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第二章 宗教団体が、いろいろと、企んでる。
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「ぅおおおおおおおおぉぉぉぉっ!」
ソウキが吼え、唐突に立ち上がった。
あの異様な圧力は、もうエイユンたちを押しては来ない。だがなくなってはいない。今まで、煮えたぎる鍋の蓋の隙間からぐらぐらと溢れ出ていた大量の湯気が、蓋を強く押さえることで漏れなくなったような感じだ。つまりソウキの中で、あの圧力はまだ弱ることなく熱いまま、凝縮されて存在している。
ソウキという鍋が、割れてしまわないのが不思議なほどの圧力。その正体は、ソウキの頭上に湯気のような、蜃気楼のような、薄く透ける姿を晒してみせた。
「っっ! ま、まさか、本当に!?」
「あれを知っているのかジュン?」
「いや、そりゃ直接見たことはないけど、伝説に語られている通りの姿で……というか、アンタにも想像はつくだろ? ここまでの流れを考えれば」
ジュンの言う通り、エイユンもついさっき考えたことだ。
「では、あれが……」
ゆらりと立つソウキの頭上に、ゆらりと上半身のみを見せている人物。
血のような紅い髪を振り乱し、それと同じ色のドレスを纏った、恐ろしげな形相の美女。
その視線だけで、弱い者ならば心を射抜かれ気を絶してしまいそうな、この世のものとは思えぬ力に満ち満ちた存在。
「……古代魔王ジェスビィ……」
ジュンとエイユンから少し離れた建物の陰で、カズートスが声を漏らす。
その声が聞こえたのか、ソウキがいきなり走った。ジュンとエイユンには目もくれずカズートスの元まで一直線、問答無用の拳一撃で、カズートスを殴り倒す。倒れたカズートスを、まだまだ許さぬとばかりに、ソウキは滅茶苦茶に踏みつけた。
「ええい、憎々しい憎々しい! 貴様が、貴様らが、我が名を口にすることすら汚らわしい! よいか、シャンジルに伝えよ! 私は、必ずやこの魂を喰らい尽くして我が物とし、この手でアルヴェダーユを倒す! 貴様の思い通りにはさせんとな!」
全身アザだらけ足跡だらけにされたカズートスが、ゴミのように蹴り飛ばされた。伝えよも何も、踏みつけ始める前の拳一撃で、とっくにカズートスは意識を失っていたのだが。
ソウキは舌打ちしてから振り向いて、ジュンとエイユンに向かって歩いてきた。
「貴様らも、シャンジルめの一味か」
「え。い、いや、俺たちはシャンジルの教団とは敵対してるんだ。なあエイユン」
「悪霊よ。ソウキの気配がほぼ消えてしまっているようだが、何をした?」
ジュンの呼びかけを無視して、エイユンはソウキに尋ねた。いや、ソウキの体を借りて喋っている紅い女、ジェスビィに尋ねた。
ソウキの頭上に浮かぶジェスビィと、ソウキ本人の顔が、糸で繋がる操り人形のように、同時に歪められた。そして同じように口を動かし、二人分の声を重ねて言葉を紡ぐ。
「悪霊、と言ったのか?」
「ああ言った。いたいけな少年に取り憑いてその体を弄ぶ、汚らわしく邪な醜さ極まる魂とでも言い換えた方が良いか?」
「エイユンエイユン、ちょっと黙ってくれっ。どうやらあいつ、本当に本物の……」
ジュンはエイユンを止めようとしたのだが、手遅れだった。激怒したソウキが、すなわちジェスビィが、獣のように吼えて襲いかかってくる。
相変わらず、常人離れした速度の踏み込みだ。エイユンとジュンは左右に分かれて跳び退り、その一撃をかわす。ソウキは勢い余って駆け抜け、風の唸りを響かせた。
