事が不可能な状態となった。
 そんな事になったとは全く分かっていない金髪青年。剣の柄に手を添え、訝しげにマナを睨み付けてくる。
 警戒心バリバリな態度すらもスルーし、マナはいまだにフードを被ったままの人物に目を向け首を傾げた。金髪青年とは違い、こちらは随分と穏やかだ。これなら、話し合いになるかもしれない。

 マナはフードの人物に向かいデコピンするかのように指を弾く。
 すると、微かな風が起こり、すっぽりと被っていたフードがふわりと浮き上がる。露わになったのは、木の幹を思わせる深いこげ茶の髪に、落ち着きを宿した濃い緑の瞳を持つ、金髪青年とはタイプが違うがこれまた美形な青年。最も、瞳は驚きにより大きく見開かれている。
 マナとしては、こちらの青年の方が好みかもしれない。

 さて。
 警戒して毛を逆立てている様な金髪青年と、驚いてはいるが落ち着いている茶髪青年。まともに話せるとしたら後者だろう。
 マナは躊躇いなく茶髪青年の目を見据え問い掛けた。

「この森に、何の用事で来たの?」
「「……」」

 マナの問い掛けに、二人の青年は無言で応える。
 鋭く睨み付けてくる翠の瞳と窺う様な緑の瞳。どちらもマナの疑問には見向きもしない。

 うん。相手にするだけ時間の無駄だね!

 マナはあっさりとそう判断すると、箒に跨り宙に浮かぶ。
 ギョッとする二人にはお構いなしに、右手の人差し指をビシッと突き付けた。

「私は、精霊の森で精霊と共に生きている。大事な家族を傷付けるのは許さない」

 そう。マナにとって精霊とはこの世界に突然来てしまった時から共に暮らしている家族の様なもの。
 やんちゃだったり、わんぱくだったり、面倒見が良かったり。振り回されたり、振り回したり。お互いを大事にし合い、笑い合い。短いながらも心を通わせた大事な存在。
 それを傷付けるのは許せない。

「貴方達の目的なんてこの際どうでも良い。ただ、覚えておいて。精霊達の害になる者は全力を持って排除する」

 過激な言い方だなぁとは思うが、このくらい言っても罰は当たらないだろう。……多分。
 マナは言うだけ言うと更に浮上しようと箒を操り。

「ちょっと待て!!」

 金髪青年に箒の柄に飛びつかれ、柄先がガクンと下がる。それに伴いマナは箒の上でバランスを崩し、ちょっと前屈みになってしまった。

「あ、危ないでしょ!」
「お前が言いたい事だけ言って去ろうとするからだろうがっ!」
「こっちの質問に答え様としない人を相手にするほど暇じゃない!」
「答える、答えないは此方の勝手だろう」
「じゃあ、去る、去らないは私の勝手じゃない」
「お前には、会話するという選択肢がないのか!」
「言葉を返さない相手と会話なんて成立する訳ないでしょうが」

 ああ言えばこう言うとは正にこの事か。ポンポンと憎まれ口が飛び交い、成立していなかった筈の会話が続く。
 茶髪青年はマナと金髪青年をポカンと見ているだけでいまだ何も発しない。
 マナは金髪青年に言い返しながら、二人の青年に対し若干イライラし出す。
 人の住処に不法侵入し、精霊を疲れさせ、口を開けば偉そうな言い回し又はいつまで経っても無言。マナ的にはこれだけでイライラしない方が可笑しいと思える。

 いい加減、この不毛な会話に付き合ってられるかと、金髪青年を風で吹き飛ばし、箒の柄を上向け、再度飛び立とうとした途端。

「マナーーーーーー!!!」

 上空から聞き覚えのある叫びが響き渡った。
 空を見上げれば、マナ目掛けて落ちてくる空色の精霊。

「クー!?」
「マナ! 大変だよ!!」
「何? またドリーが倒れた?」
「そんな事じゃないっっ!!」

 ドリーが倒れるのは『そんな事』なのだろうか。
 マナの頭に一瞬ツッコミが浮かぶが、真剣な顔のクーにその言葉を飲み込む。
 クーはマナの考えなど気付かず、空の一点をビシッと指差しながら叫んだ。

