精霊に誘われて異世界で魔女をやってます

美緒

文字の大きさ
5 / 23

規格外だったようです

しおりを挟む
 面倒だからこの人達放っておいて、このままクーと森に戻ろうかなぁ……。

 そんな事を思いながらマナが箒を拾い上げた途端、それまで呆けていた筈の金髪青年がマナの腕をガシリと掴んできた。
 眉根を寄せマナが青年を睨むが、青年はそれを気にせず、案外真剣な面持ちでマナを見詰めてくる。

「君は……魔法が使えるのか? 精霊が見えるのか?」

 マナが魔法を使い、精霊の事をそして精霊と話しているのを散々見聞きしていた癖に、今更何を言っているのか。
 マナは若干呆れながらも頷くと、掴まれている腕をやんわり外そうとした。――が、しっかり掴まれている為、外れない。
 一体何なんだと不機嫌全開の表情のまま少しだけ目力を込め睨み付けると、青年はハッとした様に腕を掴んでいる力を緩めマナの瞳を真っ直ぐ見据え、息を飲んだ。

「その……」
「何」
「だから……」
「……」
「あの……」
「……」
「えーと……」

「あーもーイラつく! はっきり言えっ!!」
「すまん! その、君は何の精霊魔法を使えるんだっ!?」

 はっきりしない青年に我慢の限界を向かえ怒鳴りつけたら、不思議な事を尋ねられた。
 精霊魔法? 何のって、何?

 意味が解らず首を傾げていると、森から闇色の猫がトコトコと出てきて、箒片手に突っ立っているマナの足に擦り寄る。
 マナは青年の手をいささか乱暴に振り解き、その黒猫を抱き上げ闇色の瞳を覗き込み。

「ねえルルー。この人の言っている意味解る? 解るなら意訳して」
「「マナ……」」

 覗き込まれた黒猫――闇の精霊ルルーとマナの傍に浮かんでいたクーが残念な者を見る様な瞳でマナを眺める。
 その呆れ返ったような瞳と声音にマナは首を傾げ、

「いや、だって……私、この世界の『超』初心者だよ? この世界の常識なんて知る訳ないじゃない」
「うん……そう言えば……」

 何も聞かれなかったから、何も教えてなかったなぁ……と、ルルーとクーは揃って遠くを見遣る。
 魔法関連は色々ぶっ飛んでいたから世界に関しては無知だという事を忘れていた。

「えーと……この世界の魔法には、大きく分けて二種類あるんだ」
「一つが自然魔法。自分の身体に宿る魔力を糧に現象を起こす魔法。マナが普段使っている『いめーじ』に寄る魔法はこれにゃ」
「もう一つが精霊魔法。各種精霊の力を借りて自然界の魔力を糧に現象を起こす魔法。精霊魔法を使うには条件があって、まず、どの属性でもいいから精霊が見える事」
「そして、その『見える精霊の属性』魔法しか使えない事にゃあ」
「自然魔法が自分の魔力を糧にするのに対し、精霊魔法は自然界の魔力を糧にしている。だから、本来なら自然魔法より精霊魔法の方が魔法の威力が上なんだけど……」

 そこまで説明してクーとルルーは深々と溜め息を零す。

「マナの魔力、規格外過ぎ……」
「精霊魔法でも出来ないような事、平気でやっているからにゃあ……」

 森の再生や増殖。空間転移。
 確かに、魔法はイメージ次第。しかし、いまだかつて成功した試しがない魔法がいくつもある。それが普段マナが「やっちゃった」と言って息をするかのように自在に操っている魔法だ。これを規格外と言わずにいられるか。

「うん。私、娯楽に溢れた世界の出身だから仕方ないよ」

 再生だのワープだのは物語の定番と言える。
 そういった娯楽小説、映画、ゲーム等が好きだったマナからすればイメージ出来て当たり前の世界。試してみて何が悪い。イメージ万歳。娯楽最強。

「……おい」

 その時。妙に低い男の声が聞こえ、マナは首を傾げつつ声の方を向く。
 そこには、強引に腕を解かれた金髪青年。マナの態度が気に入らないのか、それとも無視されたのが気に入らないのか、見るからに不機嫌そうだ。

「何」
「……質問、答えてもらっていない」
「そりゃそうだよ。だって、からね」
「はぁ?」

 低い声音を気にもせずマナはさらっと言うと腕に抱いたルルーをひょいっと持ち上げ。

「今、精霊達に色々教えてもらっている最中なの。だから、暫く黙ってて」
「な――!!」

 怒りの為か顔を真っ赤に染め口をパクパクさせる金髪青年を無視し、マナは再びクーとルルーに向き直る。

「魔法については解った。じゃあ、私は自然魔法と精霊魔法、両方使えるって事?」
「そうだよ」

 浮いているのに飽きたのか、クーがマナの右肩にちょこんと座り頷く。

「じゃあ、私が使える精霊魔法って何?」
「それは……」
「……にゃあ……」

 何故か言葉を詰まらせるクーとルルー。

「え? もしかして、精霊でも分からない?」
「いや、そうじゃなくて……」
「じゃあ、どうしたの?」
「マナはにゃあ……規格外なのにゃあぁぁぁぁあ」
「は??」

 本気で何が言いたいのか分からない。
 疑問符を飛ばしまくりながらマナが眉根を寄せると、左肩に軽い衝撃が。

「マナー!」
「!!」

 目の端にチラッと映り込んだ緑の髪と聞き慣れた声。ドリーがマナの左肩に着地したようだ。
 それと同時に、今まで存在感の薄かった茶髪青年が驚いた様に息を飲んだのが分かった。
 マナが茶髪青年に目を向けると、ドリーがカラカラと笑った。

「マナ。その人、樹の精霊が見える精霊術士だよ。確か、この精霊の森の南にある大きな国、えーと……ダジゲートだったかな? の魔術士で、名前はー……あるばるどアルフレッド?」

 疑問符付きまくりな説明にマナは苦笑するが、それを聞いていた茶髪青年は目を伏せ、その場に跪くと頭を下げた。

「……はい。そちらにいらっしゃる樹の精霊様のおっしゃる通り、私はダジゲートの樹の精霊術士でアルフレッドと申します」

 はい、精霊扱いきましたーーーー!!!