ついさっき、危うくソウキに追い詰められるところだったジュンは冷や汗をかく。まして今は、あの伝説の古代魔王・ジェスビィがその体を操っているらしいのだ。だがエイユンはどうせ、操られているかわいそうな美少年・ソウキを全力では攻撃できないだろう。
一刻も早く、魔術を叩き込んで有無を言わさず倒した方がいい。ジェスビィはどうやらソウキの体に縛られているようだから、その体を打って気絶させれば何とかなるだろう。
「よしいくぞっ! 今度もその、気光とやらで防げるもんなら防いでみやがれっ!」
ジュンは自分の中にある魔力を高め、術を用いて火に変換する。カズートスたちに使ったような小さなものではない、右の拳を包み込むそれは、拳の二倍以上ある火の玉だ。
駆け抜け、戻ってくるソウキに狙いを定め、ジュンが火を纏わせた拳を構える。すると、
「待てジュン!」
ソウキよりも先に、ソウキ以上のダッシュでエイユンが来た。ジュンに背中を押し付け、ソウキとの間に立ちはだかる。
「エイユン? 何をする気だ!」
「君も解っているだろう。今のあの子は操られているだけだ。傷つけるわけにはいかない」
「だ、だからって、」
「任せろ。たとえ神に仕えていなくとも、私は尼僧、聖職者。悪霊の相手は専門分野だ」
そのエイユンの言葉に、ソウキの形相が更に険しくなった。足を止めて、吠える。
「き、貴様、また言ったな! この私を悪霊だとおおぉぉ!」
「先程も言ったであろう。いたいけな少年の体を、己が欲望のまま自由にしているお前に、神だの魔王だのと大層なものを名乗る資格はない。この機会に、淫乱色魔とでも名乗れ」
「だからエイユン、いちいちそう無意味に怒らせなくてもっ」
と言うジュンに、エイユンはソウキの方を向いたまま、小声で答えた。
「怒らせる意味ならあるぞ。ソウキは今、明らかに弱くなっている。なぜだか解るか?」
「え? 弱くなってる?」
「ああ。踏み込みも拳も遅くなっている。その理由は、ジェスビィが気光の使い方を知らないせいだ。気光は、体外に放出されるものだけではない。体内で、筋力や感覚を向上させることもできるのだ。それができないということは……下がっていろ、ジュン!」
「死ねええええええええぇぇぇぇっ!」
ソウキが来た。下がっていろと言われたジュンは後退して、ソウキとエイユンを見る。少し落ち着いてソウキを観察すると、速さの差までは判らないものの、全身の動かし方が前ほど滑らかでないのは見て取れた。
エイユンは、向かって来るソウキに対してまっすぐ走った。杖は左手に持って、右手は拳を握り込まず力を抜いて、走るリズムに合わせて自然に動かしているだけだ。
杖がある分、エイユンの方がリーチは長いので、先に攻撃の間合いに入る。接近した二人がその間合いに入ると、エイユンは左手の杖で脚払いを仕掛けた。
ソウキはそれを跳んでかわす。といってもエイユンに頭上から襲い掛かるような大ジャンプではない。エイユンの杖のギリギリ上を掠めるように、走り幅跳びよろしく前方へと跳んだのだ。ここまで走ってきた勢いを殺すどころか、むしろそれを助走として勢いをつけ、跳躍することによって一気に加速し、エイユンに肉薄してその顔に拳を叩き込む!
「ソウキ本人でも、そう動いただろうな。だがソウキ本人ならきっと、いや間違いなく、もっと速かったはずだ」
ソウキの拳はエイユンの顔面を砕くことなく、紙一重でかわされた。ソウキの右拳が、エイユンの右耳を掠め、長い黒髪が風圧によってふわりと揺れる。
「加えて、怒りに狂い我を忘れたお前の技の荒さは、ソウキの洗練された鋭い拳脚とは、もはや比較にならぬほど雑だ」
水が低きに流れるような動きで、ソウキの攻撃をするりと回避しながら前進したエイユンは、そのまますれ違うかに見せて、右掌をソウキの胸に当てた。その掌で一瞬、眩い光が炸裂すると、ソウキの体が激しく吹っ飛ぶ!
