魔女の最後はハッピーエンドですか? バッドエンドですか?

椿セシル

文字の大きさ
1 / 3

出会い

しおりを挟む
どうして自分が同じ魔女に狙われているのか、その理由もわからずにシャロンは必死に走って、自分を攻撃してくる魔女から逃げていた。
 どうして? どうして? そんな事を考えながら、必死に能力を持たない人間の居住区の入り口を目指していた。



この世界には魔力を能力を持った魔女と呼ばれる存在と、能力を持たない普通の人間が上手く共存していた。
 普段は、魔女は魔女の居住区で人間は人間の居住区で生活をしており、必要以上の交流は持たないのが普通であった。
 魔女はその血を薄めない為に古より魔女同士で、所謂女性同士でのセックスで子を成す。そこは、男女の営みで子を成す人間とは違う。
 人間は、その技術力を提供し、魔女はその魔力で人間が作り出した兵器では倒せない魔物を妖と呼ばれる存在を屠る事で、上手く共存していた。
 同じ魔女に狙われているシャロンが、人間の居住区を目指しているのには理由があった。
 魔女は人間の居住区で能力を使ってはいけないと決められているのだ。特別な事が、妖が現れた等の特殊な事情がない限りは魔力を使ってはいけないと決められているのを、シャロンも知っていた。
 だから、人間の居住区へと逃げ込もうと考えたのだ。
 シャロンも魔女なのだから、魔力を行使して自分を狙ってくる魔女を攻撃して撃退すればいいだけと、そう思うかもしれないが、シャロンには同じ魔女を攻撃出来ないと言う、攻撃するのが怖いと言う欠点があった。



能力を持たない人間だって、軍事力を行使して戦争をする様に、魔女の世界でも争いはある。
 争いになれば、魔力を行使して敵となった魔女と争う事になる。自分の命が掛かってるとなれば、昨日までの友人が容赦なく牙を向けて襲ってくる。それが戦争であり、争いである。
 命のやり取りが行われている戦場で、同じ魔女だからと言って、攻撃出来ないのは致命傷であり、相手に標的にされてしまう。
 シャロンは、その事で施設にいた時から、何度も教官に叱られていたのだが、最後までシャロンが同じ魔女を攻撃出来る様にはならなかった。
 優しい女の子なのはいいのだが、攻撃出来ないことで、抵抗出来ない事で、シャロンは施設でいじめの対象になっていた。
「アイリス、ハクア助けて」
 施設時代に、自分を助けてくれた二人の名を呼びながら、シャロンは必死に走る。
 攻撃を受けた背中と腕からは、出血が止まらない。
 意識も薄れてきた。
 それでも、シャロンは何とか人間の居住区への入り口に到達すると、扉を開いて人間の居住区に逃げ込む事に成功した。
 扉を閉める時に、チッ! と自分を追っていた魔女の舌打ちが聞こえた気がしたが、シャロンはこれで助かったと、ふらつく足で歩き始めた。
 入口の近くに居ては、追ってに囚われる可能性があった。シャロンは、必死に入口から遠ざかると、人の居そうな場所を探し始めた。



さすがにこの出血量はマズイと、シャロンは治癒の魔法を掛けるが予想通りで自分には効果は無い様だ。
 他人の治癒は出来るのに、何故か自分には効果は全くない。

 他の魔女は、自分にもしっかりと効果があるのに、どうして私は駄目なのか? シャロン自身その理由はわからなかった。
 病院に行けばいいのだが、生憎とお金は持っていないし、病院の場所もわからない。
 シャロンは、そのまま倒れこんでしまった。
(私、ここで死ぬんだ。一度でいいから恋愛してみたかったな)
 シャロンも年頃の女の子である。
 恋愛に興味のある女の子だった。
「貴女大丈夫! 酷い怪我じゃない! 」
 薄れゆく意識の中で綺麗な声を聞いた気がしたけれど、そこでシャロンの意識は途切れてしまった。
「侑李、早く運んで! 」
「はいお嬢様! 」
 少女に侑李と呼ばれた少女は、小柄なシャロンを担ぐとそのまま車に押し込む。
 それを確認すると、侑李と呼んだ少女も車に乗り込んだ。



