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5話 君のことばかり
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あれからどれくらい経っただろう。
小説を書き進めながらも思い浮かぶのは彼の儚げな姿ばかり…
あの時は一時的に保護して済んだものの、その後彼はちゃんと生きているのだろうか。
またあの治安の悪い連中に追われたりしていないだろうか。
そんなことばかりグルグル考えてしまい、肝心の仕事が全く手につかなくなってしまった。
「はぁ…」
「先生~またため息かいなぁ…」
「あ?大樹いたの?」
「いたの?じゃないねん…もうそろそろ締切近いんやから気合い入れて書いてくれんと、俺が怒られんねんっ!しっかりしてや?」
「あぁ、そうよねぇ。はぁ…」
締め切りが近いことは重々承知。
だけど、どうしたって彼が頭から離れてはくれない。
あぁ、連絡先くらい交換しておけばよかった。
「全っ然あかんやんっ!…あっ!溜まってんとちゃうか?最近してへんし…抜いたろか?」
「うーん。そーゆー気分じゃねぇ…」
「うわ…こりゃ重症や。ほんならもう別の先生んとこ行かなあかんから、頼むで?紫雨さんっ」
「はーい…」
気のない返事をしたものの、結局大樹が帰った後もボーッとしたまま一行も進まずに手を止めた。
深呼吸がてらタバコに手を伸ばすと、重い腰を上げ久しぶりに庭に出た。
うーんと伸びをしてから縁側に座り、タバコに火をつけぼぉーと外を眺めていると、遠くからバタバタと誰かが走ってくるような音が聞こえる。
何となく立ち上がり、門の外に視線を移した時、目にした光景に思わずタバコを落とし急いで駆け寄った。
「葵くんっ!?どうした!?」
「はぁっ…はぁっ…」
「早く入れっ…大丈夫か…?」
「…っ、うん…」
何があったかなんて聞かなくてもわかる。
とにかく奴らの目に留まる前にと、急いで葵くんを家の中にかくまった。
顔や腕を見る限り新しく出来たような傷はない。
だけど、前よりも脅えていて俺の腕を掴んだまま離さない彼を、俺はもう放っておけなくて後先も考えず強く抱き締めた。
それよりも何もりも、会いたくて会いたくて仕方なかった人が向こうから飛び込んで来たんだ。
俺はこんな状況なのに嬉しくて堪らなかった。
だけど、葵くんに触れて感じる全身の痛みがこの前よりも格段に上がっていて、いよいよ耐えられなくて思わず声が漏れてしまった。
「…っ、うっ…」
「あっ…ごめん」
「や、大丈夫…」
彼は自分が強く握った腕の事だと思ったんだろう。
でもそう思ったならその方が都合がいい。
こんなこと説明したって分かってもらえるはずもないし、寧ろ彼の事が好きだと公言することになってしまう。
そんな事君は知らなくてもいい。
今はただそばに居て欲しいから…
部屋に入りお決まりのようにコーヒーを入れて二人で向き合えば、どこか気まずそうに視線を逸らす彼に俺は思い切ってある提案をした。
「葵くんさ?ここに住まない?」
「えっ…?」
「何があったのかは知らないけどさ、俺君の事めっちゃ心配で…今日まで全然仕事が手につかなかったの。だからここにいてくれない?」
「いや、でも…」
自分でも何を言い出してるのかと思うくらい、自己中心的で意味のわからない提案だ。
捉えようによっちゃ、見ず知らずの男の子を自分の家に住まわせて満足を得ようするなんて、完全にただの変態だろう…
それに、葵くんにだって家はあるだろうし、どういう生活をしてるのかさえ分からないのだから。
「家賃とか飯も気にしなくていいしさ?居てくれるだけでいいから。ダメ…かな?」