「がああああぁぁぁぁっ!」
ソウキの、いやジェスビィの苦悶の悲鳴が響き渡る。
飛ばされたソウキが、受身も取れずに地面に落下した。そしてエイユンに触れられた胸、強い光を放っている胸を、掻き毟って悶絶している。どうやらかなりの苦痛らしく、ソウキは立ち上がるどころではなく、地面をごろごろと転がり回ることしかできずにいる。
「さっき、傷つけるわけにはいかない、とか言ってなかったか?」
苦しむソウキをこわごわ見ながら、ジュンがエイユンに近づいていく。
エイユンはソウキの様子から目を離さずに答えた。
「傷つけてはいない。言っただろう? 悪霊の相手は専門分野だと。今のも気光の技で、ソウキの肉体をムリヤリ操っている悪霊のみを焼くものだ。ソウキ自身には傷はつかない」
「そりゃまた便利だな。けど、ジェスビィがこんな簡単に一発でやられるはずはないぞ」
「ああ。それは今の手応えからも解っている。だが少し妙だったな」
「妙?」
「奴はまだ全力を出していない。自分の力を抑えているようなんだ。あれほどの憤怒が演技とは思えないんだが、これは一体……」
二人が見ている前で、ソウキは息を荒げて立ち上がった。
掻き毟っていた胸は、武闘着がズタズタに引き裂かれて胸が顕わになっている。薄く白い胸板に赤い爪痕が何条も刻まれて、その引っ掻きの成果なのか、光は消えたようだ。
「ソウキを傷つけたくはなかったが、そこまで強引に私の気光を潰してしまうとはな。淫乱とはいえ流石は古代魔王、といったところか」
今度のはジュンにもわかる。胸を引っかいていた時、ソウキは爪を通じて体内に魔術を流し込んでいたのだ。高めた魔力を術に変換し、それを改めて体内に戻す。自分の体内に流し込まれた毒(エイユンの気光)を消すために、強力な薬を使ったわけだ。
だが、自身をあそこまで苦しめるほどの毒だ。それを打ち消す薬となると、余程の強さでなくてはならない。そしてそんなものが、体にいいはずがない。
結果としてソウキは、毒は中和できたものの多大なダメージを残してしまったのだ。その苦痛に顔を歪めながら、ソウキは低い声で言う。
「どうやら、貴様らを侮っていたようだ……この体を操っての体術では、貴様らを始末できんらしい……だが、我が本分たる魔術ならば!」
ソウキが吼え、唐突に立ち上がった。
あの異様な圧力は、もうエイユンたちを押しては来ない。だがなくなってはいない。今まで、煮えたぎる鍋の蓋の隙間からぐらぐらと溢れ出ていた大量の湯気が、蓋を強く押さえることで漏れなくなったような感じだ。つまりソウキの中で、あの圧力はまだ弱ることなく熱いまま、凝縮されて存在している。
ソウキという鍋が、割れてしまわないのが不思議なほどの圧力。その正体は、ソウキの頭上に湯気のような、蜃気楼のような、薄く透ける姿を晒してみせた。
「っっ! ま、まさか、本当に!?」
「あれを知っているのかジュン?」
「いや、そりゃ直接見たことはないけど、伝説に語られている通りの姿で……というか、アンタにも想像はつくだろ? ここまでの流れを考えれば」
ジュンの言う通り、エイユンもついさっき考えたことだ。
「では、あれが……」
ゆらりと立つソウキの頭上に、ゆらりと上半身のみを見せている人物。
血のような紅い髪を振り乱し、それと同じ色のドレスを纏った、恐ろしげな形相の美女。
その視線だけで、弱い者ならば心を射抜かれ気を絶してしまいそうな、この世のものとは思えぬ力に満ち満ちた存在。
「……古代魔王ジェスビィ……」
ジュンとエイユンから少し離れた建物の陰で、カズートスが声を漏らす。
その声が聞こえたのか、ソウキがいきなり走った。ジュンとエイユンには目もくれずカズートスの元まで一直線、問答無用の拳一撃で、カズートスを殴り倒す。倒れたカズートスを、まだまだ許さぬとばかりに、ソウキは滅茶苦茶に踏みつけた。
「ええい、憎々しい憎々しい! 貴様が、貴様らが、我が名を口にすることすら汚らわしい! よいか、シャンジルに伝えよ! 私は、必ずやこの魂を喰らい尽くして我が物とし、この手でアルヴェダーユを倒す! 貴様の思い通りにはさせんとな!」
全身アザだらけ足跡だらけにされたカズートスが、ゴミのように蹴り飛ばされた。伝えよも何も、踏みつけ始める前の拳一撃で、とっくにカズートスは意識を失っていたのだが。
ソウキは舌打ちしてから振り向いて、ジュンとエイユンに向かって歩いてきた。
