このアマはプリーステス

川口大介

文字の大きさ
13 / 36
第二章 宗教団体が、いろいろと、企んでる。

しおりを挟む
「っっ!」
 エイユンの拳二つ分くらいの太さの、光の柱がソウキの上体を捕らえて突き上げた。拳を打ち込むべく前傾していたソウキの胸に、天空へと向かう光の滝が命中する。
 その圧力に、ソウキはあっという間に高く高く打ち上げられてしまった。……やがて光が消え、うつ伏せのまま落ちてきたところを、エイユンに受け止められる。
 エイユンはソウキの体を返し、仰向けにして抱きかかえた。ソウキは四肢に力なく、ぐったりとしている。どうやら気絶しているようだ。
「うん、どうやら大丈夫のようだな。なにしろこれほどの相手だ、うまく加減できるかどうか不安だったが……」
「加減、ね」
 ジュンはエイユンが杖を叩き付けたところを見た。そこには今の光の柱と同じ太さの、きれいな円形の穴が開いている。穴というか、これはもう細いとはいえ殆ど井戸だ。暗いせいもあるが、底が全く見えない。
 ジュンには気光とやらの知識はないが、とりあえず魔術に近いものだというのは解った。杖の先端に爆破の魔術を宿らせて地面に放ち、吹き上がった爆圧を浴びせたということか。
 しかも威力が拡散しないよう、この井戸と同程度の直径に凝縮させてのことだ。いわば、決して壊れぬ煙突の中での爆発事故のようなもの。その威力は、底の見えない細めの井戸で証明済み。そんなものをまともに胸に受けて突き上げられた……考えるだけで恐ろしい。
「大丈夫なのか、その子」
「加減したと言っただろう。それにこの子は、絶え間なく全身に気光の防御壁を張って戦っていた。君には見えなかっただろうが、いわば鎧を着ていたようなものだ」
「気光の鎧、か。つまりアンタの今の技を、丸ごと全部食らったわけではないんだな」
 丸ごと全部食らってたら死んでてもおかしくないなと思いながら、ジュンはその一方、ソウキの力量にも感服していた。あんな形でカウンターを受けながら、しっかりと防御できていたとは。拳の破壊力のみならず、防御においてもそこまでのことができるとは。
 エイユンはソウキを地面にそっと横たわらせながら、呟くように言った。
「この子は今の強さに至るのに、血を吐くような修行を重ねてきたはずだ。私を見据えた眼光の鋭さと、真っ直ぐな拳筋を見ても、真摯な武術家であることはよく解る。だから私は、この子が金だけの為にこんな悪事に加担するとは思えない」
「……なあ、エイユン」
 エイユンは気絶したソウキの傍で、ソウキを見守るように片膝を着いている。
 その背中を見下ろして、ジュンはずっと考えていたことを口にした。
「本当の古代神が、こんな金儲け事件に関係してるはずはないって説明したよな。実は、一つだけ例外がなくもないんだ。世界中に知られている伝説を否定すれば、の話になるが」
「ほう。それは?」
 エイユンは片膝を着いた姿勢のまま振り向いた。
「前に言った通り、極々稀なことではあるけど、大昔の僧侶や魔術師は古代神・魔王と契約を結び、地上界に降ろし、その力を直接借りることができた。で契約した人間が、より具体的に直接の指示命令をするためには、【契約】から続いて【従属】という段階に進む必要があるんだ」
「【契約】だけでは不足なのか? 力は貸してくれるのだろう?」 
「同盟国と従属国の違いってとこだな。同盟国は援軍をよこしてくれるが、自国の指揮下には入ってくれない。だが従属国なら、部下扱いで言うことを聞かせられる」
「なるほど。だが、小国が大国に従属するのは、第三国の侵略から守ってもらうというメリットがあるが、古代神・魔王が人間に従属するメリットなどあるのか?」
「これも前に言ったけど、地上界には結界が張られてる。この結界は連中が地上界に入ってしまってからも有効で、その力を大幅に弱める効果があるんだ。古代神・魔王の力による地上界の破滅を防ぐのが目的の結界だから、こういう効果があるってのは当然だな」
「ということは……もしや、【従属】になればその弱体化効果を消せるのか?」
 ジュンは頷いた。
「完全にゼロにはならないけど、そうだ。ほんと、大昔の僧侶や魔術師は凄いよ。世界の創造に関わった古代神・魔王が寄ってたかって作った結界だぞ? それを局地的にとはいえ破ってしまう術を、人間の身で作ってしまうんだから。今じゃ考えられない話だ」
 つまり古代神・魔王が地上界で存分に力を振るいたければ、【従属】するしかない。だが【従属】してしまうと、術の効果により契約相手の人間の命令には逆らえなくなる。
 だから、その人間の目的と古代神・魔王の目的とが一致した場合は、【従属】してしまってもいいというか、した方が得なわけだ。
 例えば、「地上界で暴れるジェスビィを討伐する」という条件で僧侶に【従属】したのであろう、アルヴェダーユのように。これならば、その条件に反する命令は元々されない(命令しても契約外なので無効)。ジェスビィを討ちたいという自分の意思の元、地上界で全力を振るえることになる。    
「で、長くなったけどこれが最後のポイント。契約目的を完遂しない限り、契約した人間が死んでも、弟子やら子孫やらが引き継ぐ形で継続は可能なんだ。但し、その場合【従属】は解消されるので、新たに儀式を行う必要がある。だがそれには金がかかる。といっても相手の神や魔王に払うわけじゃなくて、儀式に必要な道具類なんかが高価ってこと」
「つまり、かつてアルヴェダーユと契約した者の子孫か何かがいて、その者の身には【契約】が継続されており、これから【従属】の儀式を行おうとして金を集めていると?」
「ああ。それなら筋が通る。けどアルヴェダーユの契約が継続しているとしたら、今この時にもジェスビィが健在であることになる。かつて地上界を滅ぼしかけた大魔王がだ」
「ふぅむ。君がさっき言った、伝説の否定というのはそういうことか。確かに、アルヴェダーユとジェスビィの伝説が丸ごと全部ウソであるか、あるいはジェスビィがアルヴェダーユに倒されたというのがウソであるか、はたまたアルヴェダーユの契約内容がジェスビィと関係のないものか。そういうことでなければおかしいな」
「この伝説は世界中に伝わっていて、民間伝承も公式文献も山ほどある。それがウソだなんてことはまず考えられない。だから俺は、アルヴェダーユの使徒だと名乗るこいつらはニセモノだ、と言ったんだ」
 ジュンの説明を聞き、エイユンも納得した。いや、ジュンの説明には納得したが、やはりソウキのことについてはまだ納得しきっていない。この子に、一体どんな事情があるのだろうか。
 エイユンが考え込んでいると、その目の前で横たわっているソウキが、呻き声を上げた。
「ぅ……っ」
 目を開けたソウキは、自分を見下ろしているエイユンとジュンの存在を確認する。
 そして自分が倒れていること、自分が敗れたことを理解した。
「気がついたようだな。深刻なケガはしていないと思うが、具合はどうだ?」
 ソウキは無言で体を起こす。エイユンが語りかけた。
「アルヴェダーユとジェスビィの話、ここにいるジュンから詳しく聞いた。ソウキ、君はその腕を見込まれ、教団に騙されて働かされているのではないか? 私はそう思うのだが」 
「……もしそうなら、みんなに謝ってお金を返して、シャンジル様やカズートス様と一緒に僕も刑に服せば、それで万事めでたしだね。けど、そうはならない。なってくれたらどんなにいいかと思うけど、残念ながら全て真実だから」
 なにやら自嘲気味に語るソウキに、エイユンの後ろからジュンが言った。
「いや、だからだな。お前が「本物のジェスビィやアルヴェダーユと関わってる」と思い込んでること自体、シャンジルたちに騙されてるんじゃないかってことだよ。連中に何を吹き込まれたか知らないけど、ジェスビィが今もこの地上に存在するなんて考えられない」
「吹き込まれた? とんでもない。僕はシャンジル様に出会うよりずっと前から、ジェスビィとは長い付き合いだよ。とくにこういう、手痛い目に遭った時には……僕、が、弱ってしまうせいか……離れろっ!」
 突然、ソウキはエイユンを突き飛ばした。離れろ、と言いながら自分も、まだ足腰は立たないのか手だけで這うようにして、エイユンたちから離れていこうとする。
 何が何だかわからないエイユンはソウキを追おうとする。が、その前進は止められてしまった。のみならず、ずるずると押し返されてしまった。
 風? 違う。気光? 違う。だが抗い難い何かの力が、ソウキからどんどん溢れ出してエイユンを押している。その後ろに立つジュンも。
「何だ? 魔力、なのか? エイユン、とにかく下がれ! 何だか解らんがこれは異常だ! どう考えても、人間のものじゃない!」
 片膝立ちだったエイユンの肩を後ろから掴んで、ジュンが強引に後ろへ引っ張った。
 エイユンも混乱があったので、大人しく引っ張られて後退する。いや後退するまでもなく、エイユンが自分から後退したくなるほどの圧力が、息苦しさが、押し寄せてくる。
 ソウキが先ほど言っていた言葉。あれから考えられることが一つある。
 そのことにジュンとエイユンは同時に思い至り、そして目の前でそれは証明された。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あべこべな世界