取り敢えず、父の会社の息の掛かった病院に運ぶ事にして、運転手にそう支持を出すと、少女は侑李と呼んだ少女と顔を見合わせる。
「鈴羽様、彼女もしかして」
 鈴羽と呼ばれた少女は、この国を代表する大企業の令嬢である。
 名を鈴宮鈴羽と言う。
 鈴羽に侑李と呼ばれた少女は、紅侑李。侑李は幼い頃に両親を亡くしてからは、両親の友人だった鈴宮の家でお世話になっている。今は、鈴羽の世話係をしている。
「ええ、多分魔女よね」
 魔女と人間の見た目は同じだが、意識を失っている少女は魔女の証であるペンダントを身に着けている。
 そのペンダントに二人は見覚えがあった。
 数年前に、魔女と人間の代表が会談をした際に魔女の代表が同じペンダントを身に着けていたのを、二人は覚えていたのだ。
 彼女が魔女である事はわかったが、どうして彼女が大怪我を負って、人間の居住区にいるのか、それが二人にはわからなかった。
 近年は、魔女と人間の間に交流もそれなりにはあるが、基本人間は魔女の居住区に踏み入る事はないし、魔女も必要がなければ人間の居住区に訪れる事は滅多にないのだ。
 その事を知っている二人には、魔女の少女が人間の居住区で大怪我をして倒れている事の意味を知る術はないと、少女を病院に運ぶと鈴羽は父親に連絡を入れる。

 

父親に事情を話し終えて、少女の容態を聞きに行くと、先に医師から少女の容態を聞いていた侑李が、驚いた顔をして固まっていた。
 侑李の表情から、少女の容態が良くないのかと、鈴羽がベッドで横になっている少女の元に行くと、少女はすうすうと静かな寝息を立てて眠っていた。
「あへぇっ? 」
 病院に運ぶ前は、大怪我を負って間違いなく絶命してもおかしくない程の出血量だった筈なのに、今ベッドで幸せそうに眠っている少女は、血色も良く、とても大怪我を負って倒れていた少女とは思えない。その姿に鈴羽は令嬢らしからぬ奇声を発してしまった。
「どう言う事なの? 」
 治療を担当した医師に尋ねたが、医師も何がなんだかと言った顔で、どう説明してもいいのかと、困り果てた顔をしている。
「鈴羽様、少しよろしいでしょうか? 」
 何とか平常心に戻った侑李が、未だに状況を飲み込めないでいる鈴羽に声を掛ける。
「何かしら? 侑李は何か知ってるのかしら? 」
 侑李は、確証はありませんがと言うと、以前聞いた話を鈴羽に話し始めた。
 魔女には、自分達とは違って自己回復能力があるのだと、その能力がどの程度までの傷に対応出来るのかは、侑李にもわからないが、人間にも他人より治癒が早い人がいるのと同じで、目の前で寝ている少女も、治癒が早いのではないかと、侑李が話すと治療を担当した医師も、その事を思い出したのか、自分も聞いた事があると、ですからその可能性が高いと思われますと、侑李の話に賛同した。