「貴様らも、シャンジルめの一味か」
「え。い、いや、俺たちはシャンジルの教団とは敵対してるんだ。なあエイユン」
「悪霊よ。ソウキの気配がほぼ消えてしまっているようだが、何をした?」
ジュンの呼びかけを無視して、エイユンはソウキに尋ねた。いや、ソウキの体を借りて喋っている紅い女、ジェスビィに尋ねた。
ソウキの頭上に浮かぶジェスビィと、ソウキ本人の顔が、糸で繋がる操り人形のように、同時に歪められた。そして同じように口を動かし、二人分の声を重ねて言葉を紡ぐ。
「悪霊、と言ったのか?」
「ああ言った。いたいけな少年に取り憑いてその体を弄ぶ、汚らわしく邪な醜さ極まる魂とでも言い換えた方が良いか?」
「エイユンエイユン、ちょっと黙ってくれっ。どうやらあいつ、本当に本物の……」
ジュンはエイユンを止めようとしたのだが、手遅れだった。激怒したソウキが、すなわちジェスビィが、獣のように吼えて襲いかかってくる。
相変わらず、常人離れした速度の踏み込みだ。エイユンとジュンは左右に分かれて跳び退り、その一撃をかわす。ソウキは勢い余って駆け抜け、風の唸りを響かせた。
ついさっき、危うくソウキに追い詰められるところだったジュンは冷や汗をかく。まして今は、あの伝説の古代魔王・ジェスビィがその体を操っているらしいのだ。だがエイユンはどうせ、操られているかわいそうな美少年・ソウキを全力では攻撃できないだろう。
一刻も早く、魔術を叩き込んで有無を言わさず倒した方がいい。ジェスビィはどうやらソウキの体に縛られているようだから、その体を打って気絶させれば何とかなるだろう。
「よしいくぞっ! 今度もその、気光とやらで防げるもんなら防いでみやがれっ!」
ジュンは自分の中にある魔力を高め、術を用いて火に変換する。カズートスたちに使ったような小さなものではない、右の拳を包み込むそれは、拳の二倍以上ある火の玉だ。
駆け抜け、戻ってくるソウキに狙いを定め、ジュンが火を纏わせた拳を構える。すると、
「待てジュン!」
ソウキよりも先に、ソウキ以上のダッシュでエイユンが来た。ジュンに背中を押し付け、ソウキとの間に立ちはだかる。
「エイユン? 何をする気だ!」
「君も解っているだろう。今のあの子は操られているだけだ。傷つけるわけにはいかない」
「だ、だからって、」
「任せろ。たとえ神に仕えていなくとも、私は尼僧、聖職者。悪霊の相手は専門分野だ」
そのエイユンの言葉に、ソウキの形相が更に険しくなった。足を止めて、吠える。
「き、貴様、また言ったな! この私を悪霊だとおおぉぉ!」
「先程も言ったであろう。いたいけな少年の体を、己が欲望のまま自由にしているお前に、神だの魔王だのと大層なものを名乗る資格はない。この機会に、淫乱色魔とでも名乗れ」
「だからエイユン、いちいちそう無意味に怒らせなくてもっ」
と言うジュンに、エイユンはソウキの方を向いたまま、小声で答えた。
「怒らせる意味ならあるぞ。ソウキは今、明らかに弱くなっている。なぜだか解るか?」
「え? 弱くなってる?」
「ああ。踏み込みも拳も遅くなっている。その理由は、ジェスビィが気光の使い方を知らないせいだ。気光は、体外に放出されるものだけではない。体内で、筋力や感覚を向上させることもできるのだ。それができないということは……下がっていろ、ジュン!」
「死ねええええええええぇぇぇぇっ!」
ソウキが来た。下がっていろと言われたジュンは後退して、ソウキとエイユンを見る。少し落ち着いてソウキを観察すると、速さの差までは判らないものの、全身の動かし方が前ほど滑らかでないのは見て取れた。
エイユンは、向かって来るソウキに対してまっすぐ走った。杖は左手に持って、右手は拳を握り込まず力を抜いて、走るリズムに合わせて自然に動かしているだけだ。
杖がある分、エイユンの方がリーチは長いので、先に攻撃の間合いに入る。接近した二人がその間合いに入ると、エイユンは左手の杖で脚払いを仕掛けた。
ソウキはそれを跳んでかわす。といってもエイユンに頭上から襲い掛かるような大ジャンプではない。エイユンの杖のギリギリ上を掠めるように、走り幅跳びよろしく前方へと跳んだのだ。ここまで走ってきた勢いを殺すどころか、むしろそれを助走として勢いをつけ、跳躍することによって一気に加速し、エイユンに肉薄してその顔に拳を叩き込む!