廣瀬純七
ファンタジー
男女の立場が入れ替わったあべこべな世界で想像を越える不思議な日常を体験した健太の話

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
 女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!  HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。  跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。 「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」  最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!

なぜ、最強の勇者は無一文で山に消えたのか? ──世界に忘れられ、ひび割れた心のまま始めたダークスローライフ。 そして、虹の種は静かに育ち始め

イニシ原
ファンタジー
ダークスローライフで癒しに耐えろ。 孤独になった勇者。 人と出会わないことで進む時間がスローになるのがダークスローライフ。 ベストな組み合わせだった。 たまに来る行商人が、唯一の接点だった。 言葉は少なく、距離はここちよかった。 でも、ある日、虹の種で作ったお茶を飲んだ。 それが、すべての始まりだった。 若者が来た。 食料を抱えて、笑顔で扉を叩く。 断っても、また来る。 石を渡せば帰るが、次はもっと持ってくる。 優しさは、静けさを壊す。 逃げても、追いつかれる。 それでも、ほんの少しだけ、 誰かと生きたいと思ってしまう。 これは、癒しに耐える者の物語。 *** 登場人物の紹介 ■ アセル 元勇者。年齢は40に近いが、見た目は16歳。森の奥でひとり暮らしている。 ■ アーサー 初老の男性。アセルが唯一接点を持つ人物。たまに森を訪れる。 ■ トリス 若者。20代前半。アーサー行方不明後、食料を抱えて森の家を訪れる。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...