こじらせ男子は一生恋煩い

むらさきおいも

文字の大きさ
7 / 106
第一章 出会いと再会

彼の家

しおりを挟む
「お邪魔します…」

「服持ってくるので、上がって待ってて下さい」

「…うん」


なんか口車に乗せられて連れてこられた感が半端ないし、二人っきりという空間に少し緊張する。

一人暮らしにしては綺麗に片付けられた部屋を眺めれば、本棚にはかなりの量の本が並べられていて本好きな事が伺える。

一つ手に取ってみれば、なんだか難しそうな本で俺にはよく分からないけど、部屋の雰囲気的にはまぁ、好きな感じだ。


「すいません、こんなんでいいですか?」

「あぁ、なんかごめん…」

「いいえ、俺のせいだから。気にしないで下さい」


何だか後輩だからとはいえ、同じ歳くらいのやつにいちいち敬語を使われる事に煩わしさを感じる。

そもそも歳も名前すらまだちゃんと知らないことに気がつけば、さすがに家にまで上がっておいて、名前も知らないって訳にもいかないだろうと、彼に質問を投げかけた。


「あの、さ?」

「はいっ」

「お前、歳いくつなの?」

「あっ、俺は19です。もうすぐ二十歳になります。夏川くんは俺の1個上ですよね?」

「あぁ、うん。その…敬語?いいから、普通に話して?」

「や、でも先輩ですし…っ」


こういうタイプはお願いしたって止めそうもないから…まぁ、慣れるしかないか。


「あと、今更なんだけどさ…」

「はいっ、なんですか?」

「名前…なんて読むの?」

「あれ?名前言ってなかったでしたっけ!?わたのはら、わたのはらしんって言いますっ!」

「あれで、わたのはらって読むんだ…」


嬉しそうに表情を緩ませながら、まだ何か聞いて欲しそうに俺の出方を待っている…

こいつは遊んでもらう前の犬かなんかなのか?


「本…読むの好きなの?」

「はいっ、読んでると落ち着くんですよね。ふふっ…てか、夏川くんから俺に沢山質問してくれるなんてめっちゃ嬉しい!」

「そうかよ…////」


あぁ、これ…この無邪気な笑顔…
こいつ誰にでもこういう顔すんのかな?

無意識でやってるのか、俺の事がそんなに気に入ったのか…
そもそも彼はこっち側の人間なのか…?

色んな疑問が頭をよぎるけど、どっちにしたって俺は受け入れられない。

こういう感情はもう持ちたくないんだ。


「あの…」

「ん?」

「着替えないんですか?」

「あ、うん」


男同志だし特に気にもせず、そのままシャツを脱いで着替えていると、またこいつは意味深な言葉を吐いてくる。


「夏川くんって身体も綺麗なんですね…」

「なっ、なに!?」


思わず自分に伸びてきた手を払い退けて大きな声を出してしまうと、感情が高ぶりそうになり慌てて冷静を装う。 

何かこいつと一緒にいると自分のペースが乱れる…

さっさと着替えてこの部屋を出ようと、そう心に決めた。


「ごめんなさい…」

「あ、いや…こっちこそごめん。あの、これありがとう…そろそろ帰るわ…」

「え?もう…帰るの?」

「あぁ、うん…」

「俺…もうちょっと夏川くんと話したいなぁ…」

「俺は…もう…」

「俺、こんな気持ち初めてで…夏川くんの事もっと知りたくて…」


俺はこいつがさっきから何を言ってるか理解できなくて、いい加減意図が知りたくて思わず問いただしてしまった。


「ねぇ、お前さっきからそれどういう意味?」

「…わかんない」

「わかんないならやたらに言うなよ、勘違いされるぞ?」

「ごめん、でもお願い!もうちょっとだけ…」

「ぅ…わかったよ」


押しに弱い俺に断るすべはなく、今にも泣きそうな顔でお願いされたらてわかったって言うしかなかった。

完全にペースを乱され頭をかきながらソファーに座ると、彼もも隣にちょこんと座り俺の顔をチラチラ見ながら質問をぶつけてくる。


「夏川くんは…なんであのバイトしてるの?」

「だからなんでそんな気になるの?」

「だって…バイトなんか他に沢山あるのになんであえて、そのぉ…そういうのにしたのかなって…」

「金が欲しかったから」

「お金?」

「そっ、手っ取り早く稼ぐにはちょうど良かったってだけ」

「そうなんだ…抵抗ないの?男の人と…その…」

「ないよ、元々シた事あったし、色々シてたし…」

「そう…なんだ…」


自分から聞いといてなんだよその顔…
てか俺も俺で何をベラベラと喋ってんだろ。

これ以上話してたら、知られたくない事とかも色々詮索されそうで怖いわ。

いい加お喋りがすぎたと思い、帰り支度をしようとソファーから立ち上がった。


「もうこの話よくない?いい加減帰るわ…」

「えっ、待って!」


立ち上がった瞬間腕を掴まれしつこいと思い彼の顔を見れば、捨てられた子犬のような表情に呆れて溜息をついた。

この大きな子犬を突き放すにはどうしたらいいか…

そうだ、もう二度と会いたくないと思わせるくらい衝撃的なこと言えば、もう関わってくることもないかも…!?

一か八か、たぶん彼には出来ないあろう提案を押し付けてみることにした。


「なぁ…お前さ、そんなに俺のこと知りたいなら今度店来いよ」

「俺…っ、そういうとこ行ったことないから…」

「だろうな、まぁ来れるもんなら来いよ。俺はそういうやつなの!わかったならもう帰らせて?」


すっかり黙ってしまった大きな子犬に、ニヤリと勝ち誇った態度をとって荷物を持って帰ろうと思ったその時…


「待って!行くよ…行くから…っ」

「お前…自分の言ってる意味わかってる?」 

「うん…たぶん…」


完全に目が泳いでるこいつに店に来る勇気なんかないだろうし、そこまでして俺にこだわる理由もないだろうと、これで終わりという意味を込めて日時を指定した。


「じゃあこの日、この時間に俺の店来て俺を指名して?わかった?」

「…っ、わかった」


俺からメモを受け取り、書かれた日付を眺めているこいつが何を考えてるのか…何がしたいのか全くわからない。

これ以上詮索されたくもないし関わりたくもないけど、もし店に来るようなことがあったとしても、これは使えるかもしれない。

俺は、自分のの為に上手い事こいつを利用する事にしたんだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

優しい檻に囚われて ―俺のことを好きすぎる彼らから逃げられません―

無玄々
BL
「俺たちから、逃げられると思う?」 卑屈な少年・織理は、三人の男から同時に告白されてしまう。 一人は必死で熱く重い男、一人は常に包んでくれる優しい先輩、一人は「嫌い」と言いながら離れない奇妙な奴。 選べない織理に押し付けられる彼らの恋情――それは優しくも逃げられない檻のようで。 本作は織理と三人の関係性を描いた短編集です。 愛か、束縛か――その境界線の上で揺れる、執着ハーレムBL。 ※この作品は『記憶を失うほどに【https://www.alphapolis.co.jp/novel/364672311/155993505】』のハーレムパロディです。本編未読でも雰囲気は伝わりますが、キャラクターの背景は本編を読むとさらに楽しめます。 ※本作は織理受けのハーレム形式です。 ※一部描写にてそれ以外のカプとも取れるような関係性・心理描写がありますが、明確なカップリング意図はありません。が、ご注意ください

仕方なく配信してただけなのに恋人にお仕置される話

カイン
BL
ドSなお仕置をされる配信者のお話

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

処理中です...