「ソウキ本人でも、そう動いただろうな。だがソウキ本人ならきっと、いや間違いなく、もっと速かったはずだ」
ソウキの拳はエイユンの顔面を砕くことなく、紙一重でかわされた。ソウキの右拳が、エイユンの右耳を掠め、長い黒髪が風圧によってふわりと揺れる。
「加えて、怒りに狂い我を忘れたお前の技の荒さは、ソウキの洗練された鋭い拳脚とは、もはや比較にならぬほど雑だ」
水が低きに流れるような動きで、ソウキの攻撃をするりと回避しながら前進したエイユンは、そのまますれ違うかに見せて、右掌をソウキの胸に当てた。その掌で一瞬、眩い光が炸裂すると、ソウキの体が激しく吹っ飛ぶ!
「がああああぁぁぁぁっ!」
ソウキの、いやジェスビィの苦悶の悲鳴が響き渡る。
飛ばされたソウキが、受身も取れずに地面に落下した。そしてエイユンに触れられた胸、強い光を放っている胸を、掻き毟って悶絶している。どうやらかなりの苦痛らしく、ソウキは立ち上がるどころではなく、地面をごろごろと転がり回ることしかできずにいる。
「さっき、傷つけるわけにはいかない、とか言ってなかったか?」
苦しむソウキをこわごわ見ながら、ジュンがエイユンに近づいていく。
エイユンはソウキの様子から目を離さずに答えた。
「傷つけてはいない。言っただろう? 悪霊の相手は専門分野だと。今のも気光の技で、ソウキの肉体をムリヤリ操っている悪霊のみを焼くものだ。ソウキ自身には傷はつかない」
「そりゃまた便利だな。けど、ジェスビィがこんな簡単に一発でやられるはずはないぞ」
「ああ。それは今の手応えからも解っている。だが少し妙だったな」
「妙?」
「奴はまだ全力を出していない。自分の力を抑えているようなんだ。あれほどの憤怒が演技とは思えないんだが、これは一体……」
二人が見ている前で、ソウキは息を荒げて立ち上がった。
掻き毟っていた胸は、武闘着がズタズタに引き裂かれて胸が顕わになっている。薄く白い胸板に赤い爪痕が何条も刻まれて、その引っ掻きの成果なのか、光は消えたようだ。
「ソウキを傷つけたくはなかったが、そこまで強引に私の気光を潰してしまうとはな。淫乱とはいえ流石は古代魔王、といったところか」
今度のはジュンにもわかる。胸を引っかいていた時、ソウキは爪を通じて体内に魔術を流し込んでいたのだ。高めた魔力を術に変換し、それを改めて体内に戻す。自分の体内に流し込まれた毒(エイユンの気光)を消すために、強力な薬を使ったわけだ。
だが、自身をあそこまで苦しめるほどの毒だ。それを打ち消す薬となると、余程の強さでなくてはならない。そしてそんなものが、体にいいはずがない。
結果としてソウキは、毒は中和できたものの多大なダメージを残してしまったのだ。その苦痛に顔を歪めながら、ソウキは低い声で言う。
「どうやら、貴様らを侮っていたようだ……この体を操っての体術では、貴様らを始末できんらしい……だが、我が本分たる魔術ならば!」
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