侑李の話を聞いても、正直鵜呑みにする気にはなれなかった。
 例え魔女に、自己回復能力があるのだとしても、この少女が他の魔女よりも、その能力が高いのだとしても、彼女は死にかけていた筈だ。
 助からない可能性も視野に入れて、それでも一縷の望みを掛けて鈴羽は病院に運んだのだ。例え彼女が助からなかったとしても、目の前で苦しんでいる少女を、大怪我を負って倒れた少女を放っておく事なんて、鈴羽には絶対に出来なかった。
 治療が上手くいったとしても、彼女が目を覚ます保証もないし、目を覚ましても、まともに話せるかもわからない。それでも一命だけは取り留めて欲しいと言う思いだった、
 しかし、目の前で眠っている少女は、大怪我を負っていたのが夢だったかの様に、傷一つない。
(彼女は何者なの? ただの魔女? それとも……)
 それともの後は、何も思いつかなかった。
 思いつく筈なかった。当然だと鈴羽は思う。だって、私は魔女の事を殆ど知らないのだから、いくら大企業の令嬢と言っても、魔女に対する知識は、周りの人間とほぼ変わらない。
 自分達と違って、魔力を持っていて妖と呼ばれる魔物を退治してくれる存在である事と、血を薄めない為に、人間とは違って女性同士で性行為を行って子を成す事位しか知らない。
 侑李が話してくれなければ、魔女に自己回復能力がある事すら知らなかったのだ。
「この娘、私の家に連れて帰っても大丈夫かしら? 」
 自宅に連れ帰って、彼女に色々と話を聞きたかった。どうして怪我をしていたのか、魔女の居住区はどうなっているのか? 魔女の寿命は人間と変わらないのか? それ以外にも聞いてみたい事は沢山あるし、何よりここでは、彼女が目を覚ました時に不安がるかもしれない。
 魔女の居住区には、男性は存在していないと聞いている。だから、彼女が目を覚ました時に男性がいたら、彼女が驚いてしまうかもしれないと鈴羽は考えて、医師に尋ねたのだ。
「問題ありません。傷は完全に治っていますので」
「侑李、車を呼んで」
「わかりました」
 医師の許可が出たので、鈴羽は侑李に車と彼女を運ぶ人員を呼ぶ様に指示を出すと、自分より少し年下に見える彼女の頭を撫でていた。
「貴女は一体何者なの? 」
 初めて出会った魔女の少女に、鈴羽はそう呟いていた。



タワーマンションの最上階のワンフロア全てが、鈴羽と侑李の住む部屋だった。
 侑李が少女を、客間のベッドに寝かせると二人共まだ夕食を食べていない事を思い出して、制服から着替えるとキッチンで夕食を作り始めた。基本家事を全て侑李に任せている鈴羽は、料理を含めた家事は全く出来ないのだ。
 鈴羽も制服から着替えると、ベッドで眠る少女の様子を眺めながら、魔女と言う存在について考えていた。
 国を代表する大企業のトップである父とその父を支える母なら、魔女について何か知っているかもしれないと、車の中で電話をして聞いてみたのだが、二人共魔女に何度か会った事はあるが、魔女そのものについては何も知らないとはっきり言っていた。
 いくら国を代表する企業のトップでも、例え首相クラスの人間であったとしても、魔女と呼ばれる彼女達がどういう存在であるのかは知らないのだと、父も母も話してくれた。
 下手に彼女達に踏み込まないと言うのが、妖から人間を守る条件。そう魔女の居住区を統べる魔女の女王から言われている。
 その約束を違えてしまえば、二度と魔女は妖から人間を守らないと言われてしまっては、いくら国のトップでも約束を破る訳には、魔女と言う存在を深く追求する事は出来なかった。
 首相をはじめとした国のトップに立つ人物とも交流のある父や母も、人間が知れる範囲でしか魔女を知らない。
 鈴羽はありがとうと言うと、両親に暫らく助けた魔女を住まわせるから、もし魔女側から、彼女を戻す様に要請があったらすぐに連絡をして下さいと伝えると電話を切った。
 結局は、彼女の事を魔女の事を殆ど知る事は出来なかった。
「貴女は天使? それとも悪魔? 」
 未だ目を覚まさない少女に、鈴羽はそう呟いて彼女の頬を撫でていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

乳首当てゲーム

はこスミレ
恋愛
会社の同僚に、思わず口に出た「乳首当てゲームしたい」という独り言を聞かれた話。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...