「人間の街で発生した毒気が、何故か森に向かってるっ! このまま森に来ちゃうと、森が穢れ、精霊が消えちゃうぅぅっ!!」
「えっ!!?」

 慌ててクーの指差している方向を振り返ると、そこには、普段の空にはない異様な黒い靄の様なものが。それは少しずつ量と濃さを増し、こちらへと向かってきているみたいだ。
 マナの顔にサッと緊張が走る。

「もしかして、風に流されてる?」
「うん。空の上の方は風があるよ」
「森に向かって吹いてるの?」
「うん」

 普段のクーとは違い、少しだけ幼く感じる受け答え。
 空からクーへと視線を移すと、不安そうに瞳を揺らしながら空を見ている横顔が映った。その顔色は、今まで見た事ないほど真っ青だ。それだけで、あの靄が相当に良くないものだと解る。
 マナは空へと視線を戻し、黒い靄を睨み付けた。

「あれは、消滅させれば良いの? それとも、浄化の方が良いの?」
「マナが出来るなら、浄化の方が良い。毒気は浄化されると『せいき』になり、万物を活性化させるから」
「分かった。やってみるから、クーはここに居て」
「うん。マナ、お願い」

 青い顔ながらも信頼の眼差しで見るクーと箒をその場に残し、マナは身一つで上空にかける。
 バタバタとスカートが風でたなびき足にまとわりついてくるが、そんな事を気にしてなどいられない。空をしっかり踏み締め、こちらへと向かってくる黒い靄を確認してみる。その大きさは視認できる程度。これなら、然程さほど苦労する事なく処理できるだろう。

 マナは両手を靄に向かって突き出すと、靄の周囲の風に干渉してみる。
 すると風はマナの意思に従い、黒い靄を一カ所へと纏め出す。どんどんどんどん風が渦を巻き、いつしか靄はまだ遠い場所ながらも、突き出したマナの両手に収まる程度の大きさに凝縮された。

「浄化、浄化、浄化……浄化したら、全部綺麗になるイメージだから……黒が金色にでもなれば良いかな?」

 魔法のイメージを固め、両掌に集中する。

「迷惑なものは、綺麗になっちゃいなさい!!」

 マナの手から光が迸り、黒い靄へと向かっていく。
 手を降ろし、真っ直ぐに飛んでいく光を見守っていると、靄へと吸い込まれる様に姿を消し――次の瞬間、弾ける様に輝き、靄が一瞬にして金色へと変わった。
 マナはそれを確認すると風への干渉を解除し、さっさと地上へ降りる。

「マナーーーー!!」

 箒の上へスタッと降り立つと、満面の笑みを浮かべたクーがマナに突進してきた。

「クー。あれで大丈夫?」
「うん!!」

 嬉しそうなクーにつられ、マナの顔にも笑みが浮かぶ。
 一頻ひとしきり、そうやってお互い喜んでいたのだが、クーがふと空色の瞳をパチリと瞬かせる。

「そう言えば、マナ~」
「うん?」
「…………あれ」
「え?」

 あれと言ってクーが指差した先には、何故か唖然とした金髪と茶髪の青年二人。
 首を傾げるマナに、クーは苦笑気味に言った。

「あのね、マナ。僕達精霊が見える人間って少ないんだよ?」
「は?」
「それに、人間の毒気が見える人間はいない」
「……私、見えたけど……」
「マナは色んな意味で例外だからねー! だからあの二人にしてみれば、マナってば突然大きな独り言をし出して、空を飛んで魔法を使った不審人物に見える」
「えーーー……」

 チラリと二人を見てみれば、唖然としていながらも、瞳は訝しそうに見える。

「ううう……何か、面倒な事になりそうな予感が……」
「ふぁいとーマナー」

 握り拳を天に突き上げるクーから目を逸らし、マナはがっくりと項垂れた。
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