 ヒクリと頬を引きつらせるマナを後目に、金髪青年が茶髪青年を見る。

「アル。本当に精霊が居るのか?」
「はい王子。その少女の左肩に樹の精霊様がいらっしゃいます。今までの行動を見るに、反対の右肩と腕の中に、私が見えない精霊様がいらっしゃると思われます」
「虚言ではないのか……」

 王子って、虚言って……。

 突っ込みたいトコロありありな青年二人の会話にマナは天を仰ぐ。

「だから言ったじゃないか。普通の人間には僕達精霊が見えないって」
「精霊が見える人間でも、普通は一属性くらいなんだにゃあ」
「え!?」

 ルルーの言葉に驚いて視線を腕の中に戻すと、ルルーがにゃはあと苦笑し。

が見え、尚且つと挨拶までしちゃった人間はマナが初めてなのにゃあ」
「へ? 精霊王??」
「マナがソラ爺とこの森に初めて来た時、森の最深部にある湖に行ったでしょ?」
「あ、あの、すっごく幻想的な景色が広がってたとこ!!」

 マナが森に着いた時、ソラ爺に「こっちに来るのじゃ」と連れて行かれた所。
 静かに透明な水を湛えた湖には森の木々と空の青が映り込んでいた。そしてその湖の中央には堂々とした巨木がそびえ、周囲を様々な精霊達が飛び交っていた。
 初めて見た時、空気すらキラキラ光っているように見えた。小説を読んで想像するしかなかったような、映画で見るしかなかったような幻想的な風景がそこには広がっていた。
 息を飲んで見惚れるしかなかったマナの目の前で中央の巨木が光り輝き、そこからゆっくりと成人したくらいの大きさの人影が出てきた。男とも女とも判断の付かない、この世の者とは思えないくらい綺麗なその人はマナに微笑み掛け、言った。

『ようこそ精霊の森へ。異世界からの迷い人よ、貴女を歓迎します』
「え? あ、ありがとうございます?」

 にこにこ笑いながら手を差し出してくるものだから、ついその手を握り返してぶんぶん振ると、その人(?)は楽しそうな笑い声を上げた。

『良いですね! 精霊の友は、このくらいでなくては!』
「は、はあ……?」

 何が良いのか分からないがお気に召したようだ。
 マナがどうしようかと困った様に口を開こうとした瞬間、その人は握っていたマナの手を持ち上げ。

「――!!」

 自然な仕草で手の甲に口付け、悪戯っぽい瞳でマナを見た。

『貴女に祝福を。どうかこのを役立てて下さい」
「あ、う、ぅぅぅぅうう」

 言葉ではなく唸り声で返事(?)をするマナにくすりと笑うと、その人は現れたと同じくらい唐突に光り輝き、巨木の中へと帰って(??)いった。

「……あれ?」

 そんな事を思い返していたマナは、先程のルルーの言葉とクーの思考の誘導により、はた、と気付く。

「もしかして……あの時会った綺麗な人が……」
「そう。精霊王様にゃあ」
「うえええええぇぇぇぇぇええ!!?」

 絶叫するマナに、青年二人は目を見開き、精霊達はやれやれといった感じで溜め息一つ。

「マナさぁ。精霊王様に『この力』って言われたでしょ?」
「うえ? あ、うん。そう言えば……」

 クーに尋ねられ、驚きは消えないものの思い返しながら頷く。

「あの言葉の意味は」
「マナってば、精霊魔法だけじゃなくて、王魔法も使えるって意味だよー」
「は?」
「な――っ!?」

 ドリーの言葉にマナは首を傾げ、茶髪青年――アルフレッドが真っ青になり、腰を抜かしたのかその場にへたり込んだ。

「おう、ま、ほう……」
「何っ王魔法だと!?」

 アルフレッドの呟きに金髪青年――王子が過剰に反応する。
 そんな人間二人の態度にマナは益々首を傾げ。

「何、それ」

 精霊達に問い掛ける。

「簡単に言うと、『究極の魔法』という奴だよ!」
「全ての精霊魔法を極めた者のみが使える伝説の魔法の事にゃあ」
「極めてないのに使える。だからマナは『規格外』なんだよ」

 ドリーがトコトン楽しそうに言った事をルルーが捕捉し、クーが呆れた様にまとめると。

「へえ~」

 それ以外にどう答えていいか判らず。
 マナは軽い調子で相槌を打つと、困った様に笑ったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜

あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい! ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット” ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで? 異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。 チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。 「────さてと、今日は何を読もうかな」 これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。 ◆小説家になろう様でも、公開中◆ ◆恋愛要素は、ありません◆

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

蝋梅
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

処理中です...