「…ダメ、ではないけど…でも、俺が居たらアイツらここにまで来るかも…っ、そうだよ、ここに来るかもしれないっ!だから俺戻らなきゃっ!」
急に青ざめた表情で椅子から立ち上がった葵くんの腕を、俺は思はず掴んで引き止めた。
その瞬間、触れた手の平から腕にかけてビリビリと電気が走ったような痛みを感じた。
だけどこの手は離せない。
痛みに耐えながらも、葵くんの腕を掴んだまま俺は思わず、自分の腕を抑えながらしゃがみこんだ。
「…ってぇ…ちょ、待って…」
「えっ、あ…大丈夫っ!?」
「ん…平気…っ」
「腕…痛いの…?」
「ははっ…ちょっとね…」
痛くても離すことの出来ないその腕を必死に掴んでると、俺の腕に彼の手が優しく触れた。
きっと痛みを抑えようと摩ってくれているんだろうけど、その度にビリビリと訪れる痛みを必死に我慢した。
彼の優しさを受け入れたかったんだ。
「うっ…」
「まだ痛い?」
「ん…っ、たまに痛むんだ。大丈夫だから…ありがとな…」
「うん…」
「葵くんさえ良ければここに居てよ…もしかしたら君の力になれるかもしれないし…」
「じゃあ…ちょっとだけ…ここにいてもいい?」
「あぁ、もちろんっ!」
それからというもの、彼は少しずつ前の家から生活用品だけを持ち込んでこの家で生活するようになった。
どうやら昼間はカフェでバイトをしているらしいが、それ以上詳しいことは分からない。
持ってる服の量や身の回りのものに関しても、今どきの若い子にしたら古びたものや質素なものばかりだ。
それと一緒に生活してみて分かったのは、昼のバイトの時間以外にも夜、度々家を空ける事…
正直何をしているのかも分からないし、あえて俺も聞いたりはしていない。
それは向こうも同じ、そんな約束を取り付けた訳でもないが、彼も俺のプライベートに関することは一切聞いたりしてこない。
きっと今のところ、それが最良だとお互い感じているからだろう。
同じ屋根の下で生活を共にしてる…
ただそれだけ。
でも今はそれでいいんだ。
小説を書き進めながらも思い浮かぶのは彼の儚げな姿ばかり…
あの時は一時的に保護して済んだものの、その後彼はちゃんと生きているのだろうか。
またあの治安の悪い連中に追われたりしていないだろうか。
そんなことばかりグルグル考えてしまい、肝心の仕事が全く手につかなくなってしまった。
「はぁ…」
「先生~またため息かいなぁ…」
「あ?大樹いたの?」
「いたの?じゃないねん…もうそろそろ締切近いんやから気合い入れて書いてくれんと、俺が怒られんねんっ!しっかりしてや?」
「あぁ、そうよねぇ。はぁ…」
締め切りが近いことは重々承知。
だけど、どうしたって彼が頭から離れてはくれない。
あぁ、連絡先くらい交換しておけばよかった。
「全っ然あかんやんっ!…あっ!溜まってんとちゃうか?最近してへんし…抜いたろか?」
「うーん。そーゆー気分じゃねぇ…」
「うわ…こりゃ重症や。ほんならもう別の先生んとこ行かなあかんから、頼むで?紫雨さんっ」
「はーい…」
気のない返事をしたものの、結局大樹が帰った後もボーッとしたまま一行も進まずに手を止めた。
深呼吸がてらタバコに手を伸ばすと、重い腰を上げ久しぶりに庭に出た。
うーんと伸びをしてから縁側に座り、タバコに火をつけぼぉーと外を眺めていると、遠くからバタバタと誰かが走ってくるような音が聞こえる。
何となく立ち上がり、門の外に視線を移した時、目にした光景に思わずタバコを落とし急いで駆け寄った。
「葵くんっ!?どうした!?」
「はぁっ…はぁっ…」
「早く入れっ…大丈夫か…?」
「…っ、うん…」
何があったかなんて聞かなくてもわかる。
とにかく奴らの目に留まる前にと、急いで葵くんを家の中にかくまった。
顔や腕を見る限り新しく出来たような傷はない。
