君に触れたい

むらさきおいも

文字の大きさ
14 / 20

14話 葵の決断

しおりを挟む
「し…ぐれ…さん…?ねぇっ、紫雨さんっ!しっかりしてよっ!」


何度も何度も呼びかけるが、紫雨さんは反応してくれない。

今だって触ってるところが痛いのかもしれない…

そんなことを考えればむやみに触る事も出来なくて、でもどうにかしなきゃと後処理を済ませ、素肌が触れないように気をつけながら汗を拭き着物を被せて布団をかける。

辛うじて息はしてるしと思いながらも、紫雨さんがどうにかなってしまったらと思うと怖くて怖くて、紫雨さんの携帯から急いで大樹くんに連絡をした。


「もしもしっ、大樹くんっ…!」

(なんや、葵くんか?どないしたん?)

「紫雨さんがっ…紫雨さんがぁ…グスッ」


大樹くんに事の経緯を説明すると、直ぐに紫雨さんのかかりつけの先生に連絡してくれた。

そして暫くすると大樹くんは先生を連れて駆けつけてきてくれて、先生が紫雨さんを診ている間、大樹くんも先生の補助のために動いていた。

俺は…俺は結局何も出来なくてただ立ち尽くして泣くだけ…

俺じゃ紫雨さんの為に何も出来ない…


「葵くん?大丈夫か…?」

「あっ、うん…」

「紫雨さんは大丈夫や…鎮痛剤打ったゆーてたし薬ももろたから…最近忙しくてサボってたんや病院行くの…せやから気にせんでええ」

「…っ、治る病気なの…?」

「…わからん」


俺が紫雨さんを苦しめてるの?
俺が紫雨さんに触れる事さえしなければ…

ぬるま湯に浸かりすぎて、俺は少し麻痺してたんだ。

暖かい人に暖かい家、ご飯も出てくるし何不自由なく過ごせるこの環境は当たり前なんかじゃない。

そして俺はそれに甘えて、また人を傷つけてしまうのかもしれない…

俺といるとみんな不幸になるんだ。

下唇を噛み締めて流れる涙を拭うと、大樹くんが俺の握りこぶしを包み込むように握りしめた。


「何考えてるん?」

「え…」

「出ていこうなんて考えてへんよな?」

「…っ」

「おったらええやん…紫雨さん悲しむで?」

「っ…でも、俺っ…俺が紫雨さんを苦しめて…それに…」

「わからんかなぁ…?無理してでも葵くんを離したくなかったんやろ…いなくなったらせんせ泣くで?」


薬が効いてるのか、さっきより穏やかに眠る紫雨さん…
けどその寝顔に触れる事も出来ないし抱きしめる事も出来ない…
こんなにそばに居るのに…っ

もしかしたら紫雨さんを苦しめてる事が辛いなんて上っ面の感情で、俺はただ…自分が苦しいだけなのかもしれない。

俺はこれ以上、紫雨さんを受け入れる事が出来ないのかもしれない…

だったら―――


「俺、仕事あるから戻るけど…大丈夫か?」

「うん…ありがとう…」

「目ぇ覚めたら連絡してな?」

「うん…」


大樹くんが帰って静まりかえる部屋の中…
眠っている紫雨さんの頬に恐る恐るそっと触れてみる。

ピクっと反応すると怖くてすぐ離した手をギュッと握ると、また涙がポロリと流れた。


「んぅ…」

「っ…!紫雨さんっ!?」

「あ…あお…い…」

「紫雨さんっ…グスッ、ごめんなさいっ…」

「なんでお前が謝んだよ…ビックリさせたよな…無理やりシて悪かった…」

「ん…っ、いっ…痛くない…?」

「ん…大丈夫…あれ?先生きた?」

「うん…俺、どうしていいかわかんなくて…大樹くんに連絡して、それで…」

「そっか…迷惑かけちゃったな」

「ううん…」


迷惑だなんてそんな事ないっ。
だけど、だけど紫雨さんにとって俺は…っ

少しまだ苦しそうな表情の紫雨さんに、何も出来ない自分の無力さを思い知らされ、涙を拭いながら悔しくて思わず目を逸らした。


「葵…?俺の事…嫌いになった…?」

「なんでっ!?そんなわけっ…」

「じゃあどこにも行くな…」


紫雨さんはそっと体を起こすと、ベットの下にしゃがみこむ俺に覆い被さるように抱きついてきた。


「あっ!だめっ、紫雨さっ…」

「大丈夫…今薬効いてるから平気…」

「ほっ、ほんと?」

「うん…ほんと…」


絶対嘘だ…
確かに先生は薬が効いてるから今は痛みはないと思うって言ってたけど、あれからもう数時間は経っている。

けど、どことなく抱きしめられる腕がいつもよりふんわり柔らかくて安心する…
ありがとう紫雨さん…

でも俺、そろそろ行くね。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結|好きから一番遠いはずだった

七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。 しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。 なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。 …はずだった。

【完結】毎日きみに恋してる

藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました! 応援ありがとうございました! ******************* その日、澤下壱月は王子様に恋をした―― 高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。 見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。 けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。 けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど―― このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

Sランク冒険者クロードは吸血鬼に愛される

あさざきゆずき
BL
ダンジョンで僕は死にかけていた。傷口から大量に出血していて、もう助かりそうにない。そんなとき、人間とは思えないほど美しくて強い男性が現れた。

ずっと好きだった幼馴染の結婚式に出席する話

子犬一 はぁて
BL
幼馴染の君は、7歳のとき 「大人になったら結婚してね」と僕に言って笑った。 そして──今日、君は僕じゃない別の人と結婚する。 背の低い、寝る時は親指しゃぶりが癖だった君は、いつの間にか皆に好かれて、彼女もできた。 結婚式で花束を渡す時に胸が痛いんだ。 「こいつ、幼馴染なんだ。センスいいだろ?」 誇らしげに笑う君と、その隣で微笑む綺麗な奥さん。 叶わない恋だってわかってる。 それでも、氷砂糖みたいに君との甘い思い出を、僕だけの宝箱にしまって生きていく。 君の幸せを願うことだけが、僕にできる最後の恋だから。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

処理中です...