だけど、前よりも脅えていて俺の腕を掴んだまま離さない彼を、俺はもう放っておけなくて後先も考えず強く抱き締めた。
それよりも何もりも、会いたくて会いたくて仕方なかった人が向こうから飛び込んで来たんだ。
俺はこんな状況なのに嬉しくて堪らなかった。
だけど、葵くんに触れて感じる全身の痛みがこの前よりも格段に上がっていて、いよいよ耐えられなくて思わず声が漏れてしまった。
「…っ、うっ…」
「あっ…ごめん」
「や、大丈夫…」
彼は自分が強く握った腕の事だと思ったんだろう。
でもそう思ったならその方が都合がいい。
こんなこと説明したって分かってもらえるはずもないし、寧ろ彼の事が好きだと公言することになってしまう。
そんな事君は知らなくてもいい。
今はただそばに居て欲しいから…
部屋に入りお決まりのようにコーヒーを入れて二人で向き合えば、どこか気まずそうに視線を逸らす彼に俺は思い切ってある提案をした。
「葵くんさ?ここに住まない?」
「えっ…?」
「何があったのかは知らないけどさ、俺君の事めっちゃ心配で…今日まで全然仕事が手につかなかったの。だからここにいてくれない?」
「いや、でも…」
自分でも何を言い出してるのかと思うくらい、自己中心的で意味のわからない提案だ。
捉えようによっちゃ、見ず知らずの男の子を自分の家に住まわせて満足を得ようするなんて、完全にただの変態だろう…
それに、葵くんにだって家はあるだろうし、どういう生活をしてるのかさえ分からないのだから。
「家賃とか飯も気にしなくていいしさ?居てくれるだけでいいから。ダメ…かな?」
「…ダメ、ではないけど…でも、俺が居たらアイツらここにまで来るかも…っ、そうだよ、ここに来るかもしれないっ!だから俺戻らなきゃっ!」
急に青ざめた表情で椅子から立ち上がった葵くんの腕を、俺は思はず掴んで引き止めた。
その瞬間、触れた手の平から腕にかけてビリビリと電気が走ったような痛みを感じた。
だけどこの手は離せない。
痛みに耐えながらも、葵くんの腕を掴んだまま俺は思わず、自分の腕を抑えながらしゃがみこんだ。
「…ってぇ…ちょ、待って…」
「えっ、あ…大丈夫っ!?」
「ん…平気…っ」
「腕…痛いの…?」
「ははっ…ちょっとね…」
痛くても離すことの出来ないその腕を必死に掴んでると、俺の腕に彼の手が優しく触れた。
きっと痛みを抑えようと摩ってくれているんだろうけど、その度にビリビリと訪れる痛みを必死に我慢した。
彼の優しさを受け入れたかったんだ。
「うっ…」
「まだ痛い?」
「ん…っ、たまに痛むんだ。大丈夫だから…ありがとな…」
「うん…」
「葵くんさえ良ければここに居てよ…もしかしたら君の力になれるかもしれないし…」
「じゃあ…ちょっとだけ…ここにいてもいい?」
「あぁ、もちろんっ!」
それからというもの、彼は少しずつ前の家から生活用品だけを持ち込んでこの家で生活するようになった。
どうやら昼間はカフェでバイトをしているらしいが、それ以上詳しいことは分からない。
持ってる服の量や身の回りのものに関しても、今どきの若い子にしたら古びたものや質素なものばかりだ。
それと一緒に生活してみて分かったのは、昼のバイトの時間以外にも夜、度々家を空ける事…
正直何をしているのかも分からないし、あえて俺も聞いたりはしていない。
それは向こうも同じ、そんな約束を取り付けた訳でもないが、彼も俺のプライベートに関することは一切聞いたりしてこない。
きっと今のところ、それが最良だとお互い感じているからだろう。
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ただそれだけ。
でも今はそれでいいんだ。
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